中日ドラゴンズの与田剛監督は、来年3月29日の開幕戦(横浜DeNAベイスターズ)の先発投手を自ら指名する方針を示しました。
ドラゴンズは森繁和前監督時代の2年間の開幕投手は立候補制が採用されていましたが、それを廃止し、「投げたい人」ではなく、「投げさせたい人」ということで、チームの大黒柱として位置付ける「エース」を指名するとのことです。
「自分で決めるつもりです。基本的には、チームで一番良い投手を開幕戦にもっていく」。もちろん、無条件ではない。「しっかりと準備をできた人。1年間、ローテを守れる人」の2点を基本条件とするそうです。
ここ10年間のドラゴンズの開幕投手は次のとおりです。
2009年 浅尾 ○ 4-1 対横浜ベイスターズ
2010年 吉見 ● 1-3 対広島東洋カープ
2011年 ネルソン● 4-5 対横浜ベイスターズ
2012年 吉見 ○ 4-2 対広島東洋カープ
2013年 吉見 ● 3-4 対横浜DeNAベイスターズ
2014年 川上 ● 2-3 対広島東洋カープ
2015年 山井 ● 4-5 対阪神タイガース
2016年 大野 ○ 5-2 対阪神タイガース
2017年 大野 ● 2-6 対読売ジャイアンツ
2018年 小笠原 ● 3-6 対広島東洋カープ
どちらにしろ、開幕投手は逆算すると3月第一週には決めなければ、調整期間も取れないでしょう。キャンプから上手く調整し、オープン戦で安定した結果を残す必要があります。その意味では立候補にも等しいものではあります。
さて、ドラゴンズの開幕投手において、最も衝撃的な出来事といえば、2004年にドラゴンズの監督に就任したばかりの落合博満さんが、本拠地ナゴヤドームで広島東洋カープ相手に迎えた、あの一戦です。
ドラゴンズの開幕投手は川崎憲次郎さん。2001年にヤクルトスワローズからFA移籍してきたものの、右肩痛のため、3年間も一軍のマウンドから遠ざかっていました。よりによって、そんな川崎さんを開幕戦の先発に起用するとは、「やはりオレ流監督のやることだな」と思えました。
当時、投手コーチだった森繁和さんは、「あれだけは忘れもしません。キャンプ前、顔合わせの意味も込めて、監督、コーチ皆で温泉に行った時のこと。いきなり温泉の中で落合監督が切り出したんです。“開幕は川崎でいく”と」「監督は白黒付けたかったんでしょう。開幕で使えなければもうダメだと。開幕戦が大事なのはわかるけど、所詮138分の1。どんなに強いチームでも、シーズンで50敗はする。それが最初にくるだけじゃないかと。監督は、そう腹をくくっていたんでしょう」と語っています。
そして、この試合は結果的に川崎さんは2回途中でKOされてしまいました。しかし、森さんによれば、「ベンチの全員に“川崎のために”という思いがあった」というのです。「皆、彼が投げたくても投げられなかった時期を知っていましたからね。彼の無念の思いに報いようとチームが団結したんです」と、この試合、8-6でドラゴンズ中日の逆転勝ちでした。
試合後、落合さんは奇策のタネを、こう明かしています。
「このチームが生まれ変わるには、3年間もがき苦しんだ男の背中を押すことが必要だったんだ」
そして、このシーズン、落合さんは監督就任1年目で、チームをリーグ優勝に導きます。
また、当事者の川崎さんですが、実は落合から開幕投手の指名があったのは、年が明けたばかりの1月3日のことだったそうです。「この日、落合さんから電話があったんです。“新年の挨拶かな”と思っていたら、“今シーズンの開幕はオマエでいくから”と。その言葉にびっくりしてしまって、あとは何を言われたか覚えていない。僕が口にしたのは“わかりました。やらせていただきます”だけです。というのも、断る理由がなかったんです。肩にはまだ多少の痛みが残っていたし、本来の自分のボールが投げられてはいなかった。それでも、何とかゲームで投げられる状態ではあったから“もしかしたら、これを機に肩がよくなるかもしれない”というかすかな望みは持っていましたよ」とのことです。
