Entrance for Studies in Finance

電子マネーの普及と楽天のEdy買収

Rakuten acquires majority interest of bitWallet
Hiroshi Fukumitsu

拡大する電子マネーexpanding electronic money
 少額決済の市場を大きく変えつつあるのは「前払い式の電子マネーprepaid card formed electronic money」である。決済時間が短縮化され、小銭が不要になる。現金のやり取りが省ける。「第二の財布」「第二の通貨」とも呼ばれる。利便性を覚えた高齢者にも普及し始めている。
 2001年にスタートを切ったのはソニー系のEdyだった。しかし弾みがつけたのは2007年の流通系カードの登場だった。
 2007年に相次いでスタートしたNANACOとWAONなど流通系ではポイントの付与が、利用促進を後押しした。2004年にSuicaで始まった交通系は2007年にPasmoがはじまり、さらにPasmo-Suicaの相互利用が認知されるとともに、移動手段にも使える利便性が支持されて、高い普及率を示すようになった。これもPasmoの登場は2007年のことだった。
 いずれも300円から500円程度の発行手数料がかかるが、流通系では利用金額100円ないし200円で1ポイントといったポイント機能がある。付与されているポイントが利用促進に役立っている。一般に値引きよりポイント付与の方が利用促進効果は大きいといわれている。

流通系 07春参入 ポイント制導入で魅力 09/08 7月の月間決済件数でEDYをwaonが抜いて3位に 流通系は発行枚数に比べて決済件数が多く決済に実際使われている特徴 nanaco加盟店1店あたり月間決済件数1350件(09/07)waon加盟店1店あたり月間決済件数859件(09/07) 
nanacoセブン&アイH2007/04/23開始入金上限1枚3万 発行手数料300円が足かせ セブンイレブン07/05末までに全国1万1700店で使用可 08/05イトヨーカ堂で使用可 全日空 JCB ヤフーと連携 507万枚07/10 900万枚09/09(3500万件)
WAONイオン2007/04/27開始ジャスコ ミニストップ 一部店舗から始め2008年度中にSCのテナントを含む23000店で使えるように ローソンと提携交渉07/04 日本航空と提携07/10 ファミリーマートで利用可能に09/10150万枚07/10 1130万枚09/09(2530万件)


 交通系ではポイント制はないものの移動手段としても使える利便性に高い支持が集まっている。

交通系 07/03 pasmoの導入とともにpasma-suica相互利用で利便性高い。急速に普及している。両者を合わせた決済件数は2008年3月にedyをまた2008年6月にnanacoを抜き、その後も急速に伸びている。
SuicaJR東日本2004年から電子マネー機能 07/06よりポイント機能 JR ファミリーマート1970万枚07/03 2254万枚07/10 2735万枚09/09(2837万件)
PASMO首都圏大手私鉄07/03/18導入 Suicaと相互利用可能116万枚07/03 227万枚07/04/02 577万枚07/10 1342万枚09/09(1228万件)


 2009年7月末でこれらの総発行枚数は1憶3000万枚を超え、月間の買い物決済件数は1憶件を超えるようになった。背景には決済端末の価格の低下による、端末の普及がある。2005年頃には20万程度したものが2009年8月には10万円弱程度となっている。
 現在の問題は多数の電子マネーが乱立して、それぞれが顧客を囲い込み、顧客からはどの規格がどこで使えるかわかりにくいことだろう。社会的には加盟店、利用者双方にとって重複投資になっている。決済処理・与信管理も各社ごとに多額の経費がかかっており、これらの経費が消費者の負担になっているとの批判がある。
 ところでカード会社の収益の仕組みは、カード発行会社に利用額の1%前後の手数料が入るというもので、小額決済の場合、1件ごとの利益は大変薄い。またクレジットカードの入金機能を付けると2%前後の手数料が入るというもの(3000円として60円)。現状ではどのカードも決済のところだけでは採算にのっていない。
 技術的にはソニーの非接触IC技術のフェリカは共通。お財布携帯なども同じ。これは非接触型認証(無線自動識別)(RFID:radio-frequency identification)と呼ばれる技術で、電子マネー以外にも様々な応用が可能。無線ICタグ(電子荷札)を使って商品管理・物流管理をするなど。自動販売機メーカーでは複数の電子マネーで購入できる自動販売機の開発を進めているが、非接触IC(integrated circuit集積回路)技術の採用は、新たな金融技術の面で大変興味深い。

ネット通販の順調な拡大を背景に楽天がEdy買収で進出
 電子マネーは種類が増えるとともに競争も激しくなり、とくにソニー系のEdyの不振がめだつようになった。Edyは全日空とのマイレージ交換が注目された以外は決め手を欠いていた。財務的にも破たんし資本不足も明らかだった(01年の開業以来、9期連続の赤字。赤字を度重なる増資で補って債務超過を回避してきた。この債務超過の理由は明らかで店舗におく端末費用の負担が積み上がる一方、手数料収入が伸びないため。事業としてはすでに破綻している)。
 救いの手を挙げたのは楽天。楽天は2009年11月5日にEdyの子会社化を発表した。2009年12月のEdyを運営するビッドワレットbitWalletの第3者割り当て全額約30億円を引き受け50%超を取得するとのこと(ソニー、NTTドコモの出資比率は低下)。
 楽天の狙いはネット市場の決済にEdyを活用することだとみられる。しかし楽天は自社のクレジットカード「楽天カード」をすでに持っている。ネット決済にはクレジットカードが適しているともされるので、外部からみる限り、楽天にとってこの投資は、全く無駄な重複投資にみえる。どうしようもないお荷物に見えるEdyを引き取った楽天の成算がどこにあるのかは外部からは理解不能である。

ビットワレット(2001年創業) ソニー系→楽天系へ 発行枚数は多く見かけの店舗網も大きいが、発行主体と関係付けられた店舗網ではないため、決済利用が進まなかった。スーパー、コンビニが独自カードに進んだことで、将来性は閉ざされた。発行された大半のカードのEdy機能が使われていない。加盟店1店あたり月間決済件数はわずかに174件(09/07)nanacoを進めるセブンイレブンで利用可能になり(09/10 ただしセブンイレブンはsuicaやpasmoの導入も展望している)、楽天の傘下に入り(09/12)さらに今後楽天市場で使えるようになることで復活は可能かは注目されるが、楽天はなぜこういう無駄にみえる投資を続けるのかは不明だが、背景には本業のネット通販事業が順調に拡大していることがある。
一般的に小売業は不況とされるなかで、楽天に限らずネット通販事業の売上高は2桁台(15%から20%)の伸び率で拡大している。背景には消費者の低価格志向があるとされる。加えてネット通販最大手の楽天市場に、有力ブランドの出店が続いている(手数料や人件費など出店コストが低い 全国から注文を受けられる 自社サイトのコストを削減できる)。
 店舗網と発行枚数は大きいので潜在力はあるものの、ネット市場ではクレジットカードが主流。電子マネーの1000円前後の利用単価のかい離は大きい。つまりEdyの将来も楽天の戦略もよく見えない。
Edyビットワレット(ソニー系)1枚の入金上限5万円 am/pm サークルKサンクス 郵便貯金と連携 発行主体と店舗とが無関係な点が弱点 09/10セブンイレブンで採用される 発行枚数多い 発行開始は2001年 2820万枚07/03 3430万枚07/10 5200万枚09/09(2500万件)


資料:「電子マネーに事業採算性はあるのか ビットワレットが迎える新局面」『金融財政事情』2009年10月19日号, 6-7.

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
0riginally appeared in Mar.6, 2008.
Corrected and reposted in Nov.17, 2009.

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