さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

カケラ世界4・魔女の後見と、平行世界

2009年06月23日 00時56分38秒 | ループ説・カケラ世界
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


カケラ世界4・魔女の後見と、平行世界
 筆者-初出●Townmemory -(2009/06/21(Sun) 21:53:39)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=27377&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「ラムダデルタにチェックをかけろ」シリーズの4回目です。
 やっとラムダデルタが登場しました。長かった。

 以下が本文です。


     ☆


 続きものの第4回です。

 カケラ世界1・ep1が最初に起こった
 カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法
 カケラ世界3・上位戦人の正体


●上位ベアトを観測したのは誰だ(それはラムダ)

 前回、上位戦人が出現するメカニズムについて考えました。
 まとめると、
 下位戦人が死亡することにより、「俺は生きて、ここにいる」と観測する「俺」が存在しなくなる(観測不能状態に置かれる)。
 このことにより、戦人は「生きてても死んでてもいいし、どこに存在していてもいい」という状態になる。
 メタ空間にいる上位ベアトが、「戦人はここにいる」と観測してやることで、「ここにいる」という事実が確定し、メタ世界に戦人が存在しはじめる。
 そういうことでした。

 さて、これまでの議論では、「上位ベアトはルールの擬人化であるから、ルールが成立してから、初めて存在しはじめた」という結論になっていました。

 でも、それだとちょっと間尺にあわないところがあるんですよ。
 ルールという「現象」の擬人化であるのなら、なんであんなに感情的なのか?
 どう考えたって、連続殺人を犯した「犯人」に強く感情移入している。

 上位ベアトは、確かにルールの擬人化であるかもしれないが、それと同時に、やっぱり犯人そのものでもあるんじゃないか?

 ep1の終幕に、犯人が何らかの形で自殺していれば、戦人と同様のリクツで、犯人はベアトリーチェになってメタ空間に存在することができます。

 犯人が死ぬと、「私は私であり、この現実世界にいる」と観測する「私」がいなくなりますので、猫箱の猫と同じ状況になります。
 彼(または彼女)は、「私」以外の誰にでもなれるようになります。
 そしてどこにでも存在できる可能性を手に入れます。
 そこで、犯人はベアトリーチェの姿を手に入れ、お茶会空間やら、メタ空間といった、「どこでもない場所」で存在しはじめます。

 こんな考えかたを導入すれば、上位ベアトは、犯人そのものであり、ルールの擬人化でもある、というふうに言えそうです。

 しかし、問題がひとつある。
 上位戦人は、上位ベアトが「観測」することによって存在を確定させたものでした。

 じゃあ、上位ベアトは、誰が「観測」したんだろう?
 誰かが観測してくれて、存在を確定させてくれなければ、上位ベアトは「あまたの可能性のひとつ」でしかないので、登場できません。

 上位ベアトは「い」る、と、誰かが認めてくれなければならない。
 それは誰か。
 そこで、ラムダデルタにご登場願うわけです。
(ああ、やっとラムダデルタまでたどりついた)

 ラムダデルタさんが、
「アンタはここにいるわよ。アンタは魔女だわよ。他ならぬ私が認めるんだから絶対そうに決まってるんだからね」
 と観測してくれたら、犯人はベアトリーチェになってメタ空間に登場できそうです。

 そう……
「魔女になるには、後見人が必要」
 という設定は、このことを意味しているのではないか?

「後見人になる」とは、そういう魔女を観測してやることにより、存在を確定させてやることではないでしょうか?
 小冊子「ラムダデルタ卿による回想記」に出てくる「自分を魔女にして下さい」と言った人物は、「自分はすでに魔女だが、上位の魔女にそのことを認めてもらいたい」と言っていました。
 上位空間にいるラムダが、「アンタはここにいるわよ」と認定してくれれば、人間界にいた自称魔女は、上位空間に来て、上位魔女になることができます。
 ラムダは、「逆らうと、後見人やめるわよ」とベアトを脅しています。
 ラムダが「アンタは魔女で、ここにいる」と観測することをやめれば、ベアトはただちにメタ空間に存在できなくなります。彼女は、可能性の海の、水分子たったひとつに戻ってしまいます。
「考えうる限り最悪にみじめなカケラにベアトを閉じこめる」ことも可能です。そういうカケラを観測し、「ベアトはそこにいる」とラムダが観測すればよいのです。

 ベアトリーチェとラムダデルタの関係性を示す描写が、この推理で、あるていど整合すると思えるんですが、どうでしょうか。

 そして彼女らの関係性が、そのまま、縁寿とベルンカステルの関係性でもあるわけです。投身自殺をした縁寿に対し、「あなたはここにいるわ」と「後見」してやることにより、エンジェ・ベアトリーチェは上位魔女となってメタ空間に現れる、そう言えそうです。


●可能性分岐と平行世界

 さて、ラムダデルタにご登場いただいたところで、ここでまた、ちょっとだけ、量子力学のおさらいに戻らせて下さい。

 このシリーズの第2回でやりましたが、
 ep1が起こって、六軒島が猫箱状態になった。その状態で、ep2をベアトたちが観測したので、ep2も存在することになった。
 ep1とep2は、両方実在する。

 でもこれ、ちょっと困ったことになりますよ。

 ep1とep2は、両方実在するとしたら、1個の猫箱に、2匹の猫が入ってることになりますよね。
 ep4まで実在するのなら、1個の猫箱に、4匹の猫が入ってることになる。
 なんと、1個の六軒島に、4個の六軒島が入ってなければいけなくなります。

 それはさすがにムリっぽいです。
 1匹の猫を、1個のケリーバッグに変えるのはOKですが、2匹の猫に変えるのは、フィーリングとしてダメな気がします。

 そこで、「平行世界」という概念が導入されるわけです。

 ep2や3や4は、ep1から分岐した、パラレルワールドであると考えることで、この矛盾を解消するわけです。

 何だか急にSFチックな話になったな、と思われるかもしれませんが、これ、考え方として物理分野にちゃんとあるそうです。「多世界解釈」とか「エヴェレット解釈」とかいうそうです。

 例えば、コインを弾いて、手のひらに隠して、
「裏か、表か」
 という賭けがありますよね。

 コインを手のひらで伏せている状態では、裏表を確認できないので、これってまさに猫箱なわけです。
 コインは基本的に、裏か表かしかないので、表の確率が50%、裏の確率が50%です。

 ここで手のひらをあけて、表だったとします。表50%が当たったわけですね。

 あれっ、ちょっと待って下さい。
 コインを伏せているときには、表の確率も裏の確率も50%ずつありましたよね。
 でも、手を開いたら、表しか出てこなかった。
 さっきまで手の中にあった、「裏が出るかもしれない50%の可能性」は、どこに行っちゃったんでしょう?

