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主人公の男子大学生が、報酬の良い治験のアルバイトをした後に大学の健診の尿検査で異常が発見され
る。 驚いて治験のアルバイト先のクリニックに連絡を取ってもクリニックは忽然と消えていた。
男子大学生は、同じ日にいっしょに治験のアルバイトをした女性を捜し出し、女性にも尿検査で同じ
異常がある事が分かり、大学病院の女医の協力を得ながら2人で怪しげなクリニックの調査を始める。
そんな中で男性は何者かに狙われ、女性の方は連絡が取れなくなり行方が分からなくなる。
主人公らに協力する言葉遣いが乱暴な女医も何となく隠している事がありそうで、前半にチラっとだけ
登場した大学病院の院長が事件の黒幕なのではないかと多くの読者が想像できたかもしれない。
更に話が進み、あの怪しげなクリニックの医師が不審な謎の死を遂げる一方、行方不明の女性は、父親の
末期癌を何とか治療したいが故に、自らの意思で不審死する前のクリニックの医師の所へ行き敵方に洗脳
され、再び治験と同じ事をやっていた。 男子大学生は、女性を救い出すために敵の本拠地へ乗り込む
が、何で危険を冒してまで乗り込むのかよく分からなかった。 別に女性の彼氏でもないし、女性は自らの
意思で行ったんだし、自分の身体には何の問題もないんだし、もう済んだ話で自分には関係のない事と
放っておけばいいのに。
そして、事件の真相は、画期的な治療薬を作るために人体を工場にするというもので、上手くいけば多く
の人を救えるかもしれないが倫理的にアウトな行為だという事だが、被験者に特殊な薬剤を注射し、その
後10日ほど排出される尿を提供するだけで人体に別状なしで、人体工場になる者に害がないのなら同意が
あれば別に倫理的にアウトだとは私は思わなかった。
他に気になった所は、2人を検査する大学病院で若い男女を2人きりで同じ病室に入院させるだろうか。
もし、性的な傷害などのトラブルが起こった場合に病院の責任問題になってしまう。
あと私も腎生検を2回した事があるが、腎生検した患者を、その日の内に退院させるなんてあるのだろう
か。 私の病院では、起きてトイレに行くのも禁止で、次の日の朝9時までベッドで絶対安静だった。
それから、尿道にカテーテルを入れた者が大便をするためにトイレに行く時、いちいちカテーテルを抜い
て、トイレから戻ったらまたカテーテルを入れ直すのが意味不明だった。 尿は携帯パックに溜めればよ
くて、そのままトイレに行けばいいのに、これらの事から作者は臨床には疎いのだろうかと思った。
本作は、特に物語の序盤の薄っぺらさが気になったが、同じ内容を他の人気作家が書いたとしたら、序盤
をもっと膨らませて、もっと謎めいて、もっと読者の気を引いて、もっと面白く書くだろうと思った。
中盤から終盤にかけてのスリリングな展開が良かっただけに残念な所だったし、ラストの話の着地も少し
期待外れでイマイチだった。