プロレス界で活躍した選手を表彰する制度で「WWE殿堂入り」というものがある。プロ野球や大リーグの「野球殿堂」があるが、このプロレス版だと思えばいい。今年、ここに「とあるメキシコ人レスラー」の名が挙がった。かつて「メキシコ系アメリカ人レスラー」の殿堂入りはあったし、人種差別のない自由の国アメリカらしく、黒い毒蜘蛛・アーニーラッドやらの「アフリカ系アメリカ人」の黒人レスラーも殿堂入りを果たしている。しかし、今回は「メキシコ人」として堂々の殿堂入りだ。これはWWE殿堂で初となる。誰かと思えば、なんと、千の顔を持つ男、ミル・マスカラスだ。
ミル・マスカラスとえいばメキシコマット界で「聖人エル・サント」と並ぶ英雄だ。日本でも彼の名を知らぬプロレスファンはいない。いたとすれば、その人はプロレスファンじゃない。ちなみに日本人レスラーでは2010年、アントニオ猪木がようやく殿堂入り、ということになる。野球賭博で追放された元大リーガーでも殿堂入りしているのに、外国人レスラーなら猪木かマスカラスレベルじゃなきゃ入れてあげない、というのもアメリカ人らしくてよろしいが、コレはアメリカ人、白人の性のようなもので、南北戦争も大東亜戦争も経てずいぶん経つが、彼らはまだ、有色人種は白人になりたがっている、あるいは憧れている、と思い込んでいる。つまり、白くなければ劣っていると信じている。
メキシコオリンピックが開催されたのは1968年だ。男子200メートルで金メダルを取ったアメリカ代表は黒人選手だった。その選手は表彰台で「黒い手袋」をつけて右拳を突き上げた。人種差別に対する抗議だった。その年「I Have a Dream」(私には夢がある)と演説して有名なキング牧師が暗殺される。彼は白人とは違い、非暴力で人種差別と戦った。それが気に入らぬ連中がいた。その夜、キング牧師は「ロレアンヌ」というモーテルのバルコニーで打ち合わせ中に凶弾に倒れる。撃ったのは白人のジェームズ・アール・レイだ。弾丸は喉を突き抜け脊髄に達していた。アール・レイは国外逃亡するが、すぐに捕まり懲役99年を喰らう。調べてみたら刑務所を出たり入ったりのチンピラだった。いわゆる「鉄砲玉」というやつだ。
同じ時期、ボクシングではカシアス・クレイがモハメド・アリになっていた。「なんでオレがベトコンと戦わねばならないのか」と言ってベトナム戦争の兵役を拒否して有名になった。「だってベトコンはオレを差別しない」と。アリもまた露骨な黒人差別と戦った。御蔭で無敗のままチャンピオンベルトを剥奪され、ライセンスまで奪われた。1968年のアメリカはそういう時代だった。
日本のプロレス界はどうだったか。
1968年には「ボボブラジル」が10年ぶり、2度目の来日で大盛り上がりだった。前回は力道山と戦い、今回は全盛期のジャイアント馬場を倒してベルトも取った。「黒い魔人」は大人気。日本プロレスの興行は「ブラックパワーシリーズ」と銘打った。いまなら人権屋が飛んでくる。
ボボブラジル。本名ヒューストン・ハリス。「ブラジル」は本人の「人種差別のないブラジルに行きたい」という願望だった。当初、与えられたリングネームは「ボボ」ではなく「ブーブー」。彼は「Boo-Boo Brazil」という名でデビューするはずだった。これをプロモーターが間違える。ポスターには「BOBO」と印字された。「Bôbo」といえばポルトガル語で「馬鹿で愚かな」となる。日本にも「ルーピー鳩山」というリングネームの政治家がいたがアレと同じだ。アメリカという社会はそういうことを普通にする。
代表技、得意技は「ココバット」だ。195センチのブラジルがジャンプして、脳天に頭突きを喰らわせる。これも本人は「アイアンヘッドバッド」と称していたが、プロモーターは「黒人の頭はヤシの実と同じで空っぽ」という意味ともなる「ココバット」を好んだ。日本人の差別心は薄っぺらいものだから、これがジャイアント馬場のココナッツクラッシュくらいの受け取り方で、これまた、大いに人気が出た。売り出し中のエース・馬場を負けさせるほどの人気だ。プロレス雑誌も「黒人選手の身体能力はすごい」と評したりしたが、どこのだれも文句など言わなかった。
その頃、スハルトがインドネシアで軍事クーデターを起こす。留学しているインドネシア人が呼び戻され、その中にはロロ・ストロがいた。オバマの母親の再婚相手だ。オバマ大統領は6歳。住み慣れたハワイからジャカルタへ引っ越した。
ハワイに戻ったオバマはその後、アメリカ人らしく大麻やコカインを楽しみながら「サーティーワン」でアルバイトして育つ。それからまた、アメリカ人らしく弁護士になり、黒人奴隷の家系をもつミシェル・ロビンソンと結婚する頃、ボボブラジルもWWE殿堂入りを果たす。1994年だ。2年後のアトランタ五輪ではモハメド・アリがパーキンソン病で震えながら聖火を点した。もう黒人差別はないんだよ、と言いたかった。