 それは、別の世界に行ってしまったのだ、と考えるのだそうです。

 コインを弾いて、パチンと伏せた時点で、「表が出る世界」と、「裏が出る世界」の2つに、世界が分岐したんだというんですね。
 わたしたちはたまたま、「表が出る世界」の人間だから、表のコインを見て、「裏の50%はどこいっちゃったのかなー」と思うわけですが、もうひとつの世界には、「裏のコインが出てきた世界のわたしたち」がいて、「表が出る50%の確率ってどこいっちゃったんだろう」と首をかしげている。

 われわれの世界は、今、こうしている間にも、すごい勢いで枝分かれしている。今、デスクで飲んでいるお茶をこぼした世界とこぼさなかった世界とか。今キーボードに向かって打っているこの文章を、打ち間違えた世界と間違えなかった世界とか。
 天気予報なんてのもそうですね。降水確率30%というのは、今日という条件の日が10日あったら、そのうち3日は雨が降り、残りの7日は降らないだろうという意味です。ということは、降水確率30%の予報が出た瞬間、世界は10個に枝分かれするわけです。

(厳密には、べつに平行世界が生じてるわけでもないそうですが、それだと面白くないので、平行世界が生まれてることにします)


 ということは。
 量子力学=シュレディンガーの猫箱のリクツを採用している「うみねこ」の世界観では、平行世界を想定してよい。

 ま、あたりまえの結論ではあるんです。
 ひぐらしのときからそうでしたからね。
 でも、このへんの議論を、あとあとに効かせる予定がありますので、おさらい的にまとめておきました。

 ひぐらし、うみねこに共通して、「カケラ」という、不思議なことばが使われています。

「異なる運命や境遇の世界をカケラと呼」ぶ、と、TIPSに書かれています。
 あと、「カケラ世界」という言い方もTIPSにあります。

「カケラ」「カケラ世界」とは、量子力学的な意味での平行世界のことである。
 そう考えても良さそうです。
 なので、そのように考えることにします。
「量子力学的な発想の延長上にある」というところを、ポイントにしたいなと思ってます。


 次回は、カケラ世界って具体的に何なの、航海者って何なのっていう話です。
(つまり、まだ終わりません)
 続き→ カケラ世界5・すべてが正解になる



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


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●ループ説・カケラ世界関連

 「犯人」がループ存在だとしたら?
 ループ犯人から見た「駒の動き」
 カケラ世界1・ep1が最初に起こった
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 カケラ世界3・上位戦人の正体
 カケラ世界4・魔女の後見と、平行世界
 カケラ世界5・すべてが正解になる
 カケラ世界6・ラムダデルタの正体
 カケラ世界補遺・神々のお人形遊びとTIPSの謎
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カケラ世界3・上位戦人の正体

2009年06月22日 00時56分27秒 | ループ説・カケラ世界
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


カケラ世界3・上位戦人の正体
 筆者-初出●Townmemory -(2009/06/19(Fri) 13:41:09)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=27220&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「ラムダデルタにチェックをかけろ」シリーズの3回目です。

 以下が本文です。


     ☆


 続きものの第3回になっております。

 カケラ世界1・ep1が最初に起こった
 カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法



●戦人は黄金郷に招かれたのでしょうか

 第1回で、
「ep1本編に上位ベアト(ドレスの人)が現れないのは、ep1が終わるまで彼女が存在していなかったからだ」
 というお話をしました。

 ep1本編に登場せず、終了直後から急に登場し始めたキャラが、もう1人います。

 それは、
 上位戦人です。
 あの、青字で喋ったり、推理合戦をしたりしている人です。

 上位ベアト出現のメカニズムにならえば、
「ep1本編が終わるまでは、上位戦人は存在していなかった」
 と考えるのがスジです。

 仮に、そうだと考えることにしましょう。

 上位ベアトは、正体がルールの擬人化だから、ルールが成立するまではいなかった。
 じゃあ、上位戦人の正体は誰なんだ?



 これ、うまく説明できる自信がないんですが、少なくとも、実体のある存在じゃなさそうだ。
 どこかから、生きた戦人くんを連れてきて、そこに置いたわけじゃない、と思うのです。

 じゃあ、
 あの戦人は実体のない存在、ということにします。仮に。

「うみねこ」には、実体のないものが、あたかも存在するかのように振る舞うケースがいくつか見られます。

 たとえば、真里亞が呼び出した、さくたろう。
 たとえば、縁寿が呼び出した、マモン。

 では、実体のない戦人は、それと同様のものではないのか?

 つまり、上位戦人は、上位ベアトが、「いる」と思うことによって呼び出した架空の戦人である。
 そういう想像は、話の流れ的に、比較的簡単に想定できるんじゃないだろうか。

 仮にそうだとする。
 仮にそうだとすると、ep1が終わるまで、彼が存在できなかった説明できる……ような気がする(だんだん自信がなくなってくる……)。

 第1に、上位ベアトさん自体が、ep1終了まで存在していなかったのだから、上位戦人も、彼女が存在して以降でないと、呼び出されることができない。

 そして第2に、上位戦人をメタ空間に呼び出すためには、呼び出される戦人が「俺はここにいる」と認めてくれねばならない。


 第2のポイントがちょっとわかりにくいですね。

 さくたろうの例と同じで、
 上位ベアトが「戦人はここにいる」と認め、戦人が「俺はここにいる」と認めないと、上位戦人は上位空間(メタ空間)に存在できないです。

 ところが、ep1が終了するまでは、戦人というひとは、現実の六軒島の、あのお屋敷にいるわけです。
 いいかえれば、戦人は、「俺は六軒島の右代宮邸にいる」と「自分を観測」している。
 ということは、戦人は、「俺はメタ空間なんて怪しい場所にはいない」と「自分を観測」している。

「俺はこんな場所にはいない」と「観測」されている戦人を、「ここ」に連れてくることは、できないんじゃないか、と考えられる。
 だって、そう観測されている以上、「戦人は六軒島にいる」という現実が確定するからです。

 じゃあ、どうすれば、戦人をメタ空間に存在させることができるのか。

 カンタンです。
 戦人が、「俺はいま六軒島にいる」と、観測しなくなれば良い。
 つまり、彼が死ねば良い。

 戦人が死ねば、「俺は六軒島にいる」と観測する主体がいなくなります。すると戦人という人物は観測不能の状態に置かれる。
 猫箱に閉じこめられた状態になる。
 猫箱の猫は生きていても死んでいても良い。
 あとは、上位ベアトが「生きている」と観測してやれば良い。

 このプロセスをふめば、上位ベアトは、上位戦人をメタ空間に招くことができます。
 こうして上位戦人は、お茶会に出現しました。

 1998年の縁寿も、実はプロセスはおなじです。たぶん。

 縁寿は、生きているかぎり、自分のことを「私は今、この現実にいる」と観測しつづける。
「今、ここにいる」と観測しつづける限り、「ここではない場所に私はいない」と観測していることになる。
 ということは、ここではないメタ空間に、縁寿を呼ぶことはできない。
 だからベルンカステルは、縁寿をビルから突き落とすのです。
 縁寿は死にます。
 縁寿が死ねば、「“私はここにいる”と“観測”する私」がいなくなります。
 観測できなくなるということは、どんな可能性もあるということ。
 縁寿がメタ空間にいるという可能性もあるということ。
 あとは、ベルンカステルが、「縁寿はここにいる」と、「観測」してやればよいのです。縁寿はメタ空間に登場し、グレーテルになりました。


 ということで、この議論を成立させるためには、ep1の最後で、戦人にはきっちり死んでいただかなければなりません。「戦人はどこかで生きている」と思いたい方は、この説を採用できないですね。すみません。
 まあ、素直に考えて、「深夜12時になったら爆発する爆弾」で良いと思います。あてずっぽうでフカしますが、たぶん10トンくらいの爆発物です。


 さて、突然ですが、「黄金郷」の話をしたいと思います。

 ep4で、ベアトリーチェが、「ここは妾の黄金郷」と言っていました。
 そこは、ベアトリーチェとマリアの、2人だけの世界でした。
 そこはたぶん、ベアトとマリアが願えば、何でも叶う場所です。
 さくたろうも、元はといえば、ここで生まれました。

