私の読書記録

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さいはての彼女 / 原田マハ

2024年09月13日 | 読んだ小説
                    

☆☆
この短編集に登場する女性達は、これまでバリバリ働いてきたキャリアウーマンで、そんな恋も仕事も
頑張り過ぎて傷ついて疲れてしまった心と体を、旅先で出会った人達とのふれあいや、自然に癒されて
強張った心と体が少しづつ解けて、また新たに再生していこうとする姿を描いたもの。

表題作の「さいはての彼女」は、会社の重要な部下が次々と辞めていってしまうほどの傲慢な女社長が、
秘書に嵌められて北海道の最果てへ行くことになってしまい、旅先で耳が聞こえないけどハーレーに乗る
明るく元気な若い女性ライダーと知り合う。 でも、女性ライダーは、気の荒そうな中年女性の事を、
何で最初からあんなに気に入ったのかよく分からなかったが、2人はタンデムで最果てを旅する。
いい作品だし、女性ライダーは凄く輝いていて魅力的な女性なのだが、彼女のいろんな事が分かる前から
彼女の妙な明るさと元気さに、逆に悲しみの影ようなものを感じてしまい何か少し息苦しかった。

2作目の「旅をあきらめた友と、その母への手紙」は、会社でそれなりの地位にあった女性だったが、
業績が上がらず会社を辞めてしまう。 その後に大学時代の女友達と2人で何度も旅行へ行っていたけ
ど、今回の旅行は、友達が母親の病気で急に来れなくなってしまい一人旅になってしまう。 そんな旅先
で自然や宿の趣に浸りながら自身や故郷の母親の事、友達の事を思い、友達からのメールを読んで、
友達の母へ感謝と労りの手紙をしたためる。  

3作目の「冬空のクレーン」は、会社での自分の地位に傲慢になっていた女性が、パワハラで部下から
訴えられ、社長からも叱責され休職する。 自分が休んだら部署の仕事が立ち行かなくなるだろうと思っ
ていたが、会社からは何の連絡もなく、自分が会社の歯車ですらなくスペアなどいくらでもある少し大き
めのネジだった事に気が付く。 女性は復帰後の人目と懲罰人事の不安から逃れるために冬の北海道へ旅
に出る。 自分の肩書きなど何の意味も持たない厳しい北の大自然の中で、美しいタンチョウヅルと、
ツルを保護する男性と出会うが、偶然にもその男性は、東京の会社での彼女の肩書きを知っていて、男性
の温かく力強い言葉に女性は胸を打たれ勇気を得る。 私は、この3作目が一番好きかもしれない。

4作目の「風を止めないで」は、「さいはての彼女」に出てくる耳の聞こえない若い女性ライダーの母親
が主人公で、長期ツーリングに出かけた娘と行き違いに年配の男性が家に娘を訪ねて来る。母親は、その
男性に死んだ夫の面影を重ね合わせ仄かに女になりときめくが、その男性との一時の交流の中で、自分も
死んだ夫や娘のようにハーレーを好きになりたいと思うようになる。 「さいはての彼女」で、私は何で
女性ライダーが、傲慢な女社長を気に入ったのか分からなかったが、彼女が旅先の北海道から母親に送っ
たメールで、それが分かってちょっとスッキリした。

そして、バトンは渡された / 瀬尾まいこ

2024年09月10日 | 読んだ小説
                    


主人公の女子高生の娘は、いろいろな事情で17年間の人生で父親が3人、母親が2人、家族の形態が7回
変わったかなり珍しい境遇だ。 

最初に3歳の時に実の母親が亡くなって、小学生の時に父親が再婚して、その後、父親が継母と別れ娘を
置いて海外に単身赴任して、しばらくは継母と2人で暮らしていたが、その後に継母が別の男性と再婚し
3人で暮らすようになった。 しかし、継母はすぐに夫と別居し娘は2人目の父親である継父と3年ほど
暮らしたが、出て行った継母は継父と別れ別の男性と再婚した。 そして娘は、また継母の元に戻って新
しい次の継父を得たが、継母はすぐにその継父とも別れてしまい娘を置いて出ていき、今はその3人目の
父親と娘の2人で暮らしていた。

