「お前はほんとダメ、くずだね」
夫にいつもそう言われる。スーパーの和菓子売り場で「くず餅」を見ると、やるせない思いがこみ上げてくる
「私、くずじゃないよぉ……」
ノロマ。くず。変な人。
2人の娘を育てる40代の女性は、小さい頃から、いつもそう言われてきた。
学校にはいつも、遅刻寸前に滑り込んだ。
手順を覚えるのが苦手で、いつも誰かの指示を待っていた。
3人きょうだいの長女だが、いつの間にか誰も「お姉ちゃん」と呼んでくれなくなった。
できる科目とできない科目の差が激しく、語学は得意だけど数学が苦手。大学はあきらめて、地元の短大に進んだ。
短大を卒業後は、地元のスーパーに就職し、婦人服売り場の担当になった。
接客は好きだったが、毎月提出しなければいけない「販売計画書」が苦痛だった。
ブラウスやTシャツといった品目ごと、価格帯ごとに、毎月何枚を売り上げる、という目標をまとめなければいけない。
おそるおそる提出しても「詰めが甘い」といつも怒られた。
上司からは、レジ担当への異動も提案されたが、固辞した。レジなんて、もっと無理だと分かっていた。