今にでも「おぅ!!」と言いながらドアを開けて帰ってくるような気がします。
その日が来るのはわかっていましたが、息子が野球道具と身の回りの最低限必要なものを持って、この春、巣立ちました。生まれ育った、この地を離れ、遠くの大学へ進学した我が家の次男です。
3月の後半には一人暮らしを始めるために家を出ていくことはわかっていました。3月に入って、不動産屋さんから「少し早く(部屋に)入れるようになった」と連絡を受けて、スケジュールを前倒し。それじゃあということで、週末に必要な家電化とか日常生活用品を買いに行ったときには、まだ実感は何もありませんでした。
でも、ある日。息子の大好きなサラミとカルパスをスーパーで買い物かごに入れたときに、息子の嬉しい顔が浮かぶとともに、「こうやって買うことも、もうないんだな」と思ったら、急に寂しくなってしまいました(実際には、帰ってくる日に、また買うことができるのですけどね)。
本当だったら、息子の成長を喜ばなければならないのでしょうけど、なかなか子離れできない父なんだろう。
息子が「自分で行きたい!」と言って選んだ道ですから。この先、大学を卒業して就職する先だって、親が無理矢理進路を決めて、行かすわけじゃないですから。家に一緒にいるよりも絶対にたくましくなるはずです。それにいつか親元を離れて行くのですから。その第一歩、そう思ったら喜ばなきゃ。寂しいなんて言ってられないですし、それに私よりも寂しいのは間違いなく息子の方だと思います。いくら自分で選んだ道とはいえ、きっと想像以上のことが待ち構えてるでしょうし。
入寮日の前々日。残っていた半日休暇を取って家に帰ると姿は見えず。母校での最後の練習からまだ帰っていない様子。そのうちにいつもどおり「おぅ!」って帰ってきました。その後はのんびりと久しぶりにゲームをやって時間を過ごしました。
翌日は、朝から天気予報どおりの雪。まだ雪の少ない午前中に息子は母親と最後の買い物に出かけていました。私は、息子の大好きなサラミとカルパスとお菓子をスーパーで買い込みしておきました。午後には車に荷物を積み込んで、最後に野球道具を積み込んで準備完了。晩御飯は特別に外食などではなく家で食べ、いつものように過ごして、就寝。
出発当日の朝は前日の夜から春の大雪。まだ、降り積もっています。
なごり雪。
家の前の雪かきを手伝ってもらい、「天気悪そうだから7時30分には家出るぞ」と前夜に言っておいたものが、結局は8時に車を出発させました。
途中、休憩を何度か挟んで時間調整をしつつ、約束の時間ちょうどに目的地である野球部寮に到着しました。息子と母は事務所で入寮についての説明を聞くことに。父は車から荷物をせっせと運び出しです。
寮といっても借り上げアパートで完全個室。築は古いものの、エアコン付きののトイレ、バス別でキッチンもついており、なかなかです。欠点といえば山の上に位置しており、下界までの一番近いコンビニまでは約3km。交通手段を持たない息子どもは、どうやって暮らしていくのか、こちらが不安になるのです。
(ごらんの環境です)
荷物はすべて収納し、注文してあった電化製品も届けてもらい、生活できるようにしました。その後、当面の間の食料の買い出しに車で10分くらい離れたスーパーへ行き、寮へ戻って最後の確認をします。
もう、翌日から練習参加ということで、息子も口では強がっているものの、緊張しているだろうし、早めに休ませてあげたいこともあり、帰ることにします。
玄関で息子にそっけない調子で「じゃ」と短く声をかけ、重々しい別れにならないように、さっさと車に向かいます。
ほんの数時間前とは違って、息子と荷物がなくなった車がやたらと軽く感じます。そして、やけに静かな車内が現実的で寂しさを募らせます。
これまであまり深く考えたことがなかった自分の親の心情。状況は違えども、世の中の親御さんも同じようなことを経験していると思いながらの帰り道です。