 そういえば碑文には、「黄金郷では死者の魂がよみがえる」と書いてありました。

 ベアトとマリアが、2人で認め合って、さくたろうを存在させたように、ベアトと戦人は、2人で観測しあって、ep2とep3とep4を存在させました。

 エンドロールには、「戦人ははたして黄金郷へ招かれるでしょうか?」みたいなことが書いてあります。

 答えは、「招かれました」。

 あのメタ世界はベアトリーチェと戦人の黄金郷です。


 であるならば、メタ世界は、「ベアトリーチェとマリアの黄金郷」と同じ仕組みで動いているのだから、同じ現象が発生するはずです。

 たとえば、そう。
 マリアが、「さくたろは死んでしまったからもういません」と観測すれば、黄金郷にはさくたろうは存在しなくなります。

 ということは。
 上位戦人がベアトリーチェのゲームから解放されるには、2つ方法があることになります。

 ひとつは、ゲーム盤から誰かを生還させ、「猫箱」を破壊し、ベアトリーチェを存在できなくすること。
 もうひとつは……「俺はもう死んでしまっている」と戦人が気付き、「俺は死んでしまったからもういません」と観測することです。


(なんとまだ続きます。ここから先が本論です)
 続き→ カケラ世界4・魔女の後見と、平行世界



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


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 「犯人」がループ存在だとしたら?
 ループ犯人から見た「駒の動き」
 カケラ世界1・ep1が最初に起こった
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 カケラ世界3・上位戦人の正体
 カケラ世界4・魔女の後見と、平行世界
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 カケラ世界6・ラムダデルタの正体
 カケラ世界補遺・神々のお人形遊びとTIPSの謎
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カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法

2009年06月19日 21時45分42秒 | ループ説・カケラ世界
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カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法
 筆者-初出●Townmemory -(2009/06/17(Wed) 23:52:59)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=27141&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「ラムダデルタにチェックをかけろ」シリーズの2回目です。
 マリアの魔法とベアトリーチェの魔法の融合に成功。
 ep4の幻想側TIPSが解読できるようになりました。

 以下が本文です。


     ☆


 前回の続きです。

 今回は、前回の結論をふまえて、ep2~4がどうやって発生したかというお話をしてみます。


●「シュレディンガーの猫箱」のおさらい

「シュレディンガーの猫箱」というのは、量子科学の分野で発見された不思議な現象を、なんとかわかりやすく説明するために開発された、ものすごく乱暴で大ざっぱな「たとえ話」です。
 ……だそうです。
 わたしも専門外なので、よく知りません。
 が、だいたい、以下のようなたとえ話で説明されることが多いみたいです。

(あの、ご存じの方はとばしていただいて大丈夫です)

 たとえば、いま、これを読んでいる方は、たぶんPCの前にいらっしゃるでしょう。
 ということは、たぶんどこかの部屋の中でしょう。携帯でアクセスしていて外を歩いている人はごめんなさい。
 部屋の中ということは、ちょっと目を上げれば、壁があるでしょう。
 壁の向こうには、何がありますか?
 隣の部屋?
 隣の部屋が、本当にいま、この瞬間に、存在しますか?
 見えないのに、どうしてわかります?
 そう……もちろん、扉を開けて廊下に出て、隣の部屋のドアをガチャっと開ければ、隣の部屋があるでしょう。ほら、部屋はあるじゃないか、とおっしゃるかもしれない。
 でも、がちゃっと開けて、あなたが「見た」瞬間に、何もなかった空間に隣の部屋が急に出現したのかもしれない。
 ドアを閉じた瞬間に、「隣の部屋」は消え失せているかもしれない。またガチャっと開けた瞬間だけ、隣の部屋が現れているのかもしれない。
 隣の部屋に限らず、床下だってそうです。床の下にほんとうに地面があるかどうかは、見えない、さわれない以上、わからない。床板を剥がした瞬間だけ地面が出現するのかもしれない。
 壁のむこうにほんとに隣の部屋があるのか、ないのかは、わたしたちには、絶対に確かめられないのです。

 この世界のすべてのものは、わたしたちが、見たり、触れたり、匂いをかいだりした、その「瞬間」に、初めて存在しはじめたものだというのです。
「観測」したとき、初めて「かたち」ができる。
 観測するまでは、虚空に霧がたちこめたような、かたちのない、もやーっとした状態になっている。
 でも、パッと見た瞬間、フッと全部かたちが定まる。
 また目をそらすと、モヤーっとしたものになる。

 そんな極論がまかり通ってしまう科学分野が、量子力学だそうです。
 詳しい理論とか知りませんから、間違った部分があると思いますが、だいたい、イメージとしては、そんな感じでいいと思います。

 すなわち。猫箱のたとえに戻すと、
 部屋の壁が、「箱の外装」。
 隣の部屋が、「猫」。
 に相当するわけですね。

 箱の中に閉じこめて観測できなくなった猫は、霧のようなモヤーっとしたものになってるかもしれない。
「モヤーッとしたもの」というのは、「何にでもなれる可能性」だと思って下さい。

 箱の中の猫ちゃんは、わたしたちが見てないのをいいことに、犬になってるかもしれないし、サルになってるかもしれないし、エルメスのハンドバッグになってる可能性もあります(なったままでいればいいのに)。
 でも、フタを開けて観測した瞬間、すごい勢いでナニゴトもなかったかのように猫に戻ってしまうので、何になってたか、猫のままだったかは、わたしたちにはわからない。
 ただ、エルメスのハンドバッグになってる可能性は、天文学的な確率ではあるけれど、間違いなくあります。

 猫箱のフタを閉じて、猫ちゃんが「モヤーッとした」状態になる。
 その「モヤーッ」が、たまたま運良く、ぴったりエルメスのハンドバッグの形を取る可能性はゼロではない。

 ならば、厳重な箱のなかに猫を閉じこめて、
「ウフフフフ、いま、この中には素敵なエルメスのケリーバッグが……」
 といって、ニンマリしても良い。ぜんぜん間違ってない。


 さて、事件当時の六軒島も、外からは何が起こってるのか「見て確かめられない」という点で、猫箱や、壁のむこうの隣の部屋、と、同じです。

 ということは、
「部屋の壁」が、「外界から隔絶した2日間の六軒島」。
「隣の部屋」が、「右代宮家関係者のみなさんと魔女」。
 と置き換えても、良いっぽいです。

 だから、2日間のあいだ、右代宮邸の全質量が、大量のエルメスバッグに変化しててもよい。その可能性はあります。
 けれど、「全質量エルメスバッグ化」よりは、「礼拝堂でハッピーハロウィン、楼座ライフルを振り回して大立ち回り」のほうが、ずいぶん発生しやすそうです。「絵羽、黄金を発見。独り占めしたくて暴れる」も発生しやすそうですね。

 ということは、不思議なことに。
 実際に発生したのはep1なのに、「ep1が発生した」ことによって、「ep2やep3やep4がほんとは発生したかもしれない」という可能性が生まれてしまったということです。

 箱に入れたのは猫なのに、「猫を入れた」ということによって、箱の中では犬や猿やエルメスバッグが入っている可能性が生まれてしまった。
 ……ということですね。


●ep2~4を実在させる方法

 でも、このままだと、フタを開ける前はep2や3や4に変化しているかもしれないが、フタを開ければ、ep1に戻ってしまいます。
 ということは、やっぱり、ep2やep3やep4は単なる可能性にすぎず、事実上、存在しないまやかしでしかないのか?

 それって何となく悲しい気がするので、ep2~4を、「事実」にしてしまいましょう。
 事実にしてしまう方法をみつけました。

 世界中のあらゆるものは、見たり聞いたりといった「観測」をした瞬間に、そのかたちを手に入れるのだ。
 そうでしたよね?
 猫は見えない箱の中では、もわ~んとした得体の知れない状態になっている。フタを開けた瞬間に、パッと猫のかたちをとる。

 ということは。ひっくりかえすと、こうじゃないでしょうか。

 観測できたものは、存在するものである。

 観測できる以上、それは存在する。
 ということは、観測さえできれば、「それ」を存在させることができる。
 箱の中に、サルを見ることができれば、サルを取り出すことができる。

 ですよね?

