私の読書記録

ミステリー、サスペンス、アクション
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人体工場 / 仙川 環

2024年10月05日 | 読んだ小説
                    

☆☆
主人公の男子大学生が、報酬の良い治験のアルバイトをした後に大学の健診の尿検査で異常が発見され
る。 驚いて治験のアルバイト先のクリニックに連絡を取ってもクリニックは忽然と消えていた。
男子大学生は、同じ日にいっしょに治験のアルバイトをした女性を捜し出し、女性にも尿検査で同じ
異常がある事が分かり、大学病院の女医の協力を得ながら2人で怪しげなクリニックの調査を始める。 
そんな中で男性は何者かに狙われ、女性の方は連絡が取れなくなり行方が分からなくなる。

主人公らに協力する言葉遣いが乱暴な女医も何となく隠している事がありそうで、前半にチラっとだけ
登場した大学病院の院長が事件の黒幕なのではないかと多くの読者が想像できたかもしれない。

更に話が進み、あの怪しげなクリニックの医師が不審な謎の死を遂げる一方、行方不明の女性は、父親の
末期癌を何とか治療したいが故に、自らの意思で不審死する前のクリニックの医師の所へ行き敵方に洗脳
され、再び治験と同じ事をやっていた。 男子大学生は、女性を救い出すために敵の本拠地へ乗り込む
が、何で危険を冒してまで乗り込むのかよく分からなかった。 別に女性の彼氏でもないし、女性は自らの
意思で行ったんだし、自分の身体には何の問題もないんだし、もう済んだ話で自分には関係のない事と
放っておけばいいのに。

そして、事件の真相は、画期的な治療薬を作るために人体を工場にするというもので、上手くいけば多く
の人を救えるかもしれないが倫理的にアウトな行為だという事だが、被験者に特殊な薬剤を注射し、その
後10日ほど排出される尿を提供するだけで人体に別状なしで、人体工場になる者に害がないのなら同意が
あれば別に倫理的にアウトだとは私は思わなかった。

他に気になった所は、2人を検査する大学病院で若い男女を2人きりで同じ病室に入院させるだろうか。
もし、性的な傷害などのトラブルが起こった場合に病院の責任問題になってしまう。
あと私も腎生検を2回した事があるが、腎生検した患者を、その日の内に退院させるなんてあるのだろう
か。 私の病院では、起きてトイレに行くのも禁止で、次の日の朝9時までベッドで絶対安静だった。
それから、尿道にカテーテルを入れた者が大便をするためにトイレに行く時、いちいちカテーテルを抜い
て、トイレから戻ったらまたカテーテルを入れ直すのが意味不明だった。 尿は携帯パックに溜めればよ
くて、そのままトイレに行けばいいのに、これらの事から作者は臨床には疎いのだろうかと思った。

本作は、特に物語の序盤の薄っぺらさが気になったが、同じ内容を他の人気作家が書いたとしたら、序盤
をもっと膨らませて、もっと謎めいて、もっと読者の気を引いて、もっと面白く書くだろうと思った。
中盤から終盤にかけてのスリリングな展開が良かっただけに残念な所だったし、ラストの話の着地も少し
期待外れでイマイチだった。

マスカレード・ナイト / 東野圭吾

2024年09月30日 | 読んだ小説
                    


刑事と今回はホテルのコンシェルジュに昇格した女性スタッフのお馴染みコンビが、再びホテル内で起こ
る事件を解決するマスカレード・シリーズの第三弾。

マンションの一室で若い女性の他殺死体が発見され、警察に何者かから、犯人はホテル・コルテシア東京
の年末カウントダウン・パーティーに現れると密告状が届く。 主人公の刑事は、ホテルのフロントク
ラークに扮して潜入捜査に入り、もう1人の主人公のホテルの女性コンシェルジュは、年末の宿泊客の
対応に追われていた。 果たして密告状を書いた人物とは、そして、事件の犯人は、更には密告者と犯人
との関係は・・・。

前作か前々作でも思ったが、主人公の女性コンシェルジュは、一見非常に優秀な凄腕ホテルウーマンだと
思えるが、お客様に非常に無礼だったり、リスクマネージメント的にもヤバそうな行動を取ったりする
危険人物でもある。 今回も宿泊客の男性が、他の宿泊客の女性との仲を取り持ってほしいと頼んできた
時に、女性の方にはご主人が一緒に宿泊している事になっていたのだから、頼んできた男性に、その事を
ちゃんと告げるのが、男性に対しても相手の女性に対しても、まともな誠意のある対応だと思うが。
この件は、男性客も女性客もフェイクだったから良かったが、普通に考えたらお客様が怒って大問題に
発展しかねない事案だった。

