ドキュメンタリーと小説の中間のようなノンフィクション作品。
煽るような文章で読ませる。
一つの物語の中に、ほかの小さなエピソードを埋め込む
という構成も上手だと思った。
ただし、上手なんだけど、
上手さが目立つとういうか、
アマチュアっぽい文章でもある。
そのへんが、人によっては気障っぽいというか、
自分の文章に酔っているような
感じが鼻につくかもしれない。
とはいえ、内容は、あのときにあの場所にいた人
にしか書けないもので、渾身の、いや、畢生の作品だ。
自分が将棋界に惹かれるのがなぜか、
少しわかったような気がした。
奨励会を含む将棋界というのは、
普通の世界のある部分を凝縮して、
デフォルメしたようなものだ。
そもそも、将棋の強さですべてが決まる、
というところがすごい。
これはまぁ、ほかのプロスポーツでも
似たところはあるとしても、
奨励会の厳しい年齢制限は、
他にはあまり無い制度ではないだろうか?
それが、この本のメインテーマにもなっている。
一定の年限内にプロ棋士になれないと、
退会しなくてはならない。
10年以上の人生を、それも自分だけでなく
周囲の人たちについても注いだ努力が
ほとんどすべて無になってしまう。
外にいる自分には、中の人の気持ちや苦労は
想像すらできないが、期限が近づいた人には
ものすごいプレッシャーだろう。
天才として生まれて、名人という夢をもち、
夢に向けて力を尽くし、激しい競争をして、
それに敗れて追い出される・・・
うーん、全くうまく書けないが、とにかく
人生のいろいろな暗黙的なことがらを、
くっきりと明確にして短い時間に圧縮したような世界。
それが、そこで起こる人間ドラマの陰影をも濃縮して、
ものすごく色濃いものにしている。
そういう意味では、
Never Let Me Go の世界にも似ているかもしれない。
最後は、予定調和的に、
将棋の奥深さを讃える形で終わっているのだが、
これはいかにもとってつけたような結論で、
そう簡単には納得できなかった。
読み終わった後、
自分はいったい何の子なのだろう?
などと考えてしまった。
改めてそう考えると、
何の子でもないような・・・
天才ではないからしかたないか。
それにしても、大崎さんは
この一生に一度のネタを書いてしまって、
他に書くことがあるのだろうか?
などと余計な心配をしたが、
その後も着々と作品を出版しているようだ。
次は、「パイロットフィッシュ」を
読んでみたい。
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