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悲しいだけ

2020年05月15日 16時48分34秒 | ハチパパのひとり言

郷里浜松ゆかりの作家藤枝静男のエッセイ集を読み返す。1979年(昭和54年)に講談社から刊行されたもので、同年中に第5刷まで発行されている。箱入りの装丁はしっかりしているが、本の表紙はすっかりひなびてしまった。しかし、大きな文字で読みやすく、8つの短編中「滝とビンズル」「悲しいだけ」「半僧坊」などに浜松の情景がふんだんに出て来るのが嬉しかった。

この本を見つけたのはその翌年ぐらいで、本のタイトル「悲しいだけ」に惹かれて浜松の三省堂で購入した記憶がある。前妻を亡くして8年目ぐらいで、「悲しいだけ」の気分から立ち直りかけた頃だった。

藤枝静男氏は、1907年現在の静岡県藤枝市に生まれ、1938年浜松出身の女性と結婚、千葉医大を出たのち眼科医となり、戦後作家活動を始めるとともに1950年(昭和25年)浜松市中央に眼科医院開業。1993年(平成5年)4月三浦半島の療養所で死去とネットで知った。氏の作品は芥川賞候補作品に3度選ばれたり、平林たい子賞や谷崎潤一郎賞などを受賞している。

本を捲って最初の作品「滝とビンズル」を読み始め、浜松生まれ浜松育ちの私には、昭和20年~30年代の浜松市の風景が書かれていることがすぐにわかった。開業した眼科医院は浜松駅のすぐ前で、その周辺の市役所や動物園、浜松城などが描かれていた。

「悲しいだけ」の作品には、長年病魔に蝕まれた夫人の最後などが描かれ、その時の心情が汲み取れる内容だった。私も27歳で妻をがんで亡くしているが、藤枝氏のように冷静な眼で家族を看取ることは出来なかった。あと1ケ月という過酷な余命宣告を受けて、妻には最後まで告げられず、ただただ只管に丸山ワクチンの奇跡を祈るばかりであった。

 



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