後は、私が再三このブログでも書いてきている、ミステリーに於いての登場人物らの思考や行動に納得で
きるかという点だが、
①本当か嘘か分からないあの密告状で、警察があそこまで大規模な捜査体制を取るだろうか。
②相手は凶悪な殺人犯なのに、一般女性の密告者が犯人を強請るなんて事をするだろうか。
③主人公のコンシェルジュは、仕事柄お客様の対応には時間に正確でなければならないはずで、すぐに狂
 いやすい腕時計なんか身に着けているだろうか。
④主人公の刑事が最後に犯人に接触したのに、その犯人を放って犯人が直前にいた場所に向かうなんて、
 そんな行動を絶対にするはずがない。 あの場では何よりも犯人確保が第一優先であるはずで、犯人が
 その前にいた場所で何をしていたかなんて、何も分からないあの時点では、後で他の捜査員に見に行っ
 てもらえばいいだけだったはず。
など、いろいろツッコミ所や作者のトランスジェンダーに対する認識不足もあったりするが、
今回もホテルの裏側を、いろいろ知る事ができて面白い作品だった。

雪のアルバム / 三浦綾子

2024年09月23日 | 読んだ小説
                    


主人公の女性は、生まれてからずっと母子家庭で育ち、母親が家で男の客を取っている間は、雨が降ろう
が雪が降ろうが、ずっと外に出され、ある時は、お金を盗んでなんかいないのに母親から信じてもらえず
激しく叱られ、近所の子達からは、泥棒とずっとイジメ続けられ、人と接する事を避ける暗い無口な少女
になっていた。 更に小学4年生の時に母親の愛人に弄ばれ、大人に対する不信感を思っていたが、そん
な彼女が、信仰心の篤い優しい叔母の深い愛情や、一人の心正しい少年との出会いによって暗く沈んだ心
が光に照らされていく。

しかし、それにしても叔母の死は早過ぎる。 よく神仏のような清らかで尊い心根の人は、この世での修
行を早く終える事ができて神様の身下に呼び戻されるとか聞いた事があるが、もっと叔母の、その深い愛
情で主人公の少女を包み守って導いてあげてほしかった。 そして、少年の方は、主人公の中の嫌な醜い
部分を知ってショックを受けて一時期主人公から離れてしまったが、主人公には決して人には言えない暗
く悲しい事情があったのだし、自分のご立派な正義感だけを振りかざしてもなぁと思う。 自分を傷つけ
た人、自分に酷い事をした人の事を憎む気持ちを無理に抑え込まなくていい。 自分をイジメ続けた近所
の子や、自分の体を弄んだ母親の愛人を憎み許せないのは当然で何ら後悔する事も恥じる事もない。

やがて主人公も信仰に目覚め、本作は23歳の時に洗礼を受けるために教会の牧師に示した信仰告白の文章
を辿りながら描かれた物語だが、ずっと自分の辛かった人生を思うばかりで、母を蔑み、母の辛かったで
あろう人生を思いやる事などできなかった自分に洗礼を受ける資格なんかあるのだろうかと悩むくらいの
真面目な人物で、不遇な生い立ちから来る人に対する妬みや恨みを持ってしまうのはしょうがない事で、
それが人間だと思うし、それでも自分自身を見つめ正しく生きようとする姿には感動を覚える。

私がこの物語を読んで思ったのは、自分を(人を)傷つけるのは、誰かの悪意であり自分自身でもあり、
自分を(人を)救うのも、誰かの愛情であり自分自身でもあるという事か。 

ワイルド・フォレスト / サンドラ・ブラウン

2024年09月19日 | 読んだ小説
                    

☆☆
カナダの山深い原生林地帯に小型飛行機が墜落する。
奇跡的に生き残ったのは、社長令嬢と帰還兵の2人だけだった。 2人は生まれ育ちの違いによる価値観
の相違や、帰還兵の男性が、過去に女性に辛い経験があり、上流階級の女性に嫌悪感を持っており、
共に生き残った女性に冷たく辛辣な態度で接してしまう。 そんな2人は、何度も反発や衝突しながらも
無事生還するために過酷なサバイバルを強いられる。

過去にも何度か、山奥や砂漠、無人島などに取り残された男女の、ほとんど本作と似たようなサバイバ
ル・ラブストーリーを観たり読んだりした事があって、始めの内は、かなりベタ過ぎる内容だと思った
し、きっと幾多の苦難を乗り越えながら、次第に2人の距離が縮まり信頼し合い愛が深まっていくスト
ーリーなんだろうなと予測していたが、実際に大方そうなのだが、2人がお互いに惹かれ合う理由が、
精神的なものよりも肉体的なものというのがポイントか。 

