さいごのかぎ / Quest for grandmaster key

「TYPE-MOON」「うみねこのなく頃に」その他フィクションの読解です。
まずは記事冒頭の目次などからどうぞ。

なぜ戦人は赤字で「明日夢から生まれた」と言えないのか

2009年05月27日 04時28分26秒 | 赤文字論・密室を解く
※初めての方はこちらもどうぞ→ ■うみねこ推理 目次■ ■トピック別 目次■


なぜ戦人は赤字で「明日夢から生まれた」と言えないのか
 筆者-初出●Townmemory -(2009/05/24(Sun) 06:42:33)

 http://naderika.com/Cgi/mxisxi_index/link.cgi?bbs=u_No&mode=red&namber=25593&no=0 (ミラー
 Ep4当時に執筆されました]


●再掲にあたっての筆者注
「チェックメイト―ー黄金郷再び・金蔵翁の黄金郷」の直前に書いた書き込みです。
 赤字を破るするのはカンタンだ、ということを言おうと思いました。眠いときにさらっと書いたので文体がなげやりです。
 強調して言いたいのは、赤字というのは障子紙みたいなものだということです。なんとなく破っちゃいけないような気がするから、みんな破らずに戸を開けようと必死になっているけど、障子紙なんだから手をつっこんでかんぬきを外せば良い。

 大事なことは、赤字は「字である」ということ。字であるということは、書かれたものであるということ。ということは、書いた人物が、自分に有利なように書き足したり消したりしたかもしれないということ。それを常に疑ってかからなければならないということ。戦人とかベアトリーチェとか、全部「書かれた存在」にすぎません。

 ちなみに、以下に書いた説を、私は全面的には採用していません(部分的にはしています)。こんなリクツをこねなくても、一発で吹き飛ばす方法があります。あるように見えるだけで、密室なんて存在しません。

 少し加筆しました。
(090630追記・さらに加筆し、文末に追記を加えました)

 以下が本文です。


     ☆


 オーラスの書き込みをしたら、そのあと黙ってしまいそうだから、先に大事なことを書いておきます。

 赤字の破り方。

 赤字は基本的に、どんな方法でも破れる。その一例を挙げます。

「赤は真実を語る」と、ベアトは赤字で言ってます。けれど、赤字が真実であることは赤字では証明できない。赤字が真実であることを赤字で証明するには、赤字が真実であると証明しなければならないからです。

 では、「赤は真実を語る」は真実ではないのか?

 それを考えるためには、「真実」を定義しなければならない。
 しかし、その定義は作中にはない。
 つまり、「真実」が何を意味するかは、言ってる各人が勝手に決めてよい。

 極端な話、「私はウソのことを真実と呼ぶ」という定義がなされている人物の赤字は、全部ウソってことになる。

 だいたい、この物語、「真実っていったい何? 証拠もないし、何も証明できないじゃん」という話じゃないですか。
 だから、真実は各自が主観で勝手に決めていいってことになっている。

 赤字だけがそれを逃れえる、なんていう考え方は変だ。いったい誰が「事実かどうか」を判定しているのかという話になってしまう。

 すなわち、ここでの真実とは「主観的真実」。言ってる本人が真実だと信じている内容は、たとえ事実が違っていても赤字で言えるのではないか、という仮説が出てくる。

 ……ここまでは既出の論。

 でもこの論を提唱する人は、重大な反証にぶつかる。

 戦人は、自分が右代宮明日夢から生まれたと思い込んでいるのに、どうして「俺は右代宮明日夢から生まれた」と赤字で言えないのか。

 とりあえずここを破ることにしましょう。

「魔女は赤字を使える」と、誰かが言ってましたね。
 つまり、赤字とは魔法であるということ。
 この作品において、魔法とは何だったか。
 ありもしないものを、「ありもしないと検証できない」状態におくことで、まるで存在するかのように振舞わせてしまうトリックのことです。

 赤字とは、さくたろうのようなもの。
 仮に、そう考えるとしましょう。そういう仮説です。

 真里亞とベアトリーチェが2人きりでいる状態で。
 真里亞が「いる」と信じて、ベアトリーチェが「いる」と信じれば、さくたろうは存在する。
 そしてベアトリーチェは、「さくたろうはいる」と赤字で言える。
 この部屋に、突然楼座が入ってくる。
 そして「さくたろうなんていません!」と言ったとする。
 さくたろうは消える(楼座にとっては存在しない)。
 楼座にとって存在しない以上、「さくたろうはいる」は真実ではない。
 だからベアトリーチェは「さくたろうはいる」と赤字で言えなくなる。

 真里亞とベアトリーチェが2人きりでいる部屋で、
 真里亞が「赤字は真実だよね」と思い、ベアトリーチェが「赤字は真実であるぞ」と思えば、赤字は真実を語るということになる。