 そこで、こんな大胆な仮定をしてみましょう。
「好きなものを、箱の中に見ることができる超能力があるとしたら?」

 その超能力者は、箱の中に猫を放り込み、ぱちんと指を鳴らして、フタを開ければ、そこにはなんとエルメスのバッグが出てくるのです(凄いぞ!)。

 そして、そんな超能力者がいて、ep2を観測したら、ep2はほんとうに存在することになるのです。もちろんep3も、ep4もそうです。

 うん、なるほど。
 でも、そういう超能力があるとしたらの話ですよね。

 その超能力とやらは、あるの?
 そんな超能力者が、いるの?


 いるじゃないですか。


 ベアトリーチェが「いる」と認め、真里亞が「いる」と認めれば、「さくたろう」が存在できるのです。
 そう。
 いもしない「さくたろう」を、観測できるんですよ。
 あまつさえ、楽しくおしゃべりさえできるんだ。
 サルやらバッグやらを観測することくらい、何でもない。

 つまり、その「超能力」は、ある。
 その超能力は、「魔法」と呼ばれていて、さくたろうを生み出したメカニズムのことです。

 では。
 そのメカニズムを利用して、ep2を存在させた能力者は誰だ。
 言い換えれば、
 ep2を「観測」したのは、誰か。

 それは、上位ベアトリーチェと上位戦人です。

 ベアトリーチェは、戦人にep2を見せました。同時に自分でも「見」ました。
 戦人は、確かにep2を「見」ました。

 戦人は「犯行が魔法で行われた」ことは認めていませんが、ep2という物語を「見た」ことは認めています。

 ベアトリーチェが「見た」と認めました。戦人が「見た」と認めました。
 つまり、「ep2」は、観測されました。
 観測されたものは、存在するものです。

 つまり、ep2をベアトと戦人が「見た」瞬間から、ep2は実際に存在しはじめたのです。


 もちろん、ep3も、ep4も同様です。
 ep3は、それがベアトと戦人によって観測された瞬間から、存在し始めました。
 ということは、ep3が観測される以前……まだep2までしか戦人が見ていなかったころには、ep3の後日談である1998年の縁寿という人は、存在していなかった。
 ep3が観測されたので、あの可哀相な縁寿は、やっと存在を始めた。
 だから、ep1やep2には、あの縁寿は絶対に登場できないのです。いや、たぶん。
 ベルンカステルは、ep3が終了してからでないと、彼女に会いに行けなかったのです。


●ep4のTIPSにあてはめる

 さて、以上の仮説を、作中の式にあてはめて検算してみましょう。

 ep4のベアトリーチェのTIPSに、以下のようなことが書いてあります。
 要約しますが、

「彼女は膨大な魔力を持つが、それは無意味だ」
「なぜなら、ゼロは何倍してもゼロでしかないからだ」
「だが、真里亞が1をもたらしたおかげで、無限の力が手に入った」

 だいたいそんな意味のようなことが書いてあります。

 これって、こういうことじゃないでしょうか。

 ベアトリーチェは、もともと、「猫箱をつくる」という能力を持っていた(つくる方法を知っていた)。
「猫箱の力」というのは、かたちあるものを、観測不可能な状態に置くことにより、「もやーっとした可能性」に還元してしまう力です。
 たとえば猫を、モヤモヤ状態にしてしまえる。
 モヤモヤというのは「何にでもなれる可能性」のことだから、それは犬にもなりうるし、サルにもなりうるし、高価なハンドバッグにもなりうる。
 でも、彼女にできるのは、ここまでだった。
「可能性」をつくることはできるのだけど、その可能性から、「1個のかたち」を取り出す能力は持ってなかった。
 だから事実上、まったく無意味な力だった。
 1を無限に割り算して、限りなくゼロに近づけることはできるのに、そこから別の1を作り出す力はなかった。
 猫を乾燥して砕いて粉にすることはできるんだけど、その粉を集めてこねて、犬をつくることはできなかったんだ。

 ところがそこに、真里亞が「さくたろう」を作り出す技術をもたらす。
 こんな方法があったとは!
 これを使えば、「可能性」でしかなかったものを、「1」個のかたちに凝集できる。
 犬も作れるし猿も作れるしバッグも作れる。
 想像力のおよぶ限り、何でも作れる。
「無限に」作れる……。
 別の世界だってつくりだすことができる。


 TIPSは、そういう意味のことを言っているのだと、読めなくもない……ような気がしませんか?

(まだ続きます)
 続き→ カケラ世界3・上位戦人の正体



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
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■目次(全記事)■


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カケラ世界1・ep1が最初に起こった

2009年06月17日 00時59分56秒 | ループ説・カケラ世界
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カケラ世界1・ep1が最初に起こった
 筆者-初出●Townmemory -(2009/06/15(Mon) 20:41:13)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=27036&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「ラムダデルタにチェックをかけろ」シリーズのスタートです。
 カケラ世界の仕組みを解読していきます。その土台作りです。

 以下が本文です。


     ☆


 みなさん、こんにちは。

 突然ですが、ラムダデルタにチェックをかける方法を考えています。

 そのためには、カケラ世界の世界観を理解しないとやっぱ無理だろう、と思われたので、世界観のメカニズムみたいなことを考えていきます。


●ほんとにあったエピソードはどれなのか

 ep1からep4までのうち、ほんとに「起こった」のはどれなんだ? という疑問が、何人かの人から(ここも含めてネット上で)提示されているのを見ました。

 あまり考えたことがなかった。
 ぜんぶ「起こった」だろうと考えています。

 でも、全部起こっただろうけど、最初に発生したのはep1だと思います。


●どうして、10月4日~5日を何度も繰り返せるのか

 なんで私たちは、2日間の連続殺人事件を、展開を変えて何度も何度もくりかえし見ることができるのか。

 それは、1986年10月4日~5日の六軒島が、そういう特殊空間になったからです。

 どうしてそんな特殊空間になったのか。

 それは、こうじゃないかな、と見ました。↓

 1.現場検証が不可能になるくらい、現場が消滅したから(推定)。
 2.メッセージボトルが発見され、魔女のイメージが定着したから。


 1によって、「何が起こったかわからない」(いろんな可能性が考えうる)状態になる。
 2によって、「常識ではありえないことも起こって良い」(魔女が存在するとか)ことになる。

 いわば、この2つの条件によって、
「シュレディンガーの箱に魔女を閉じこめた」
 状態になるわけです。

 猫箱のなかの猫は、生きてても死んでてもいいし、見えないのをいいことに、犬に変化しててもいいし、どろどろでろでろの不定形宇宙生物になっていてもいい。

 それと同じで。
 魔女が、箱(島)の中で何をしているかは、それこそ無限のヴァリエーションがあります。
 律儀に右代宮ファミリーを惨殺してる可能性もあるし、右代宮ファミリーと一緒に仲良く「チルノのパーフェクトさんすう教室ダンス」か何かを踊ってる可能性もある。
 右代宮ファミリー惨殺パターンの中にも、いろんなヴァリエーションが存在できる。楼座が最後まで生き残るパターンも存在するし、絵羽が生き残るパターンも存在する。

 でも、それら無限のパターンが存在できるようになるためには、
 1回だけでいいから、
「現場消滅+メッセージボトルの発見」
 という現象が、発生しなければならない。

