日々の寝言~Daily Nonsense~

ピアノ奏法の沼

ピアノのレッスン動画を見ているうちに、
「重力奏法」「ロシアピアニズム」「脱力奏法」
といった演奏技術についての動画が
たくさんあることに気づいた。

いくつか見ているのだが、
これがなかなか混乱していて
よくわからない。

要するに、目的としては、
多様な響きの音を
エネルギー効率よく、
高速で、頑健に
コントロールして出すための技術、
ということなのだろうが、
具体的にどうするか、
どこに気をつけるか、などは
人によっていろいろな意見があるようだ。

まず、無駄な力を入れない
「脱力」の重要さについては、
とても多くの方が動画にしている。

身体に余計な力を入れず、
必要な筋肉だけを、必要な瞬間に固めて、
関節や他の筋肉は自由にする。

これは、音に表情をつけるためにも、
無駄なエネルギーを使わないためにも、
重要性があるのはわかりやすい。

一方、「重力奏法」や「ロシアピアニズム」は
定義がいろいろあってよくわからないのだが、
おそらく、要するに、
指や手首から先で叩くのではなく、
腕や身体全体の重さも使って弾く、
という奏法で、歴史的には、ショパンやリスト
まで遡るという(チェンバロまで遡るという説もある)。

そして、リストの先生が、
練習本で有名なツェルニーで、
ベートーヴェンの弟子だったということだ。

ベートーヴェン → ツェルニー
→ リスト、レシェティツキー
ゴドフスキー(ほぼ独学?)
→ ネイガウス

このうち、レシェティツキーは
サンクトペテルブルグの音楽院で教えていたし、
ネイガウスはモスクワの音楽院で
ギレリスやリヒテルなど
著名なピアノストを多数育てた。

日本人では「ロシアピアニズム」の著者である
大野眞嗣さんがニコラエワやディーナ・ヨッフェを通して
ネイガウス流のロシアピアニズムを学び
「大野メソッド」を開発されているという。

代表的ピアニストとしては、
ホロヴィッツやアルゲリッチの名前が
挙がることが多い。
プレトニョフもそうなのだろう。

もちろん、こういう人たちは、
特定の流派に所属しているという意識はなく、
身体や手の大きさも人によって違うので、
自分ならではの奏法に、考え方を取り入れている
ということだと思う。

ピアノは打楽器なので、基本的には
鍵盤を「叩く」ことで音を出すのだが、
「叩く」というイメージだけだと、
最初のアタックが強くて余韻が弱い
いわゆる硬い音になる。

そういう音が必要な場面もあると思うが、
それだけではなく、もっといろいろな
強弱や音色を出すために、
ハンマーが弦にあたってから
離れるまでの動き
(さらにはペダルも含む)をいかに
コントロールするかについて、
いろいろな人が考えて発展した
のではないかと思う。

なので、指を持ち上げずに
鍵盤の近くでひらひらと弾くとか、
鍵盤の底を叩かないで鍵盤の中で弾くとか、
鍵盤の浮力を感じるとか、
腕や身体の重さを支えつつ、
胸から先の関節を自由にするとか、
そういった特徴は、結果であって、
形から入る、ということはあるにしても、
そこを目標にしてしまうのは
あまり良くないように思われる。

しかし、そういう考え方や技法がある
ということは知っておくほうが良いのだろう。

こちらのブログによると、
あの牛田智大さんさんにしても、
プレトニョフに教えてもらって
表現の幅が広がったということだ。

> 指だけで弾くのではなく、
> 肩から上半身を使って鍵盤に重さをのせて、
> コロコロとボールを転がすように重さを移動させて
> パッセージを弾くことを学んでいます。
> ロシア・ピアニズムの特徴は、
> 美しい音色の繊細なグラデーションと
> “ピアノで歌うこと”なんだなと思います。

ちなみに、YAMAHA のサイトにある
牛田さんのインタビューはこちら
他にも数々のピアニストのインタビューがあって愉しめる。
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