囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

相撲と碁と物笑いと

2021年09月26日 | ●○●○雑観の森

 

【あったことを、なかったことにする?

 ~ 時を戻すことなど出来ぬ相談

 ~ 身勝手な所作をただすという親切

 ~ 勝負に勝って信用を失うあなたへ の巻】

 

 

伝統の所作を守る力士たちが

お茶の間を沸かせてきた秋場所。

見応えのある相撲が続くが

早くも千秋楽である。

 

「相撲」と「囲碁」とは

頭脳戦という共通点のほか

所作や品格等々、なにかと

相通じることが多い。

 

趣味の世界なのだから

愉しむことが第一であり

親睦・交流よろしく

緩やかな時間を過ごしたいものだが

「のんびり」「いい加減」は

似て非なるものである。

 

五年余り前にわたしが入会した

百人碁会のそれはあいまいであり

ごちゃごちゃしていた。

大多数は紳士淑女であったが

〝不心得〟は放置されていた――。

 

それが今はどうかといえば

「待った」「難癖」「口出し」の類いは

少なくとも、わたしの半径5㍍以内から消えた。

行儀の悪さがめっきり少なくなった。

 

一つは、2年前に導入した「三段以上の点数制」

によって一定の緊張感が生まれたためだろう。

当ブログ等で繰り返しシツコク批判したこと

この手合とは一切打たないと明言したこと

これらの効果もあったかもしれない。

 

楽しみの会での親睦・交流阻害行為には

そもそも忖度や我慢は不要と思っている。

ダメなものはダメ、としなければ

身勝手な者が増え、会の雰囲気を悪くする。

 

本稿は「待った」という

ヘボ愛用の恥辱的反則について

考えるヒントを提示したい。

 

         ◇

 

かつて名誉位階を重んじる階層に

好まれた高貴な芸事から発した囲碁。

シンプルにいうならば

カッコいいか、カッコ悪いか

という一点に集約される。

 

カッコ悪いことを相手に許すことで

「これぐらいは自分も勘弁してもらおう」

思うのであれば「仲間内限定」で愉しもう

互いの「おうち」におじゃまして打てばよい。

それを「多人数の集い」に持ち込んでしまっては

迷惑千万であり、レッドカード相当である

 

「それだけは、およしなさい」と

淡々と小声で、しかし周囲に聴こえる声で

たしなめて差し上げるのが

同人として真摯な態度であるし

会の空気を浄化するためにも

極めてよろしかろう。

それは出来る人がやればいいのであり

逆切れするようなら、サヨナラである。

 

 

ショーペンハウアーは喝破する。

「事、名誉に関するかぎり、

誰を相手にしたどんな争いの場合にも

訴え出ることのできる最高法廷は、

腕力すなわち獣性と名付ける白州である」

 

 

   *  *  *

 

 

和泉堺(いずみ・さかい)の力士

八角楯右衛門

「谷風以前に谷風なし、

谷風以後に谷風なし」

といわれた大力士谷風梶之助

対戦した時のことである。

 

八角は谷風に勝つ方法を

心魂を砕いて考えたが、

妙案が思い付かない。

 

谷風に勝つ戦法を教えてほしい」

八角は行司の尺子一学に尋ねた。

 

「大力の谷風に勝つには

尋常の策では無理である。

しかし、ここに一策がある。

軽々しく他に漏らされては困るが

せっかくの望みだから、

内密に教えて上げよう」

一学は、にこやかに笑いながら

八角に教えた。

 

谷風は大男で太っている。

長時間、中腰ではおれない。

そして、生まれ付きの正直者である。

しかも、せっかちで、

気力を充実させるのが早い。

気力が充実した時、立ち上がって、

谷風と相撲を取っても誰も勝てまい。

谷風の気力が充実した時、

立ち合わずに『待った』と言えばよい。

谷風が再び

満身に十二分の気力を充実させて立ち合う時、

また、『待った』と言う。

こうして、数回待ったをすれば、

谷風は肥満でせっかちなため、

気力が飛散して、次第に衰える。

この機を見逃さず、谷風の隙を突けば、

勝機が来るだろう。

谷風に勝つ秘訣である。

みだりに他に漏らさず、

慎重に、この秘策を実行しなさい」

 

八角は一学から秘訣を授けられ

心中、大いに喜んだ。

 

八角は、京都、大坂の二つの場所で

一学から授けられた秘策で

谷風を破った。

 

しかし、卑劣な「待った」「待った」

勝ちは、世間の笑いものとなった。

 

むしろ、谷風の天下無敵の強さが

評判になった。

 

     (出典:横綱力士伝)

 

 

 

 



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