 1回でも発生すれば、1986年10月4日~5日の六軒島は
「シュレディンガーの魔女箱」
 になり、すべての可能性が魔女のものになります。

 で、その1回とは、ep1だと考えて、まず良いだろうと私は見ています。


●ベアトリーチェはなぜお茶会まで出てこないのか

 どうして、ep1が「最初の1回」だと思うのか。
 それは、ep1の本編に、ドレスベアトリーチェが登場しなかったからです。

 しなかった、と言いましたが、「できなかった」のだと考えています。
 ep1本編の段階では、ドレスベアトリーチェは存在しなかったので、登場できなかった……。

 ドレスベアトリーチェ(「メタベアト」、とか、「上位ベアト」といった呼ばれ方もされていますが)は、ルールの擬人化だ、と、喝破されてます。

「1.現場消滅(推定)」は、おそらくルールYなんです(雛見沢大災害に相当する証拠隠滅)。
「2.メッセージボトルの発見」は、おそらくルールZなんです(正解ルートを隠蔽する魔女幻想)。

 この2つが揃うと、「シュレディンガーの魔女箱」が完成=箱の中の魔女ドレスベアトリーチェが誕生する。
 ドレスベアトリーチェは、ルールYZの擬人化なのだと思うのです。

  ルールXYZを指さそう

 ということは、ルールYZが成立しないかぎり、ドレスベアトは存在しない。
 ドレスベアトが姿を現さない本編が1個だけある。
 それはep1。
 だから、「ep1が最初に起こった」。
 ep1の発生→ルールYZの成立→「シュレディンガーの魔女箱」の完成→ドレスベアト登場可能、になる。

 いったんドレスベアトを存在させてしまえば、あとは、彼女の望むまま。可能性をいじくって、観測しだいで、2日間の島の中に、どんなことでも起こせるようになります。ep1が成立した瞬間、ep2やep3やep4が存在できるようになる。

 ep1が終了して、現場が消滅して、メッセージボトルが発見されたので、
「ああ、やっと妾が存在できるようになった……」
 それで喜んで、彼女はゴキゲンでお茶会に顔を出した。そんな感じに思えるわけです。

(この話、何回か続きます)
 続き→ カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


■関連記事
●ループ説・カケラ世界関連

 「犯人」がループ存在だとしたら?
 ループ犯人から見た「駒の動き」
 カケラ世界1・ep1が最初に起こった
 カケラ世界2・ep2~4を実在させる方法
 カケラ世界3・上位戦人の正体
 カケラ世界4・魔女の後見と、平行世界
 カケラ世界5・すべてが正解になる
 カケラ世界6・ラムダデルタの正体
 カケラ世界補遺・神々のお人形遊びとTIPSの謎
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ループ犯人から見た「駒の動き」

2009年06月09日 03時12分45秒 | ループ説・カケラ世界
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


ループ犯人から見た「駒の動き」
 筆者-初出●Townmemory -(2009/06/09(Tue) 02:45:36)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=26555&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
『「犯人」がループ存在だとしたら?』の、続編です。どうしたら犯人は、ひぐらしの梨花のように、篭からぬけだして自由になれるのか。それを考えてみました。
 仮説に仮説をかさねた上で出てきた架空の結論に対して、どう対処すればいいのかを考えているわけですから、本文にも書いたとおり砂上楼閣もいいとこです。
 けれど、自分の頭から出てきた推理なのですから、それに対して処方箋を出さないのは、無責任な気がしました。「風邪です」と診断しておいて薬を出さない医者はヤブです。

 推理小説の探偵だったら、真相と犯人を指摘したら終わりですが、「うみねこ」は、
「じゃあどうしたら彼らは救われるのか」
 が問われていると思います。「ひぐらし」でも、そうでした。
 問われたら、答えるべきです。今のところ、ここまでが、精一杯ですが。

 以下が本文です。


     ☆


 ちょっと、ヘンな方向から話をしてみたいんです。

 というのは、
「誰が生き残ったら、碑文の謎は解けるのか」
 です。

 この話をするにあたっては、以下の3点を前提にしています。

・犯人は古手梨花と同様のループ記憶保持者。
・犯人は特定の条件が揃うまで、「何度も何度も永遠に13人殺し+自殺をしなければならない」という拷問にかけられている。
・拷問終了条件はたぶん「碑文の謎が解かれる→犯人からのメッセージが生存者たちに明らかになる」。


 いやあ、なんとまあ、突飛な条件だ。

 なので、この突飛な条件を、ひとまずであっても受け入れられないという方には、まっったく意味のない書き込みです。
 ていうかループ記憶説、自分でも「どうかなー」という半信半疑の面もあるんですけど。

「とりあえず、その3条件をあることにして、先を読んでやるよ」
 というあなた。
 ありがとうございます。

 ちなみに、なんでこんな3条件があるのか、という説明が、以下に示すアンカーにございます。読んだらわかりやすくなりますが、大変なので、読まなくてもなんとかなるようにしたいと思います。
 この記事を読み終えたあとで、まだ興味があったら、くらいでよろしくどうぞ。

「犯人」がループ存在だとしたら?
 チェックメイト――黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷

 おそるべきことにこの↑説が的外れだったら、以下の長文はまっったく成立しないという……砂上楼閣にもほどがありますね。
 でも、そういう可能性を思いついてしまったので。
 思いつかなければ、そんなカケラはたぶん存在しなかったですけど、思いついちゃった(つまり「観測しちゃった」)以上、六軒島密室の猫箱の中に、そのカケラ世界は存在しえます。なら、存在しうるそのカケラ世界に閉じこめられた人を助けられるのは私だけなので、そのためになんとか頑張ってみたいと思います。
(前置き長いよ)


     *


 さて、「もう、1人も殺したくないし自殺もしたくないよう」という気持ちでいっぱいの犯人さんが、この拷問から解放される方法はなんだろうか。

 ゲーム初期から、ひとつ大きな条件が出ています。
 碑文の謎を解いたら殺人は止まる、という……。
 あまりにも大々的に出ている条件なので、これ本当に本命でいいのかな、という気もしますが、他に手がかりがないので、これでOKということにします。
「誰かが碑文の謎を解く」
「九羽鳥庵(推定)にたどり着き、どうして犯人がこんな殺人を始めなきゃいけなかったかを解明する」

 この二つの条件が揃ったら、ゲーム盤に幽閉されている犯人は解放される、と、とりあえず仮定します。

「さっさと碑文の謎を解いてみなさいホレホレ」という、あの何度も来る魔女の手紙は、実は、
「お願いだから、早く私を止めて。もう私に殺させないで」
 という、悲鳴だったんだ、そう考えるわけです。わりに好意的な解釈ですね。

 ちなみに、ep3で絵羽と楼座が到達してましたけど、殺人は止まりませんでした。
 あれって……「黄金郷を発見した」って、みんなに宣言しなかったのが、絵羽最悪の悪手だったんじゃないかなあ……と思います。
 だって、言わなきゃ、犯人もわからないから、止めようがないですよね。

 ひぐらしは「いかに惨劇を発生させないか」のゲームでしたが、「うみねこ」は、
「すでに始まってしまっている惨劇をいかに止めるか」
 のゲームなんだと思うのです。


     *


 さて……。
「誰かを黄金郷にたどりつかせたい犯人」というのを想定するとして。
 誰を生かしておき、誰にヒントを与えたら、うまいこと謎を解いてくれて、自分のいわんとすることをわかってくれるだろうか。
 それを考えてみたいのです。

 つまり、「犯人側から見た駒の動き」です。

 こんな感じかしらん。


●使用人たちに、碑文を解こうという意志はない。
(よって、彼らを誘導しようと思っても無駄である)


 これは良さそうですね。源次とか南條とか熊沢なんて、犯人の正体もやってることも知っていて、黙認している疑いが濃厚ですし。ep1書斎に現れた「魔女の手紙(不和の魔法陣入り)」なんて、真里亞、源次、南條、熊沢が結託していないと現れようがないと思いますし。


●「右代宮ペアレンツ」(親チーム)は、1名(少数)が生き残った場合、自分の子供を守ることに専念してしまうので、碑文を解かない。
(よって、この状態を作ってから誘導しようとしても無駄である)


 ep1と2から。
 第一の晩で「右代宮ペアレンツ」をたくさん殺してしまうと、のちの殺人がしやすいという点では有利なのですが、そのかわり、碑文解明はほぼ絶望的になる。
 よって、適度に人数を削減し、適度に生かしておくバランスが望ましいと見る。半減くらい? 銃二丁登場、くらいのバランスでしょうか?


