2015年のオフに国内FA(フリーエージェント)宣言していた木村昇吾選手(元広島東洋カープ)が埼玉西武ライオンズのキャンプで入団テストを受けています。
普通に考えますと、海外FAでもない限り、国内FAを宣言するような選手ならば、どこのチームからでも引く手あまたな状態だと思います。ですから、木村選手のような状況は異例と言えば異例です。
MLBでは移籍が当たり前のように行われており、大物選手がFAともなれば年俸は天井知らず、契約期間は超長期となるケースが多いです。一方、対照的にNPBは国内でFA移籍を行う事例が少ないもので、有資格者は大勢いますが、実際に移籍となると片手で数えられるくらいのケースしかありません。
一説にはFA取得までの期間が長いことが言われており、この期間が短縮されれば、より多くの選手が権利を獲得できて、移籍市場は活性化するという考え方もありますが、NPBのFA制度の問題はそんな単純なものではありません。
まず、MLBとNPBのFAは何が違うかと言いますと、一番の違いは選手が権利を行使する宣言が必要かどうかです。
MLBではFAに必要な条件が揃えば、その選手は自動的にFAになります。しかし、NPBは資格条件を満たして「権利を行使する宣言・手続き」をしないとFAになれません。
つまり、主力級でない選手の場合、FA権を得ても宣言しにくいところです。いくら、保障の必要がない選手であったとしても、自チームの若手選手を育てた方が良い場合もあり得るでしょう。それを考えれば自分に自信のある大物選手だけしか宣言しないことになり、そのような選手を獲得できるのも一部のチームだけに限られたりしますので、必然的にFA制度自体は停滞化してしまうのです。
また、FA宣言しての残留は認めないという方針のチームが多いのも、選手が宣言しにくい環境を作り出している要因の一つだとも思えます。
「MLBのルールは一年後には日本に導入される」という私のNPB方程式があるのですが、MLBのように自動的FA制度は今のところ導入されそうにもありません。おそらく、チームの金銭的負担が増大することと、戦力の不均等への恐れもあるでしょう。でも、それを言い出すようなチームは経営努力が足りないとも思えますし、チームのビジョンが明確でないことも言えます。逆に言えば、経営努力をさらにしていくようになれば、ファンも増えて盛り上がるでしょうし、どういうタイプの選手を獲得するか、育てていくかでチームカラーを表しやすくなれば、ファンも面白くなることでしょう。
ただ、木村選手のように移籍が転機となる場合だってあります。木村選手は2007年オフにトレードで横浜ベイスターズからカープに移籍すると、守備力と走力で主に守備固めや代走で出場機会を増やし、チーム内で役割を確立させました。2010年には東出輝裕選手(現コーチ)に代わってセカンド、2011年は梵英心選手に代わりショート、2013年には堂林翔太選手に代わりサードと、ケガで離脱した主力の穴を埋める働きを見せ、チームに欠かせない戦力であることを証明してきました。それと同時にスタメンで出て、スタメンで試合に出る喜びを知り、自分がレギュラーになるという目標をしっかりと再設定し、野球選手として当然の姿を求めています。
2003年に愛知学院大からドラフト11位でプロ入り。このドラフト最下位指名からはい上がってきた松坂世代の選手です。
「今までと違うキャンプになるのは分かっている。普通にやろうと思う時点で普通の精神状態ではないということ。緊張するだろうし、気を使うこともあるだろうけど、ワクワクしている」
現状では今回の木村選手のようなケースを考えて、宣言しない選手が多くなっていくことだって考えられます。終身雇用的な考え方の日本社会に、MLB風FA制度が馴染むかどうかは判りませんが、形骸化されたFA制度であり、あまり注目されないのは、やっぱり面白くはないです。
NPBと選手会はFA制度をどうしたいと思っているのでしょう。
それよりも、木村選手には是非ともライオンズのユニフォームでプレーする姿を見せてもらいたいものです。