そして2008年、サブプライムローンに端を発したリーマンショックの責任を白人に取らせるわけにはいかない、としてアメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人、自らを「ケニアの子」と称する色のついた大統領が出てくることになった。オバマは天皇陛下との握手の際、深々と頭を下げて日本人から感心されたが、これまたアメリカ史上初となるアフリカ系アメリカ人のファーストレディのミシェルは、気安くもエリザベス2世の背中に手を回したりして白人を安心させた。黒人奴隷の娘は権威もわからないのかと。
最近、米兵と思われる4人の男性が、タリバンと思われる3人の遺体に小便をする映像が出回って騒ぎになっている。4人の白人の制服から「アメリカ海兵隊」の可能性があるとのことだ。アフガニスタンの大統領府は大激怒、アメリカ政府に徹底調査を求めている。クリントン国務長官も「このひどい行為を強く非難する。アメリカの価値観とは相いれないふるまいで、関わった人間は追及を受けるべきだ」ということだが、残念ながら<アメリカの価値観とは相いれないふるまい>だとは思えない。日本人なら理解不能だが、彼らは昔から有色人種に小便をかけるのが好きだ。切り刻んで持ち帰るのも好きだ。玄関に日本兵の耳を貼りつけたり、大腿骨を削ってペンホルダーにしたりするほど、有色人種の死体を玩具にすることに抵抗がないことは「リンドバーグの日記」にも書いてある。
リンドバーグは携帯電話を持っていなかった。ネットで動画を投稿する、という手段もなかったが、しかし、いまではすぐに映像が世界を駆け巡る。
オバマ大統領の就任式目前、カリフォルニア州オークランドの地下鉄駅で喧嘩があった。通報で駆け付けた警察官は当事者のひとり、黒人青年のオスカー・グラント(22歳)を取り押さえる。数人の警官に掴まれ、押し倒されて自由に動けなくなったグラント氏だったが、警官は「静かにしろ」でもなく、いきなりグラント氏の背中に発砲した。撃ったのは白人警官のジョハネス・マーサリー巡査。マーサリーは「自分に危害を加えようとした」と嘘をついた。黒人を殺したからなんだというのか?とでも言いたいところだろう。
しかし、その嘘はすぐにばれた。映像があった。証拠は「ユーチューブ」で世界に広がった。そこは日本ではなくアメリカだ。職務中の警察官の発砲が罪に問われ、しかも有罪とされることなど極めて異例だ。とくに犯罪者の黒人が射殺されたところで、広島刑務所から脱獄した支那人と同じく、みつけたら射殺すればいい、というのは「みんなの本心」かもしれないが、日本では脱獄犯をみつけても職務質問する。ここでなにをしているのですか?あなたはだれですか?もしかすると、脱獄した犯人ですか?とやる。だから脱獄した支那人も「3日食べてない。刑務所に帰りたい」と弛緩したことを言える。
マーサリー巡査は殺人容疑で逮捕された。異例中の異例だ。これもネットの威力、映像の力だ。オークランドでは抗議デモが起る。黒人のデラムス市長はキング牧師のように「非暴力で」と訴えたが、それでも18人が逮捕されるという大暴れだった。CNNは「オバマ大統領の誕生が米国の抱える人種差別問題を解決するものではない、というのは当たり前の事実であると再認識すべき」と専門家に言わせた。尤もだと思う。
そういえば、2006年にも酷いのがあった。結婚を目前に控えた黒人青年がニューヨークで射殺される。調べてみると白人警官3人から50発もの銃弾を受けていた。「ハチの巣」だ。何をしたのかはともかく、50発も撃ち続けるとすれば途中、弾切れもあったはずだ。つまり、弾丸を装填している。1992年の「ロス暴動」も近隣住民が家庭用ビデオで撮影して公開したから起った。その住民は面白半分、誰かがスピード違反で捕まって反則切符を切られるのかと思ったら、ロス市警は数人で暴行を加え始めたから驚いた。リンチされた原因は黒人だったこと、名前がロドニー・キングだったことくらいか。
モハメド・アリはぷるぷる震える姿を全世界に晒した。マスカラスはヨボヨボになってから「栄誉」を受けた。ボボブラジルは死んでからだ。つまり、オバマ大統領の再選はある。
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久代千代太郎
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