そして、どの親も娘の事を愛してくれて、娘の方も、どの親の事も慕い幸せに暮らしていた。
しかし、そんな世の中に善人な良い親ばかりいるかなとも思うが、どの親も良い親になろうと、娘も良い
娘になろうと努力していて、家族ごっこだとしても各親も娘も真っ当で真面目な人達なんだと思う。
特に2人目の母親は、かなり奔放で、いろんな状況へと良くも悪くも娘を導いた人のようにも思えたが、
実は娘の事を思って必死に行動してくれていた愛情深い人だった事が後の方で分かる。

海外に単身赴任した実の父親だが、娘に100通以上もの手紙を送っても何の返事もなければ、心配して国際
電話を掛けるとか、一時帰国して娘の様子を見に来るとかするのが普通だと思うが、帰国してからも2人
目の母親に「娘に会いたい」と言っても拒否されると、それ以上強く出なかったのは、実父は優しい人だ
から娘の今の生活を壊したくはないという思いからだったのかもしれない。

こんな数奇な運命の主人公の娘だが凄く残念なのが、実の父親が海外に行ってしまうまでは交流のあった
祖父母と完全に疎遠になっている事で、娘が22歳になって結婚を決意してからは、2番目の父親と2番目
の母親に報告に行ったのは当然だし良い事だと思うけど、今は3人目の父親と暮らしていても、かつては
一緒に暮らしたり娘や孫として愛し可愛がってくれた人達と、もう少し普段から付き合いがあったら嬉し
かったのになと思う。 

最後は結婚式で、実父もその後の親達も一堂に会する事ができたのは凄く良かった。 そして、バージン
ロードを娘と共に歩くのを3人目の父親が務め、これから娘と2人で新しい人生を始める新郎に、実父
から各親を経て託されてきたバトンを渡すような感動的なシーンだった。 娘が数奇な人生で得た教訓の
「一番大事なのは友達じゃなくて家族」というのを、新しい家族になる新郎と共に幸せな家庭を築いて
いってほしいし、これからもずっと、すべての親達とも普段からの繋がりを持っていてほしいと思った。

水の恋 / 池永 陽

2024年09月03日 | 読んだ小説
                    

☆☆
主人公の男性の親友は、渓流釣りで濁流に呑まれての事故死なのか自殺なのか失踪なのか。
そして、男性は妻と親友との間に過去に何かあったのかと疑心暗鬼になりながら、消えた(死んだ?)
親友の謎を解明するために奥飛騨の神馳淵に生息するという伝説の仙人イワナ(人面魚)に挑む。
何で仙人イワナを釣り上げると死んだ?親友の謎が解明できるのかイマイチ意味不明なのだが・・・。
でも、人面魚の面相には最初の方から察しがついていたし、多くの読者もそうだっただろう。

この物語、一言で言ってしまえば嫉妬深く女々しい優柔不断な男の話で、大学時代に主人公と親友と現在
は主人公の妻になった女性の3人は友人同士で、主人公と親友は、女性に対して抜け駆けはしないと誓い
合ったが、ある一夜に親友と女性との間に関係があったのではないかと疑っている。
それが事実なら2人に裏切られたと当時ショックを受けたのも分からないではないが、何の確かな証拠も
ないし、そうだとしても、その後に親友は死んでしまい?、そのすぐ後に女性は、主人公と結婚してくれ
たのだから全然OKで、それでいいと思うのだが。 別に結婚後に妻が親友と不倫したわけでもないんだ
し、何で主人公は、こんなにいつまでもウジウジと女の腐ったのみたいに過去の事に拘り嫉妬し怒ってい
るのか私には理解できない。

他には主人公夫婦と失語症の少年との関り、いかにもなキャラの親友の妹、神馳淵で知り合った怪しい
夫婦の地獄と悲しみ、山の民(サンカ)を捜す変わり者の教師なども織り交ぜて話に膨らみを持たせては
いるが、結局は女々しい男の話が主なので、やっと最後に手紙で妻に、あの夜の事に疑いを持ち続けて悶
々と苦しんでいた事を告白するが、そんなんならすんなり最初から自分の嫁に訊けや鬱陶しい奴め。 
そして、ずっと根に持ってウジウジと悩んで妻を遠ざけていた夫に対して妻が、手紙を読んで夫の器の
小ささに逆に愛想を尽かさないのが不思議だった。 ちょっとこんな粘着質な鬱陶しい男は無理やわ。 
親友じゃなくてこいつが死んだら良かったのに。