●「右代宮ペアレンツ」を全員生存させた場合、「碑文解読モード」が起動する。ただしその場合、最初に謎を解くのは絵羽である。
(絵羽は解読を秘密にしてしまうので、解読者として最悪である)


 ep3です。
「右代宮ペアレンツ」が7名全員生存、銃4丁登場、というのは、殺人者としての犯人から見たら、最悪に近い状況です。
 しかし、「碑文を誰かに解いてもらい、ゲーム盤から解放されたい」というのなら、現在、もっとも「正答」に近い打ち手だといえます。
 なぜなら、これまでの4ゲームのうち、駒たちが「碑文解読モード」に入ったのは、このエピソードだけだからです。
 どうやら、親チームの残留数と、「解読モード」起動との間には、密接な関係があるのではないか、と推測します。
 親が何人生き残ったら、解読モードに入るのか。
 その境界をさぐるのが、犯人に求められている「実験」だと思えます。
 ep1を見ると、残留3人、では、無理っぽい。
 いや、ep1がダメだったのは、夏妃と絵羽夫妻という、あからさまな対立家族だったからかもしれず、友好的な組み合わせなら3人でもいけるのかもしれません。

 親全員生存で、ほぼ確実に解読モードに入るのだとしたら、全員生存させればよいかというと、そうではないようです。
 なぜなら……真っ先に解読したのは絵羽でした。
 黄金を独り占めしたくて秘密にするという……ビックリの動きに出ました。

 よって、犯人は、駒たちを「解読モード」に誘導しつつ、「絵羽以外の人間に」謎を解いてもらわねばならない、という条件になります。

 カンタンなのは、第1の晩(鍵の選びし6人)で、使用人5人+絵羽を殺して様子を見るということですね。
 もしくは、第1の晩で、秀吉か譲治を殺してしまい、絵羽を、碑文の謎どころではない精神状態にしてしまう。
 ……あ、このことは、他の誰であっても言えますね。
 例えば、「霧江に謎を解かせたい」とキメウチしたのなら、留弗夫と戦人は絶対に生かしておかねばならない。

 それともうひとつ。絵羽以外にも、「黄金を独り占めする」という行動に走る人間がいるかもしれない。それをひとつひとつ発見していく必要もあります。


     *


 今のところ、思いつく動きは、このくらいです。

 けど、もうちょっと想像を勝手にはたらかせてみたい。
 犯人にとって、誰が碑文の謎を解いてくれたらいちばん理想的か。
 つまり、黄金郷に行って、黄金以外のものを視ることができそうな人は誰か。


●候補者その1・楼座

 なんといっても、ep3ですでに、「楼座は黄金を隠匿しない」と判明しています。これが高ポイント。楼座さん思いのほか、まともな人じゃないですか。見直しました。
 もうひとつ。
 彼女は九羽鳥庵の人間ベアトリーチェに会ったことがある。だから、かなりの可能性で、ベアトリーチェと金蔵の愛に思いをはせることができる。この人は有望そう。
 ただ、「金蔵からベアトを奪ったのは自分だ」と認識したとき楼座がどう反応するのかは、未知数ですね。んー。


●候補者その2・霧江

 上で書いた「駒の動き」には入れていないのですが、こんなアイデアも持っています。
・?霧江が生存していないと、解読成功率が大幅に下がる?

 たとえば、「6つの鍵=6文字のキーワード」説などを、霧江が発想してくれない限り、碑文は解かれない、といったこと。
(ただ、それを言い出すと、「絵羽が生存していないと、碑文を解こうと言い出さない=解読モードが起動しない」とかいうことにもなってしまう……)

 霧江さんは、黄金郷に行きさえすれば、いろんなことをパッパッと思いついて説明してくれそうな、探偵キャラだとは思うのです。
 不安点があるとしたら、「戦人の出生の秘密」が、金蔵―ベアトリーチェのラインに変に接続したときどういう反応を見せるかくらい。あと、右代宮家に対して精神的に距離があるという点で、展開として地味ー。


●候補者その3&4・譲治と戦人

 ていうか、これが本命でしょう。そうでなかったらびっくりだ。

 譲治はなんといっても愛の男ですから、黄金郷にたどりついてくれれば、とって返して親たちに涙ながらに訴えてくれるでしょう。
 遺産相続なんかで争ってる場合じゃないよ! ぼくたちに必要なのは戦うことじゃない、愛し合うことだったんだ!(ここでヤマトのテーマ流れる)みたいな。
 不安点があるとすれば、譲治が謎を解くとき、絵羽と秀吉は殺されている可能性がすごく高そう……。そのことを棚に上げてくれるのかどうか。絵羽を殺さず、なおかつ碑文を解かせず、譲治に解かせるという条件?

 戦人は、犯人視点からみて「愛のない男」なんですよね。
 でも、ep2で、嘉音の疑いを晴らそうとしたり、「誰も疑いたくない」という基本路線を持っていたりして、動きとしては好感です。
 それと、チェス盤思考。
 これって、大づかみにとらえれば、
「相手の気持ちになって考える」
 ということですよね。
 現在の彼は、「思考ルートをたどる」という意味でしか使ってませんが、「感情の流れをさぐる」という使い方をしたとき、あっというまに「人の気持ちがわかる」男になれる。その可能性があります。
 碑文解読モードへの入り方は……霧江が半分くらい解いたところで殺され、「あとは、あなたが、解いて……」という遺言をのこされる、くらいの展開は余裕でいけそう。


 あと、チェス盤思考で思いついたけれど、。
 「うみねこ」の結末を、今ここで書いてきているように、「チェス盤という檻を打ち破る」というような展開だと想定するのなら、オーラスのクライマックスは、

「いまこそおおおっ、チェス盤をおおおっ、ひっくり返すぜええええっっっ!!!」

 と戦人が叫んで、チェス盤を「上下に」(星一徹のごとく)ひっくり返し、ガシャーン! ドカーン! みたいな熱血展開だったらいいなー、だったらいいなーと思います。ていうか自分でそういうカケラ世界展開を作ってしまえばいいのですけどね。

 そんな感じで。



■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
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「犯人」がループ存在だとしたら?

