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ある男 / 平野啓一郎

2024年11月28日 | 読んだ小説
                    


次男を病気で亡くしたバツイチ子持ち女性が、``ある男``と再婚して娘も儲けて3年9ヶ月の間普通に
暮らしていたが、その夫になった男が事故死した後に、夫が名前や生い立ちを偽っていたまったくの別人
だった事が判明する。 女性は、以前に離婚調停の時に世話になった弁護士(何故か物語の主人公)に、
夫の正体と死んだ夫が名乗っていた実在の人物の消息の判明、死んだ夫が別人だった事による法的事務
手続きを依頼する。

女性は、あの穏やかで幸せだった3年9ヶ月の日々は、私と長男、そして2人の本当の娘にとっていった
い何だったんだろうと苦悩し、弁護士は、自身が在日3世である事の複雑な思いや妻と家庭内で距離が
できて冷めた関係になってしまっている事に、自分の人生はいったい何だったんだろうと苦悩しながら、
自分が別人になる事に憧れを持ち、バーで女性の夫が名乗った名前と生い立ちの男に扮する。

おそらくこの物語を読んだ多くの人が、夫にずっと嘘をつかれ騙されていた家族の方にこそ興味があり、
弁護士の生い立ち、家庭生活、心情などは別にどうでもよくて、弁護士が名前と生い立ちを偽って死ん
だ夫の真実を調査し暴いていくのには興味があるが、何でこの弁護士の苦悩の話の方がメインで弁護士
の方が主人公なのか。 女性の方が主人公であるべきだろうと残念に思うだろう。

弁護士の調査の結果、名前を偽って死んだ夫は、父親が息子の友達も含む一家3人を殺害した凶悪殺人犯
の死刑囚で、その息子である苦しみと、周りの者からの攻撃や蔑みの目から逃れるために他人と名前と生
い立ちを交換し入れ替わった事が分かった。

そして、名前と生い立ちを変えた男は、女性と出逢い結婚し娘も生れ、妻と2人の子供を愛し、まじめに
一生懸命働きながら3年9ヶ月の間幸せな生活を送った。 その幸せな家族生活は本当だったと思うが、
妻にさえ本当の事を最後まで言わなかったのは複雑な思いがする。 妻に本当の事を告白したとしても、
妻は理解し受け入れ、あんな事故がなかったら変わらず幸せな生活が続いていたんだろうと思う。

最後に重ねて主人公の弁護士の生い立ちや家庭生活の苦悩は別にどうでもいいが、弁護士の切なくて儚い
秘めたる恋が、せめてワンナイトラブでもあれば良かったのに。 でも、弁護士の妻が浮気をしているよ
うな描写があったから、妻と別れてあの女性といっしょになれる未来線があるのならいいけど。


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