2019年3月10日のGREAT VOYAGE 2019 in YOKOHAMA・横浜文化体育館大会のメインイベントは、プロレス史の大きなターニングポイントになる可能性を秘めた一戦になるかも知れません。史上最年少の22歳5ヶ月の若さでGHCヘビー級王者になった緑の継承者・清宮海斗選手に、方舟の天才・丸藤正道選手が挑戦します。
プロレスリング・ノアは今年1月29日に長州力プロデュース興行などを手掛けるリデットエンターテイメントによる新体制を発表し、横浜大会はその新体制のもとで開く初のビッグマッチとなります。
新生ノアの若きエース清宮選手は、ノアの創設者の三沢光晴さんに憧れて2015年にノアに入団。同年12月、三沢さんの最後の試合でパートナーを務めた潮崎豪選手と対戦しデビュー。この頃、新日本プロレスから2年間殴り込みに来ていた鈴木軍にもまれました。2017年のカナダ遠征から帰国すると、GHCタイトル戦線に抜擢されます。
2018年12月16日の横浜大会で杉浦貴選手を破り、史上最年少、デビューから史上最短でGHCシングル王座を奪取し、第32代王者に輝きます。緑のショートタイツにサポーター姿の清宮選手はタイガー・スープレックス・ホールドが必殺技でもあり、そこから三沢さんと重ねられることも多いのですが、本人は「脱」三沢」を掲げ「新しいノアを背負っていく」と覚悟を示しています。
まだ比べるには早いかも知れませんが、2012年にレインメーカー・オカダ・カズチカ選手がIWGPヘビー級王座を史上2番目の若さで戴冠した時の新日本プロレスを引っ張っていったように、2016年に歴代最年少の三冠ヘビー級王座戴冠した宮原健斗選手が全日本プロレスの閉塞感を破っていったように、新体制の顔として期待は大きいです。
その清宮選手に「まだ早い」と待ったをかけたのが、今やノアの象徴と言ってもいい丸藤選手です。丸藤選手はかつて三沢さんの付き人を務めており、丸藤選手がGHCヘビー級王座を獲得した時に、三沢さんが挑戦したことがありました。清宮選手が入団するとき丸藤選手は試験官を務めており、似たようなシチュエーションに「時代は繰り返す」と苦笑いを浮かべ、「あの時は負けたけど今度は勝ちます」と、あの時の三沢さんのように、清宮選手の勢いを止めると誓いました。
その「あの時」とは、2006年12月10日の日本武道館でGHCヘビー級王者の丸藤選手に、三沢さんが挑戦した一戦です。
2006年9月9日に丸藤選手は秋山準選手を破って、第10代GHCヘビー級王者となりました。この時、丸藤選手は26歳11ヶ月で、同王座戴冠は当時の史上最年少記録でした。当時、大黒柱である小橋建太さん病気で長期欠場した直後ということもあり、ノア新時代の到来であり、世代交代が一気に進むものだと思われました。その流れに乗って、丸藤選手は初防衛戦を史上初めて国外の米国でおこない、同年10・29日本武道館ではKENTA選手を挑戦者に迎え、史上初のジュニア対決によるヘビー級頂上決戦を実現させました。この一戦は「プロレス大賞」のベストバウトを受賞し、ノアの新時代を切り開いていきました。
そして、丸藤選手は3回目の防衛戦でノアの創始者であり、エースであり、自身の師匠である三沢さんを挑戦者に迎えました。結果は敗北。新時代の到来は幕を落とし、その後は旧世代の踏ん張りがノアの中軸となっていきました。その後、三沢さんは約1年3ヶ月もの長期政権を樹立、2007年9月に丸藤選手はリベンジの機会を得ましたが敗北。後年、その時のことを「ある意味、永久戦犯だよね。アレはでかかった」と振り返り、自身の2度にわたる敗北がノアのその後にとって甚大な影響を与えたことを認めています。
もしも、丸藤選手が三沢さんにベルトを奪われていなければ、ノアは一気に世代交代が進み、歯車を狂わせることもなく、業界の盟主のままでいたかも知れません。つまり、2006年12月10日のGHCヘビー級選手権には、ベルトとともにそれだけ重いものが懸けられていたのであり、今回もその一戦と非常に似たような状況にあるのだと思えます。
清宮選手にとって丸藤選手は師匠ではありませんが、「新星 vs. 象徴」という意味合いでは同じであり、清宮選手は「今のノアの顔は俺です。時代は絶対に戻しません」と防衛を誓っているように、新時代の到来を告げています。まるで、当時の丸藤選手をオーバーラップさせるようにです。清宮選手は目の前にいる丸藤選手とともに、丸藤選手の築いてきた歴史やファンの象徴に対する思い入れとも向き合って試合をしなければなりません。
3・10横浜文化体育館大会は新体制となったノアが「脱三沢」を旗印に本格的に新たなるスタートを切る大切な日です。旗揚げ以降、使い続けてきたロゴの刷新、緑のリングマットとの決別などさまざまな面でノアは生まれ変わります。新生ノアの象徴となるのは、若き王者の清宮選手か、現・象徴の丸藤選手か。
このタイトルマッチはGHCヘビー級のベルトだけでなく、12年前の丸藤 vs. 三沢と同じように団体の命運さえも懸けられている大一番でもあります。
方舟の船頭の座をかけた歴史的一戦は見逃せない。
3月10日の横浜文化体育館大会を観に行きたい…