海外出張では、ホテルのテレビで観ることが出来るのはNHKワールドプレミアのみです。早い話しがNHK総合とEテレの番組をごちゃまぜで放送しています。ですから、NHKの番組にはやたら詳しくなってしまいます。
その中でも一番惹かれたのが尾野真千子さん主演の「夏目漱石の妻」でした。恥ずかしながら、私は夏目漱石さんは千円札と「吾輩は猫である」「坊っちゃん」「こころ」などの作品しか知らず、その生涯は知りませんでした。だだ、この番組を観て、漱石さんの知らない一面を観ました。頭脳明晰で几帳面、しかし気難し屋。
誰にも媚びない「猫」のような漱石さんの人生観です。
「人間は竹のようにまっすぐでなくっちゃ頼もしくない。まっすぐなものは喧嘩をしても心持がいい」――「坊っちゃん」
喧嘩はしない方がいいです。でも、時には相手にぶつかることも大事なことだと思います。明らかに自分に非がないのであるならば、自分を我慢しているだけでは行き場を失ってしまいます。ですから、素直に本音でぶつかることも大事です。時間が経ってから言うと、無駄に大事になってしまいますが、すぐにその場で、何気なく言ってしまえば、たいていその場だけで収まるものですよね。大事なことは感情的にならずに、あくまですぐその場でさらっと、ということです。そうすれば、例えば揉めたとしても、小事で済む場合があります。別に相手を貶しめるためでなく、自分が思ったことを伝えるだけで、すっきりするものですし、言いたいことを言い合った相手とは前よりずっと打ち解けられるかもしれません。
「鍍金(めっき)を金に通用させようとする切ない工面より、真鍮を真鍮で通して、真鍮相当の侮を我慢する方が楽である」――「それから」
誰だって他人から尊敬されたいという気持ちはあるでしょう。でも、そのために自分を良く見せようとするのは、最終的に自分を苦しめることになります。やってもいないこと、出来もしないことを、「やっている、出来る」と言えば、周りからの信頼を失うばかりか、無理が生じて、後でもっとずっと苦しくなりかねません。また、自分を「金」であると思ったとしても、他人にひけらかすのも見っともないものです。自分の輝きが「金」なのか「真鍮」のなのかを決めるのは、他人の判断として放っておけばよいのではないでしょうか。金に及ばないかも知れませんが、真鍮には真鍮なりの良さもあります。それを金めっきで覆い、磨くとはがれてしまうくらいならば、真鍮としてピカピカに磨き上げていった方がいいでしょう。
「僕の一身にとってこの落第は非常に薬になったように思われる。もしそのとき落第せず、ただ誤魔化してばかり通って来たら今頃はどんな者になって居たか知れないと思う」――「落第」
毎日、何かに追い立てられるような生活です。後ろを振り返るどころか、横を見ている余裕すらありません。自分が今なにをやっているのかも判らないまま、とりあえず目の前のことだけ。それはそれでもいいかも知れませんが、それでは自分がやっていることの意味が判らないままですし、自分がどの位置にいるのか、場所すらわかりません。そんな状態では自分の能力やスキルは上がりません。ときに立ち止まることも必要です。今やっていることに一体どういう意味があるのかを見つめ直す時間が必要です。それは時間を無駄にすることに見えるかも知れませんが、判ったふりをして先へ進むよりずっとよい結果になります。
「暗いものをじっと見つめて、その中からあなたの参考になるものをおつかみなさい」――「こころ」
自分であれ他人であれ、不幸には遭遇したくないものです。しかし、一切不幸に見舞われない人生というものはないでしょう。自分の力ではどうすることもできない状況、もちろん落ち込みます。ちょっと落ち込んだときならまだしも、どうしようもない場合には、何も手をつける気になりません。自分のこれからの人生で忘れられない暗い思い出になる気がするでしょう。もしそうなってしまったら、忘れることは諦めましょうか。忘れようとする努力は、より記憶を深めるだけかも知れません。いっそのこと不幸を正面から見つめてみます。ただし、そこから少しでも将来に役立つことを探す気持ちがなければダメです。めったにない不幸であればこそ、大きく生かせる教訓も見つかるかも知れません。
災害列島日本。いつどこで災害が起こるか分かりません。明日は自分かも知れません。
夜になると不安でしょうが、できるだけの準備をして、気をつけてお過ごしください。