永い言い訳 / 西川美和

2024年08月29日 | 読んだ小説
                    

☆☆
主人公の男性は、人気作家でTVなどにもよく出ている有名人で、妻との間には子供はおらず夫婦仲も
冷めていた。 そんな男性の妻が、友人女性と旅行中に事故で妻と友人女性の2人共亡くなってしまう。
しかし、事故のその時、主人公は他の女を妻のいない家に呼び寄せ不倫していた。 そして、妻が死んだ
数日後も同じように・・・。

妻が死んで残された主人公の男性と、友人女性の家族の夫と小学生の男の子と4歳の女の子。
夫同士は、それまで面識などなかったが、2人の子供の父親が長距離トラックの運転手で家を空けている
事が多く、成り行きで男性は時々2人の子供の面倒を見る事を申し出る。

普通よく知らない妻の友人家族に対して、そんな申し出などしないと思うが、その辺の話の持って行き方
が、それほど不自然ではなく私的には割とすんなり納得できた。 でも、週2回の夜だけ数ヶ月家に来て
いただけの男性に、子供らがこんなに簡単に懐くものなのかなぁ。 まぁ下の女の子の灯ちゃんがとても
お利口で可愛いからいいけど、この辺の主人公と子供達とのふれあいを、もっと沢山描いてほしかった。

粗野で暴力的で朴訥な子供達の父親の事もあまり好きではないが、尊大な態度の主人公はもっと好きにな
れなかったし、親子は間違いなく血の繋がった家族だが、夫婦は家族ではなくどこまでいっても他人同士
なんだろうか。 それは人それぞれなのかもしれないが、主人公が死んだ妻の事をどう思っていようが、
妻の友人家族との関りの中で、死んだ妻に対する思いがどう変化しようが、そんな事は興味がなく別にど
うでもよかった。 妻の友人家族を間近に見てきて死んだ妻に対して独りが単に寂しくなっただけで、
そこに愛が甦ったわけでもないし、贖罪の思いや今さら誠意が溢れてきたわけでもないと思うが。
それから章ごとに人物の視点が変わるが必要だったかな? 主人公視点だけでよかったのではないか。

時計仕掛けの歪んだ罠 / アルネ・ダール

2024年08月22日 | 読んだ小説
                    


スウェーデンで、この1年7ヶ月の間に3人の15歳の少女が失踪する事件が起きていた。
捜査に当たるのは、古い高価な腕時計をこよなく愛するストックホルム警察犯罪捜査課の警部。
しかし、彼の上司は、この3つの事件を同一人物による犯行という警部の主張には否定的だった。
そりゃそうだろう。 それくらいの年齢の少女の家出失踪なんて特に珍しくはないだろうから。
しかし、警部には上司や他の同僚らには話していない何か心当たりがあるみたいだった。

やがて犯人の手先として1人の女性が浮かび上がり署に連行して警部が取調室で尋問する。
しかし、この女性の正体は、同じ事件を追う公安警察の潜入捜査官で、あっという間に立場が逆転し、
今度は警部が公安に連行され、その女性捜査官に尋問される。 実は女性捜査官は、子供の頃に警部と
同時期に同じ学校に通っていて、その時の出来事で、彼女にも今回の少女失踪事件の犯人に心当たりが
あり、それを公安の上司や同僚らにも話さずに独自の捜査を続けていた。 そして今度は、警部と女性
捜査官が勝手に職務を逸脱したタッグを組み、どちらも免職覚悟で少女失踪事件の犯人を追う事になる。
この第2部の怒涛の展開は、なかなか凄い物がある。

第3部では、2人は犯罪者のように公安や警察から逃げ隠れしながら、2人の子供の頃の暗く忌まわしい
出来事から今回の事件の犯人と確信する人物を追うための執念の捜査が続く。 そして、第4部での始ま
りの場所での最後の対決。 2人は、かつての知人である犯人を射殺し監禁されていた少女たちを解放で
きたが、事件のもうひとつの真相である公安の闇が浮かび上がり、次のシリーズに続いていくのであろう
衝撃のラストを迎える。 本作は、物語全体を暗く陰鬱な雰囲気が包んでおり、最初から最後まで終始降
り続く激しい雨が強くその陰鬱さを象徴している。