2019年1月4日、東京ドーム。
IWGPヘビー級王座戦はメインイベントになりますが、そのメインイベントに今年は挑戦者として棚橋弘至選手が帰ってきました。このことを1年前から想像できた人はどのくらいいるのでしょう。少なくとも8月のG1クライマックスが終わるまでは、わずかな望みこそあったにせよ、挑戦できるという可能性は誰が見てもなかったように思えます。寂しいことですが、棚橋選手は終わったと私も思っていた一人です。
「もういい、これ以上みじめな姿は観たくない。エースはカッコいいままでリングを去って欲しい」
棚橋選手が、気持ちを鼓舞しようと奮闘する姿を見ても、そこには悲壮感しか残っていないように感じられたのです。
2018年4月1日の両国国技館。しかし、IWGP戦線から長く遠ざかっていた棚橋選手が復活への名乗りを上げます。
当時の王者オカダ・カズチカ選手はあまりにも強すぎ。正直、棚橋選手がオカダ選手を倒してIWGP王座に返り咲く姿は、イメージすることは出来ませんでした。5月4日にIWGPヘビー級タイトルマッチが福岡国際センターで行われましたが、棚橋選手にとって、もしかしたら最後になるかもしれないIWGPをめぐるオカダ選手との戦い「ラストリング」を観るようなタナハシ・コールでした。結局、棚橋選手は気力と気迫でオカダ選手を追い込んだものの、IWGPは奪還することは出来ず、リングを去る姿は本当に燃え尽きてしまったようでした。
ですが、棚橋選手は「あきらめない。もっと強くなる」と宣言して、夏にはG1クライマックスのブロック1位をひた走ってきました。そして、8月12日に、日本武道館で行われた棚橋選手と飯伏幸太選手の優勝決定戦は、プロレス大賞の年間最高試合賞(6月9日 大阪城ホール ケニー・オメガ vs. オカダ 時間無制限3本勝負)にも負けない内容だったと思います。
棚橋は、負けたプロレスラーがどん底からどうやって這い上がっていくかを見せつけた。
ボロボロに傷んだ肉体。折れてしまっても不思議でないプライド。悲しいことですが、誰もが実際に歳を重ねるというのはこういうことなのです。棚橋選手は、そんな年齢との戦いを「自分の体に合ったプロレスをする」と割り切ることで、乗り越えてきたのです。身体の痛みや辛さはその年齢になってみなければ実感することは難しいですが、若い時には考えもしなかった苦しみが、実際にはあるのです。
さて、棚橋選手は2009年、2011年、2014年に続いて、4年ぶり4度目のプロレス大賞MVPを受賞しました。通算の受賞回数として、1位・アントニオ猪木さんの6回、それに続いているのが、4回の天龍源一郎さん、武藤敬司選手と棚橋選手橋もついにそこに肩を並べました。そして、今回の受賞で「平成最後のプロレス大賞男」という冠がつきました。ちなみに、「平成最後のG1優勝者」も棚橋選手でした。「100年に1人の逸材」にぴったりなストーリーですね。
2019年の春には元号が変わります。次の新しい元号でも「○○最初のプロレス大賞男」になるのかも知れません。「予想してなかった」という2018年のプロレス大賞MVPに対して、「2019年はのっけから取りにいきます」と宣言しました。
その、「のっけ」が1月4日、国内最大のプロレス興行「WRESTLE KINGDOM 13 in 東京ドーム」。メインで行われるIWGPヘビー級王座戦は、棚橋選手にとって単なるベルト獲り以上に大きく重たい意味を持つ一戦となると思います。
「お前のプロレスには品がない」とベルトを保持するケニー・オメガ選手に対して放った一言は、業界全体に大きな波紋を呼びました。言うまでもなく現在のプロレスブームを興した立役者の一人である棚橋選手。「ベスト・バウト・マシーン」と自らを呼ぶオメガ選手は、棚橋選手が興したブームをさらに大きく世界レベルにまで推し進めてきました。今回の一戦はベルトだけではなく、自分たちが彼が信じるプロレスの未来を賭けての一戦でもあるのです。
棚橋選手は「新しい扉を開く」と力強く宣言しました。
さて、今日はどのような試合になるのか。楽しみです。