 この部屋に、とつぜん戦人が入ってきて、
「やっぱ俺、赤字が真実だとはとても思えねえ!」
 と強い信念で言ったとする。
 するとベアトリーチェは急に、「赤は真実を語る」と赤字では言えなくなる。
 なぜなら、戦人にとっては赤字は真実でないので、「赤は真実を語る」は真実とは言えなくなるからだ。

 ベアトリーチェは、1人きりでいるときには、「魔女はいる、魔法はある」と赤字で言える。
 ただし、そこに戦人がいる場合、急にそれを赤字で言えなくなる。
 なぜなら、戦人にとって魔法は存在しないものなので、「魔法はある」は真実ではないからだ。
 だが、
 戦人が魔女に屈服し、「やっぱり魔法ってあるらしい……」と思ったとき。
 その瞬間、ベアトリーチェは、戦人の目の前で「魔女はいる、魔法はある」と赤字で言えるようになる。
 ベアトリーチェが信じ、戦人が認めた以上、その場では「魔女はいる、魔法はある」が真実として振る舞うからだ。

 自分は右代宮明日夢から生まれたと、戦人は信じている。
 けれど、目の前にいるベアトリーチェが、
「コイツが右代宮明日夢から生まれたワケない」
 と思っていたとする。
 この条件のとき、「たとえ戦人が実際には右代宮明日夢から生まれていたのだとしても」戦人は赤字で言えない。

 これで、「赤字の真実とは主観的真実」と、「俺は右代宮明日夢から生まれたと戦人が赤字で言えない」が、両立しました。

    *

 ベアトリーチェが、「マスターキーが5本しかない」と自分で信じていて、
 なおかつ、戦人が「マスターキーって5本だけなのかそれ以上なのかわからない……」と真偽不明の気持ちでいるとき。
 ベアトリーチェは「マスターキーは5本しかない!」と赤字で言える。

 ただし、戦人が、
「マスターキーは絶対6本ある! だって俺見たことあるもん!」
 と信じていたら、ベアトリーチェは「5本だ」と赤字で言えない。
 このとき「戦人は、6本めのマスターキーを見たと思い込んだだけで、実際にはない」状態だったとしても、ベアトリーチェは「5本だ」と赤字で言えない。

 さあここで、「ベアトリーチェ」という存在は、大まかに、2種類いるわけです。
「現象ベアトリーチェ」と、
「魔女ベアトリーチェ」。

「現象ベアトリーチェ」は、ドレスを着て赤字で喋ってる人です。
「魔女ベアトリーチェ」は、下の世界で人殺しを繰り返してる殺人犯のことです。ときどき、ブレザーを着て登場したりする。

「魔女ベアトリーチェ」が6本めのマスターキーを隠し持っていたとしても、「現象ベアトリーチェ」がそれを知らなければ、「マスターキーは5本しかない」と赤字で言えます。

 これで、6本めのマスターキーを存在させることができました。あとは施錠系の密室を開け放題です。


    *

 さて、魔女は赤字が使える、ということでした。
 ということは、赤字は魔法である、ということになりました。
 すると、赤字を使える戦人は魔女であるということになります。

 いいの?

 いいんです。

 この物語の「魔女」ってどういうものでしたっけ。
「真実の上に主観を上書きしちゃう人のこと」でしたよね。
 真実は「殺人犯が殺人を犯した」なのに、ベアトリーチェは「魔女が魔法を使った」という主観的イメージを上書きして、しかもそれを、戦人に「認めろ!」って強要している。
 そういう人のことを魔女といいます。
 でも、「真実」ってのは、主観が決めるんだっていう話だったでしょう?
 ということは、
「魔女が魔法を使った」というのが真実なのに、「殺人犯が殺人を犯した」という主観的なイメージを上書きして、しかもそれを、ベアトリーチェに「認めやがれ!」って強要しているのが、戦人っていうことになります。
 そういう人のことを魔女といいます。

 戦人=魔女、が、成立しました。

 つまり戦人は、自分が魔女なのに、魔女なんていないって言ってる人ということになります。


●追記(090630)
 よく考えたら、上位ベアトリーチェ(現象ベアト)は、「マスターキーは6本以上ある」と知っていてもかまわないな、と思うようになりました。
 ベアトリーチェも真里亞も、存在しないさくたろうを、「いてほしい」と願うことによって、存在させたのですから。
 ベアトリーチェは、魔女を信じてもらうために、「マスターキーが5本だけであってほしい」と願えばいいのです。願って、それを目の前の人に信じてもらえれば、「マスターキーは5本しかない」が真実になるのですね。


