日本製AIが自ら見つけ出した「がん再発」の特徴
赤色の領域は、AIが自動で発見したがんの特徴(画像提供:理化学研究所)
AIが自ら、がん再発に関する特徴的なパターンを見つけ出した。
12月18日、国立研究開発法人・理化学研究所の革新知能統合(AIP)研究センター病理情報学チームの山本陽一朗チームリーダーと、日本医科大学泌尿器科の木村剛准教授らを中心とする共同研究グループが、AMED(日本医療研究開発機構)の助成を受けAIを使って大量のがん画像を解析、がん再発の診断精度を上げる新たな特徴を見つけたと発表した。
「教師なし」で学習
AI技術の1つであるディープラーニングを医療で使うケースでは、最初に人がAIに学習させたいことを予備知識として与える「教師あり学習」がほとんどだった。しかしこれでは現在の知見の範囲を超えられない。そこで山本リーダーらは予備知識を与えずに、診断も印もついていない大量のがんの組織画像を読み込ませた。
その結果、AIが自ら画像データの持つ規則性を見つけ出した。そこに当該患者の予後情報(患者ごとのがんの再発期間などの手術後の情報)を与えたところ、がんの再発に関するあるパターンが浮かび上がってきた。
研究グループは、AIがみつけた特徴的なパターンを検証するために、日本医科大学が保有する20年間分、1万3188枚の病理画像(AI解析用パッチ画像860億枚)を解析した。すると、AIの解析結果は、前立腺がんの悪性度を示す国際標準指標であるグリソンスコアによる病理医の診断と比べても高い判別能を示した。
日本医科大学のグリソンスコアによる病理医診断は、前立腺がんの分類で世界的に著名な医師で、WHOの腫瘍分類最新版策定にも関わった都築豊徳教授(愛知医科大学)が行っており、信頼度は高い。
さらに多施設による検証のため、聖マリアンナ大学、愛知医科大学の協力を得て新たに病理画像計2276枚(パッチ画像100億枚分)を解析したところ、日本医科大学とほぼ同等の結果が出た。現状、病院ごとに特化し他の病院では使えないケースも多いAIだが、このシステムでは汎化性(普遍性)の高い情報を得られているということだ。
再発しやすさに影響する別因子を発見
この技術のポイントは、AIが獲得したパターンを、さらに人間が理解できる画像情報として表示できるところにある。AIが見つけた再発しやすい画像には、グリソンスコアに相当するがんの診断基準が含まれているうえ、今まで気づかれていなかった特徴も含まれていた。
「がん細胞だけでなく、間質の細胞密度を、再発しやすさに影響する因子としてAIは同定している」と山本リーダーは説明する。間質とは、細胞と細胞を接着し支え、情報伝達にも関与する組織のことだ。
この新たな知見が、どういった仕組みで再発に影響を与えるのかは今後の研究にゆだねられるが、がん細胞がなくても間質が密なパターンであれば再発のリスクが高いというAI診断は、病理医による画像診断にはなかった知見だ。さらに、AIと病理医の診断を併せることで診断確度がいっそう高まることも明らかになった。