2009年05月31日 05時24分01秒 | ループ説・カケラ世界
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


「犯人」がループ存在だとしたら?
 筆者-初出●Townmemory -(2009/05/31(Sun) 04:27:05)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=25973&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
 ひとつの発想からいくつかの疑問がラインでつながる、という典型的な推理の流れです。ゲーム盤の勝利条件がガラッとひっくり返ってしまいました。まさに「チェス盤を返す」……。

 以下が本文です。


     ☆

 みなさん、こんにちは。
 今日も些細なことを書きに参りました。
 ちょっとしたことに気付いたので、聞いてくださいな。

 ひぐらしのネタバレをします。そしてネタバレ改行はしません。文字のドラッグ伏せもしませんので、よろしくお願いします。


 ep2のTIPSで、譲治をExecute表示にすると、こんなコトが書いてあるんです。
「ひょっとしたら、彼らが第二の晩だったかもしれない」

 冗談というか、推測っぽく書いてあるんですが、これって、本当にそうだったんじゃないか、というのが、今回の話の発端です。
「彼ら」と書いてあるのは、もちろん譲治と紗音のコンビのこと(でしょう)。
 ep2では、「抉りて殺せ」シリーズとして殺された譲治と紗音。
 でも、本来の計画では、「寄り添う2人」として殺されるはずだったんじゃないか。

 その可能性はけっこう前から感じていたんですが、標的が変更された理由がうまく説明できないので、とりあえずほっておいたんです。
 が、ある仮定を持ち出すことで、きれいに説明できることに気付きました。


     *


 で、唐突ですが、ループ記憶についての話から始めたいと思います。


 公式掲示板の過去ログを読んでいて、どのスレッドだったか忘れたんですけど、
「ループ記憶を持ったキャラは今回いるのかいないのか」
 という議論を見ました。

 ループ記憶……。
「ひぐらし」の古手梨花が持っていた、あの特殊能力ですね。
 前回のゲームの記憶と経験を持ったまま、次のゲームの「駒」として登場できる。
「前のゲームではこんなふうに殺されたから、今回はこういう行動を取れば殺されずにすむんじゃないか」
 という発想ができる特権的なキャラクター。
 前回の梨花ちゃまのようなキャラは、「うみねこ」にいるのか。いないのか。

 私はその議論を見ながら、
「私は“いない”と思うね」
 と考えていました。

 留弗夫のループっぽい意味深なセリフは別の意味。紗音と嘉音のループ的発言は幻想シーン。そう見るのが妥当だな、という立場でした。

 でも、仮に、
「もし、絶対“いる”と仮定するならば、いちばんループ記憶存在っぽいのは誰か」

 と考えてみたら、ピーンと思いついて、いくつかの現象に、ぴったり当てはまった。ラインがつながった。

 もし「うみねこ」にループ記憶キャラがいるとすれば、それは「犯人」で間違いない。


「犯人」がループ記憶を持つとしたら、
 ep2の不審な殺し方や、
 譲治に対しての
「ひょっとしたら、彼らが第二の晩だったかもしれない」
 とかが、説明できてしまう。


 さてご存じの通り、私は連続殺人の犯人を8割がた「朱志香」で見てますから、以後、だいたいそのイメージで書きます。
 けど、べつに議論としては、朱志香じゃなくても全部成り立ちますから、お好きな犯人をイメージして読んでいただければ大丈夫です。


     *


「犯人はループ存在」という立場から、「譲治は実は第二の晩で殺されるはずだった」を説明します。

 犯人は「寄り添う2人」で譲治と紗音を殺すつもりだったが、事情があってそれができなくなり、代わりに朱志香と嘉音を殺すことにした。

 その事情とはなんだろう。

 譲治と紗音を第2の晩に殺すことで発生するのは、「嘉音反乱イベント」です。
 犯人は、これを回避するために、「譲治と紗音を殺す」という計画を中止した。と考える。

 この前提に立ったとき、
「犯人は、“紗音を先に殺すと嘉音反乱イベントが発生する”ことを知っていなければならない」

「何らかの事情で最初から知ってた」
 と考えることもできます。
 けど、
「ep1でそういうルールが判明したので、急遽、それを回避するために計画変更を余儀なくされた」
 と考えるほうが、自然では?

 つまり、犯人はループ記憶を持っており、ep1の経験をふまえて、紗音殺しを回避した。紗音殺しを回避した結果、紗音とコンビになる譲治も殺せないことになった。よって、本来は「譲治は実は第二の晩で殺されるはずだった」が、そうでないパターンが選ばれた。

 嘉音は、ep1の反乱イベントで、「これは金蔵が決めたルールでも、魔女が決めたルールでもなく、ぼくが決めたルールだ」と言っています。
 この発言を採用するなら、嘉音反乱イベントは、「魔女側も知らなかった隠しイベント」である可能性がある。

 もし、そうだとするなら、
 犯人はep2の段階で嘉音反乱イベントの存在を知っていたのだから、

・犯人はループ記憶を持っている。
・ゲームは順番通りep1→ep2の順に発生した。


 この二つは確実に言えることになります。
 ついでに、不確定ながら、蓋然的にこれもキメウチしてしまいましょう。

・ep1が、犯人にとっても、最初に経験したゲームである。


 この仮定をすると、ep2に残っていた謎はいっきに解けてくる。
 一個、謎を残したまま放置してたんです。

 駒の動きその5・盤面(II)
「ep2の厨房。5人の使用人のうち、犯人が南條と熊沢だけを殺した(他は殺さなかった)理由とは?」

 その理由とは、「紗音を殺したくなかった」。
 より正確には、「譲治が生きていて紗音が死ぬ、という状況をつくりたくなかった」。

 ループ記憶を仮定するなら、こんな想像ができます。

 犯人は、ep1で、「紗音を亡くして悲痛と絶望のうちに追いやられた譲治」の姿を、見ています。
 犯人はそれが、いたたまれなかった。
 そのいたたまれなさは、2ndゲームでも、なまなましく残ってる。
 ep2、あの時点では譲治はまだ客間にいます。
 ということは、この時点で使用人5人を皆殺しにした場合、もう一度、譲治が泣き叫び、怒り狂い、すべての希望を失う姿を見なければならなくなります。
 それを、見たくなかった。二度と見たくない。

 だから、殺そうとしたけど、殺せない。

 ep1で、「金蔵」の死を、中盤で公開してしまった理由も、たぶん同じではないでしょうか。
 金蔵の死は、公開しないほうが犯人には断然有利なのです。生存者が常に、「金蔵犯人説」をうたぐってくれますからね。
 でも、公開せざるをえなかった。
 その理由は、「紗音を亡くして悲痛と絶望のうちに追いやられた譲治」がかわいそうで、あまりにも痛々しくて、彼を殺すことなんて無理になってしまったからではないでしょうか。
「金蔵を殺さない(死を発覚させない)」という選択肢を選んだ場合、犯人は消去法で、譲治を殺すしかないのです。本来ならその計画だった。でも、感情的にそれができなくなってしまった。


 こうした推測をOKとするなら、犯人は、愛とか同情にあふれた、とても人間的な人物、というプロファイリングになってしまいます。
 いいのか?
 いいんだと思います。

 夏妃の部屋で、犯人は譲治と紗音を襲い、とどめを差します。
 殺すんなら、この2人は同時に殺すしかない。そうでなければ、残された一方を犯人は殺せなくなってしまうから。
 そして譲治と紗音の最期のシーン。死を覚悟して、紗音は、最期の言葉として譲治に「愛してる」と言ってもらおうとします。
 譲治は言おうとします。
 犯人は言いおわらないうちに、まるで「言わせない」とでもいうかのように、譲治を殺害します。
 まるで、「おまえたちの最期の望みなんて叶えさせねえよ、あっはっは!」という無慈悲と残酷の表現のように見えます。

 もちろん、魔法が出てくるところですから、幻想シーンとして考慮外に置いてもいい。
 けれど、「それに類する展開がほんとにあった」と考えるとしたら。

「愛してる」を言わせなかったのは、無慈悲だからではなく、その言葉を聞いてしまったがさいご、もう、犯人はこの2人を殺せない。
 だから、断じてそれを耳にする前に、とどめを差さなければならなかった。