■目次1(犯人・ルール・各Ep)■
■目次2(カケラ世界・赤字・勝利条件)■
■目次(全記事)■


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7 コメント

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Unknown (宇宙外生命体)
2010-07-21 17:20:20
戦人って反魔法力が強いって設定があったので、赤字が魔法ならば戦人の前で赤字は使えないはずでは?ってのを思い付いた。
返信する
Re:Unknown (Townmemory)
2010-07-26 18:05:59
●宇宙外生命体さんへ
 こんにちは。わたしは思うのですが、それは魔法の定義による話ではないでしょうか。赤字の正体が魔法、つまり常識を越えた神秘的な力であるのなら、おっしゃるとおりだと思います。でもわたしたちは基本的に、おおむね、そうではない立場に立っているんじゃないでしょうか。
返信する
はじめまして (風流)
2011-11-17 03:37:36
はじめまして、ここの書き込みを読んで目から鱗の想いです。ふっと思いついたことでスカスカの考えかもしれないのですが
猫箱の真実に関しては赤で言えるのではないでしょうか?「戦人は明日夢の子どもではない」なんて未来の現実では、判明している可能性があります(縁寿も戦人は明日夢の子どもではないと知っていましたし)そう考えると、さくたろがよみがえらせられなかった理由も猫箱の時点では、さくたろは存在していなかった。未来の世界において、縁寿が観測したから…だと考えましたがどうでしょうか?
返信する
Unknown (Townmemory)
2011-11-17 07:00:08
●風流さん
 ごめんなさい、ちょっと、ご質問がよくわかりかねました。別のいいかたで問うてくださったら、わかるかもしれません。
返信する
Unknown (風流)
2011-11-19 04:03:23
事件が起きた二日間は、猫箱に閉ざされその鍵も絵羽があの世にもっていきましたよね
つまり、猫箱の中にはいくつ真実があっても並行して存在できその真実が否定されない限りは、真実だという認識でいます

ここで私が思うのは、猫箱の外の世界(絵羽が帰還し、エンジュがいる世界)では、戦人が明日夢の子どもではないという真実が明らかになっていたから戦人は赤文字という真実を使えなかったと考えました

つまり、戦人が自分で信じている真実「戦人は明日夢の息子である」が復唱できなかったのは、ベアトが認めなかったからではなく、不変な真実が存在していたからだと思いました。

逆にマスターキーなどは確認できません。猫箱に閉ざされた真実です。だから、マスターキーは5本である。と実は6本あったとしても
赤文字で宣言できる
なぜなら、猫箱に閉ざされた誰にも観測できない真実だから

まとめると(支離滅裂ですが)
赤文字で語れるのは、猫箱に閉ざされたものであるというルールみたいのがあるんじゃないかなと思ったんです。


返信する
Unknown (風流)
2011-11-19 04:04:05
事件が起きた二日間は、猫箱に閉ざされその鍵も絵羽があの世にもっていきましたよね
つまり、猫箱の中にはいくつ真実があっても並行して存在できその真実が否定されない限りは、真実だという認識でいます

ここで私が思うのは、猫箱の外の世界(絵羽が帰還し、エンジュがいる世界)では、戦人が明日夢の子どもではないという真実が明らかになっていたから戦人は赤文字という真実を使えなかったと考えました

つまり、戦人が自分で信じている真実「戦人は明日夢の息子である」が復唱できなかったのは、ベアトが認めなかったからではなく、不変な真実が存在していたからだと思いました。

逆にマスターキーなどは確認できません。猫箱に閉ざされた真実です。だから、マスターキーは5本である。と実は6本あったとしても
赤文字で宣言できる
なぜなら、猫箱に閉ざされた誰にも観測できない真実だから

まとめると(支離滅裂ですが)
赤文字で語れるのは、猫箱に閉ざされたものであるというルールみたいのがあるんじゃないかなと思ったんです。


返信する
Unknown (Townmemory)
2011-11-19 15:36:09
●風流さんへ

 ああ、理解しました。考え方として成立していると感じられますので、良いと思います。

 ただ、個人的には、その考え方は採りません。わたしは、「六軒島だけが特別に猫箱である」という受け取り方をしないからです。

 たとえば、六軒島の中にいる戦人にとって、六軒島の外側は、ぜんぶ猫箱です。なぜなら、どうなってるか確認できないからです。
 六軒島内の戦人にとって、自分が見ることのできる範囲と、自分の手で触れられることのできる範囲内だけが、猫箱の外です。ですから、六軒島の内側であっても、鍵のかかった部屋の内側などは、猫箱の内側です。

「六軒島の内側だけが猫箱であって、それ以外は猫箱の外側だ」と一律に考えてしまうのではなくて、
「すべての人間にとって、自分が確認できる範囲内が猫箱の外側であって、それ以外はぜんぶ猫箱の内側だ」
 というふうに考えたいのです。

 たとえば、わたしたちは、未来に何が起こるのかを、あらかじめ知ることができません。
 ということは、わたしたちにとって、未来は「猫箱の中」なのです。だから、無限の可能性が考えられます。

 1986年の六軒島にいる戦人にとって、1998年という未来は「猫箱の中」です。だから、無限の可能性があります。
 未来の時点でどういう真実が存在しているかは、戦人から見て不定なのですから、戦人はそういう真実に干渉されることはない、というのが、わたしの考えです。
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