少し調べたり考えたりしたことを書く。
長いので、いくつかに分けますが、
(2)以降には、激しくネタバレがあるので
未読の方はご注意ください。
1.はじめに-投げかけられている問い
2015年に原書が出版された、ユヴァル・ノア・ハラリさんの「ホモ・デウス」の後半では、
人間の知能を増強するAI や、ゲノム編集を中心とする遺伝子工学が生み出す未来が、
その大きな危険性とともに語られている。
「我々は不死と幸福、神性をめざし、ホモ・デウス(神のヒト)へと自らを
アップグレードする。そのとき、格差は想像を絶するものとなる。」
そして、2021年に世界同時出版された、カズオ・イシグロさんの長編小説
「クララとお日さま」でも、AI や遺伝子工学が普通に存在する未来が描かれている。
イシグロさんの前作「忘れられた巨人」の原書の出版は 2015年で、
「クララとお日さま」の構想を開始したのも同じ頃と想像されるので、
シンクロニシティはあるとしても、
何らかの影響関係があると考えるのは自然だろう。
ハラリさんが、歴史家として語った未来を、
イシグロさんは、小説家として描いている。
そして、どちらの本でも、改めて問われている大きな問いは、
「人間とは何か?」
「世界の大きな変化の中で私たちは何を感じ、どうしてゆくのか?」
だ。
「クララとお日さま」の出版直後、
2021年3月6日の日経新聞のインタビュー記事と動画で、
イシグロさんは次のように語っている。
「人間が個人としてお互いを理解するやり方が、
これまで何百年となく続けてきた方法とは少しずつ変わっていくかもしれない。
人を人たらしめる条件とは何か。私たちの体には魂のようなものがあるのか。
十分なデータさえあれば、同じ性格や個性を持った存在を複製できるのか。
そんな問いを改めて投げかける時に、我々は来ているのではないか。」
そして、その背景にあったものは、
「能力によって人を評価する方法は善いものだと考えてきました。
しかし、ある人間を他人より優秀に改造することが技術的に可能な世界になると、
かつて南アフリカにあったアパルトヘイト政策と似たようなものに
能力主義が変化してしまうかもしれない。」
「自分がずっと親しんできたはずの自由で民主的な考え方への
コンセンサスが、実は非常にもろいものだったと知ったときの衝撃。」
だという。
こうした「能力主義」への批判は、たとえば
マイケル・サンデル教授の新著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』
(原著は 2020年9月)などとも共通する、
今の世界の思想的な流れにもなっている。
(つづく)
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