   *


 そして、犯人がそういう性格の人物だとして、ループ記憶を持っているのだとしたら、とんでもないことになります。
 こんなひどいことがあっていいものかとすら思う。

 犯人は、ニューゲームが始まるたびに、最低13人を、自分の手で殺害しつづけなければならないのです。

 2ゲームだったら26人。3ゲームめには39人。4ゲーム終了時には理論上、52人殺しの経験者ということになります。津山三十人殺しなんてメではない。
 ループ記憶がなければ、13人で打ち止めだったのに、記憶があるとすれば、「人殺しの記憶と感触」が、どんどん加算されていく。

 人間を1人殺す、ということにかかるエネルギーや意志の力は、ちょっと想像しただけでも、尋常じゃない。
 恐怖にあげる悲鳴、苦痛にあげる怒号、なぜこんなことをするのかというなじり、殺さないでと訴える哀願、そのすべてを耳に入れたあげく、そのすべてをしりぞけなければならない意志。
 痛みにのたうちまわる虫みたいな人の姿。どくどくと流れ出して服を真っ赤に染め上げる血。そのなまぐさい匂い。やがて動かなくなる人間。ガラス玉みたいになった目。そのようにしたのは自分の手だという愕然。
 さっきまで生きていた、まだなまあたたかい死体をかつぐ。運ぶ。隠蔽する。顔を耕す。裂ける皮膚の感触。露出する赤くて生々しい筋肉繊維。
 腹を割く。臓物がおどりでる。思わず吐きそうになる臓物臭。そこにお菓子を詰める。手がドロ色の体液まみれになる。臓物臭・お菓子・臓物臭・お菓子。

 そんなのが1ゲームあたり13回。
 次のゲームが始まれば、また13回。
 それで決着がつかなければ、さらに13回。

 こんな経験は1回でじゅうぶんだ! もうたくさんだ。
 もううんざりだ。もうしたくない。そろそろ勘弁してくれ。

 しかし戦人は勘弁しない。ニヤリと笑って指をさし、「ベアトリーチェ、もう1ゲームだ!」

 だとしたら、いったい、ゲーム感覚で「もう1ゲームだ!」と言っているのは、どちらなんだろう。人の死というものに鈍感なのは、どっちなんだ?
 そんな迷宮が発生してしまいました。


 だから、ベアトリーチェの、こんな発言につながるのではないのか。

「もう妾の負けでいいではないか……」
「……殺して」
「もう死なせて……」




 エピソードが進むにつれて、とくに3とか4で顕著ですが、「残酷度」がどんどん下がっていきます。
 1や2の残酷さが、「魔女を意識させる」ためなのか、「ラムダデルタに面白いからそうしろと強要された」のかわかりませんが、後半になるに従って、それができなくなってくる。心がすりきれて、とてもそんなことまでできない精神状態になってきている。
 そう考えると、説明できるのです。


     *


 ということは。
 ep1の「????」で、ベルンカステルが語りかけている謎の相手。
 画面のむこうからこっちに向けて、いろいろ同情っぽいことをおっしゃってくれますね。
 あれって、「戦人」や「プレイヤー」に向けたものではなく、「13人も殺したあまりのショックに膝をかかえている犯人の心」に語りかけたものである、そういう可能性が出てきますね。

「あなたは、ラムダの世界に囚われていたころの私にそっくりなの」
 なんてことを言いつつ、しかし、「あなた」の境遇は自分のよりずっとひどい、なんてことを言う。そして、
「こんな末路を百回もやられたら、百年を待たずして心が殺されてしまうわ」
 ……それは確かにそうなるだろう、ということが、より深く納得できる気がするのです。
 ひぐらしの梨花は、ただ自分が殺されるだけだった。けれど「うみねこ」の犯人は、自分で13人を殺し続けなければいけないのです。
 さらに論を進めるのなら、おそらく、「13人を自ら手に掛けたあと、自殺しなければならない」。(このへん以前別の書き込みで考察しました)
 これは確実に梨花よりひどい……。


 そして、もうひとつ考えられること。

 小冊子「ラムダデルタ卿による回想記」というものがあります。
 これに、
「私は神になりたいから、私の努力が、絶対に叶うという保証を下さい」
 と言い出す「少女」のエピソードが出てきます。

 この「少女」、ふつうに考えれば鷹野三四です。そう思ってました。

 でも実は、そう思わせるトリックであって、この「少女」って古手梨花のことなんじゃないの? という可能性が出てきました。


「ラムダデルタ卿による回想記」の後半に出てくる、「自分を魔女にして下さい」と言い出したのは、今回の「うみねこ」の犯人でいいと思います。
 その願いをラムダデルタが叶えた結果、ベアトリーチェという「魔女」が生まれているわけです。
 ここでの「魔女」は、ラムダデルタやベルンカステルを「魔女」と呼ぶときの「魔女」です。赤字で喋るドレスベアトリーチェのことだと思って下さい。

 つまりですね。

●「うみねこ」の魔女誕生
「ラムダデルタ」が、「犯人」の「願いを叶えた」結果、「ベアトリーチェ」が生まれる。


 こういうことですよね?

 で。
 ベルンカステルは、ep1で、「ひぐらし」の事件のことを匂わせたうえで、
「私はそこから生まれた魔女」
 だと言っています。

 ってことは、

●「ひぐらし」の魔女誕生
「ラムダデルタ」が、「誰か」の「願いを叶えた」結果、「ベルンカステル」が生まれる。


 という等式は、かなり想定してもいいんじゃないだろうか。

 だとしたら、この式の「誰か」は、古手梨花です。他は考えられない。

 そう考えると、
「何回でも、最初からニューゲームを始められる」というベルンカステルの力、あるいは古手梨花の特殊能力は、言い方を変えれば、「努力が絶対に叶うという保証」であるといっても、そうおかしくないんです。

 私は東方のSTGを、イージーモードでしかクリアできませんけど、「絶対クリアしてやる!」と決意したなら、たぶん、何年後かにはルナティックをノーミスクリアできると思いますよ。
 でもそれは、何回もニューゲームを始めて反復練習できるからで。1回しかプレイできないという条件だったらまず絶対無理です。
 つまり、何回でもニューゲームを始めて良いという能力があって、それを使って努力したら、「ルナティックをノーミスクリア」という目標は「絶対に叶う」と、ほぼ断言できます。


 ならば、ラムダとベルンの関係は以下のようになりますね。

・ラムダデルタは、気に入った人間の願いを叶えるかわりに、その人間をゲーム盤に閉じこめていじめる、という遊びをしている。
・ひぐらしのときには、梨花を閉じこめていじめて遊んでいた。
・ところが梨花はこのゲーム盤の勝利条件を満たすことに成功。ゲーム盤を引き裂いて外に飛び出してきた。
・自由になった梨花は、ラムダの与えた能力はそのまま持っており、事実上ラムダより強くなってしまった。
・ラムダとしてはシャクにさわる。だからなんとかしてもう一回閉じこめてやりたい。



 だとしたら。
「このゲーム盤に勝利しなければならない」のは、「戦人」ではなく、「犯人」です。
 犯人はなんとかして、自分の勝利条件を探し出して、それを満たし、
 囚われの身から、自分を解放しなければならない。

 ループ記憶説を採用するなら。
 このゲーム盤の勝利条件は、「戦人が生還する」ことではなく。
「犯人が、二度と殺人を犯さなくていい、自分も死なないでいい」という結末を見つけること。

 そういうことになります。

 意外な展開になってきませんか?



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