正月の時点で川崎先発を決めていた落合さんですが、周囲にそれを悟られないよう、用心深く煙幕を張りつづけました。
「落合さんは、みんながいる前で堂々と“肩の調子はどうだ?”“いけるか?”と僕に声をかけてきました。でも、まさかそんな早い時期に開幕のことを決めているなんて、誰も思っていないじゃないですか。“キャンプでは全員横一線”が普通ですからね。ただ、紅白戦やオープン戦の最初の試合でも先発しているんです。だから、今考えると、わかりやすいサインを送っていました」と川崎さんは当時を振り返っています。
負け投手にこそならなかったものの、2回途中でKOされた川崎さんは、この後、2試合に登板しましたが、戦績は0勝1敗、防御率34.71であり、「もう潮時」と判断した川崎さんはこの年限りで引退しました。
それでも、この試合、あの川崎さんの起用がチームをひとつにしたという側面もあります。開幕戦で勝ったことでチームに勢いが出たことは事実です。これも開幕投手の役割だったのでしょう。
さて、2018年はチーム防御率4.36(リーグ6位、前年は4.05)、149被本塁打(同5位タイ、前年は127)、与四球526(同5位、前年は495)と、2017年から軒並み悪化しました。正直、かなり深刻です。TVを見ていても、痛打を恐れ、ボール球で誘おうとしたものの、振ってくれずにカウントが悪くなり、結果的にフォアボールを与えてしまう。その繰り返しで退路を自ら窮地に陥ったところで、結局、痛打されてしまうのです。
そんな弱体投手陣をさらに細分化すると、先発投手は47勝53敗、防御率4.08。平均投球回5.96、同投球数が101.24となっているから、及第点とはいえません。それでも、松坂選手(6勝)、吉見選手(5勝)、山井選手(3勝)とベテランがそれなりに存在感を示しました。
それ以上に問題はリリーフ陣になります。リリーフ投手は16勝25敗。防御率4.93は12球団でワーストの数字になります。逆転負けの38試合は最も多くなっています。その最たるものが2018年9月4日の東京ヤクルトスワローズ戦でした。9-3で6点リードで9回を迎えたところ、登板した田島選手が炎上。あわてて祖父江選手、岩瀬選手、福谷選手をつぎ込みますが延焼し、まさかの同点に追いつかれます。そして、延長戦にもつれ込み、最後は又吉選手がサヨナラ3ランを浴びました。
とは言えども、この崩壊したリリーフ陣を立て直すのは、やっぱり先発陣にかかっていると思います。先発陣が、あと1イニング長く投げ、失点をあと1点少なく抑えることが出来れば、リリーフ陣の負担が減ってきます。今まで勝ち試合も負け試合も登板していたことを考えると疲労の蓄積は、たまったものじゃないと思います。
その先発陣ですが、唯一の規定投球回数クリアであり、チーム最多の13勝を挙げたガルシア選手が、契約延長交渉がまとまらず、退団したことはやっぱり痛手です。代わって獲得したのが同じ左腕のロメロ選手になります。ただ、ロメロ選手は「やって当たり前」の立場です。
で、なんだかんだ言っても開幕ベンチ入り13人のピッチャーの顔触れは次のとおりだと予想します。
先発候補予想(6)
■小笠原慎之介
■柳裕也
■梅津晃大
■笠原祥太郎
■藤嶋健人
■ロメロ
中継ぎ候補予想(5)
■又吉克樹
■田島慎二
■岡田俊哉
■祖父江大輔
■ロドリゲス
抑え候補予想(2)
■佐藤優
■鈴木博志
先発ベテラン勢は開幕3連戦は屋外(横浜スタジアム)ということもあり、登板予定はなしということで、ベンチ入りもなし。もしかすると、先発は、もう2人くらい減らして、中継ぎ陣を増やすかも知れませんけど。
そして、開幕投手の予想は、ズバリ。
笠原祥太郎選手