一応サバイバル小説の部類には入るのだろうけど、遭難している間は、サバイバル場面にはそこまで
重きを置かずに一時避難生活を送る小屋での2人のやり取りを中心に描かれている。 やがて社長令嬢
の父親の財力に物を言わせた救出活動で遭難後2週間で2人は救出されるが、救出後、特に女性の方は、
マスコミや世間、友人らの執拗な好奇の目に晒される事になる。

2人はお互い愛し合っていたが、それぞれの住む場所へと戻っていく事になるが、女性の父親が、今回の
娘の体験を映画会社やメディアに売って儲けようとし、更には男性の住む地域の広大で自然豊かな土地を
買収して儲けようとまで企み父と娘の確執が大きくなる。 そんな女性の元へ男性は再び訪ねて来るが、
男性は過去の辛い経験から今だに逃れられず、女性の事を信じて、その愛を真っすぐに受け入れる事がで
きないでいた。 果たして2人の愛の行方は・・・。

作者は、2人が救出された後の傷つき揺れ動き彷徨いながらも、尚もお互いを求めて止まない愛の行方を
メインに描きたくて、その辺が同系他作との違いでいいし、もちろんラストはハッピーエンドなのだが、
精神的な結びつきよりも、発情期で盛りの付いた獣のような生臭い2人が、くっ付こうが離れようが、
私的には特に興味はなかった。

さいはての彼女 / 原田マハ

2024年09月13日 | 読んだ小説
                    

☆☆
この短編集に登場する女性達は、これまでバリバリ働いてきたキャリアウーマンで、そんな恋も仕事も
頑張り過ぎて傷ついて疲れてしまった心と体を、旅先で出会った人達とのふれあいや、自然に癒されて
強張った心と体が少しづつ解けて、また新たに再生していこうとする姿を描いたもの。

表題作の「さいはての彼女」は、会社の重要な部下が次々と辞めていってしまうほどの傲慢な女社長が、
秘書に嵌められて北海道の最果てへ行くことになってしまい、旅先で耳が聞こえないけどハーレーに乗る
明るく元気な若い女性ライダーと知り合う。 でも、女性ライダーは、気の荒そうな中年女性の事を、
何で最初からあんなに気に入ったのかよく分からなかったが、2人はタンデムで最果てを旅する。
いい作品だし、女性ライダーは凄く輝いていて魅力的な女性なのだが、彼女のいろんな事が分かる前から
彼女の妙な明るさと元気さに、逆に悲しみの影ようなものを感じてしまい何か少し息苦しかった。

2作目の「旅をあきらめた友と、その母への手紙」は、会社でそれなりの地位にあった女性だったが、
業績が上がらず会社を辞めてしまう。 その後に大学時代の女友達と2人で何度も旅行へ行っていたけ
ど、今回の旅行は、友達が母親の病気で急に来れなくなってしまい一人旅になってしまう。 そんな旅先
で自然や宿の趣に浸りながら自身や故郷の母親の事、友達の事を思い、友達からのメールを読んで、
友達の母へ感謝と労りの手紙をしたためる。  

3作目の「冬空のクレーン」は、会社での自分の地位に傲慢になっていた女性が、パワハラで部下から
訴えられ、社長からも叱責され休職する。 自分が休んだら部署の仕事が立ち行かなくなるだろうと思っ
ていたが、会社からは何の連絡もなく、自分が会社の歯車ですらなくスペアなどいくらでもある少し大き
めのネジだった事に気が付く。 女性は復帰後の人目と懲罰人事の不安から逃れるために冬の北海道へ旅
に出る。 自分の肩書きなど何の意味も持たない厳しい北の大自然の中で、美しいタンチョウヅルと、
ツルを保護する男性と出会うが、偶然にもその男性は、東京の会社での彼女の肩書きを知っていて、男性
の温かく力強い言葉に女性は胸を打たれ勇気を得る。 私は、この3作目が一番好きかもしれない。

4作目の「風を止めないで」は、「さいはての彼女」に出てくる耳の聞こえない若い女性ライダーの母親
が主人公で、長期ツーリングに出かけた娘と行き違いに年配の男性が家に娘を訪ねて来る。母親は、その
男性に死んだ夫の面影を重ね合わせ仄かに女になりときめくが、その男性との一時の交流の中で、自分も
死んだ夫や娘のようにハーレーを好きになりたいと思うようになる。 「さいはての彼女」で、私は何で
女性ライダーが、傲慢な女社長を気に入ったのか分からなかったが、彼女が旅先の北海道から母親に送っ
たメールで、それが分かってちょっとスッキリした。