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この短編集に登場する女性達は、これまでバリバリ働いてきたキャリアウーマンで、そんな恋も仕事も
頑張り過ぎて傷ついて疲れてしまった心と体を、旅先で出会った人達とのふれあいや、自然に癒されて
強張った心と体が少しづつ解けて、また新たに再生していこうとする姿を描いたもの。
表題作の「さいはての彼女」は、会社の重要な部下が次々と辞めていってしまうほどの傲慢な女社長が、
秘書に嵌められて北海道の最果てへ行くことになってしまい、旅先で耳が聞こえないけどハーレーに乗る
明るく元気な若い女性ライダーと知り合う。 でも、女性ライダーは、気の荒そうな中年女性の事を、
何で最初からあんなに気に入ったのかよく分からなかったが、2人はタンデムで最果てを旅する。
いい作品だし、女性ライダーは凄く輝いていて魅力的な女性なのだが、彼女のいろんな事が分かる前から
彼女の妙な明るさと元気さに、逆に悲しみの影ようなものを感じてしまい何か少し息苦しかった。
2作目の「旅をあきらめた友と、その母への手紙」は、会社でそれなりの地位にあった女性だったが、
業績が上がらず会社を辞めてしまう。 その後に大学時代の女友達と2人で何度も旅行へ行っていたけ
ど、今回の旅行は、友達が母親の病気で急に来れなくなってしまい一人旅になってしまう。 そんな旅先
で自然や宿の趣に浸りながら自身や故郷の母親の事、友達の事を思い、友達からのメールを読んで、
友達の母へ感謝と労りの手紙をしたためる。
3作目の「冬空のクレーン」は、会社での自分の地位に傲慢になっていた女性が、パワハラで部下から
訴えられ、社長からも叱責され休職する。 自分が休んだら部署の仕事が立ち行かなくなるだろうと思っ
ていたが、会社からは何の連絡もなく、自分が会社の歯車ですらなくスペアなどいくらでもある少し大き
めのネジだった事に気が付く。 女性は復帰後の人目と懲罰人事の不安から逃れるために冬の北海道へ旅
に出る。 自分の肩書きなど何の意味も持たない厳しい北の大自然の中で、美しいタンチョウヅルと、
ツルを保護する男性と出会うが、偶然にもその男性は、東京の会社での彼女の肩書きを知っていて、男性
の温かく力強い言葉に女性は胸を打たれ勇気を得る。 私は、この3作目が一番好きかもしれない。
4作目の「風を止めないで」は、「さいはての彼女」に出てくる耳の聞こえない若い女性ライダーの母親
が主人公で、長期ツーリングに出かけた娘と行き違いに年配の男性が家に娘を訪ねて来る。母親は、その
男性に死んだ夫の面影を重ね合わせ仄かに女になりときめくが、その男性との一時の交流の中で、自分も
死んだ夫や娘のようにハーレーを好きになりたいと思うようになる。 「さいはての彼女」で、私は何で
女性ライダーが、傲慢な女社長を気に入ったのか分からなかったが、彼女が旅先の北海道から母親に送っ
たメールで、それが分かってちょっとスッキリした。