将棋の順位戦は、将棋界で最も権威と歴史のある
タイトルである「名人」への挑戦権をかけた戦いで、
ほとんどすべてのプロ棋士が、最上級のA級から
B1級、B2級、C1級、C2級、と5つのクラスに
分かれて戦っている。
ほぼ同じシステムは、将棋界で最も賞金の高い
タイトルである「竜王」への挑戦者を決める戦いでも
採用されていて、そちらは、1組から6組までに
分かれている。(竜王戦では、下の級の優勝者も
挑戦者になれる可能性があるが、順位戦では、その年度の
A級の棋士だけにその可能性がある、という違いはある)、
当然ながら、厳しい勝負の世界で、
いくら過去の実績があっても、将棋が弱くなってしまえば、
どんどん級や組が下がってゆき、
やがては引退ということにもなる。
逆に、勝ち続ければ、どんなに若くても、
トップに昇りつめることができるため、
プライドと生き残りを賭けた、熾烈な戦いが繰り広げられる。
順位戦は、毎年7月に始まり、3月に終わる。従って、
2月、3月は名人挑戦、昇級、降級、に直接的にかかわる
重要な戦いが多くなり、勝負の熾烈さに拍車がかかることになる。
なかでも、A級の最終局が一斉に行われる日は、毎年、
「将棋界の一番長い日」と呼ばれて話題になる。
ちなみに、今期は、3月3日。
その順位戦のA級の定員はわずかに10人。
年間を通じて、1月に1局のペースで、総当りで戦われる。
昨日は、その8回戦(ラス前)が一斉に行われた。
今期は、前期の挑戦者でもある本命の羽生四冠が、
年度後半からの好調を維持して独走かと思われたところ、
近年やや調子を落としていた谷川九段が、驚異的とも言える
復調を見せて対抗し、どちらも7勝1敗で8回戦を迎えた。
羽生四冠の対戦相手は、同世代の佐藤康光棋聖。
昨年の夏から、棋聖(佐藤防衛)、王位(羽生防衛)、
王将(現在、羽生の3勝)と3つ続けてタイトル戦を戦っていて、
やや羽生に歩がある。対戦成績でも、100局以上対戦して、
羽生が約70勝と、ちょっと偏っている。しかし、佐藤としても、
先手番であり、王将戦への影響も考えると、
ここはなんとか勝ちたい一戦。
一方、谷川九段の対戦相手は、若手の丸山九段。
こちらも、かつて名人や棋聖にもなった猛者だ。
双方の持ち時間は5時間づつで、戦いは、朝の9時から始まり、
終局するのは、夜中の0時を回ることが多い。
千日手などの指しなおしになると、朝までかかることもある。
その間、気力を途切れさせたほうが負けるわけで、
将棋というと、知力のゲームという印象があるが、
実際は、知力に加えて、気力体力の勝負でもある。
結果は、羽生と谷川の両者ともに、持ち味どおりの将棋で勝って、
8勝1敗で最終局を迎えることとなった。
勝負しているほうは大変だろうが、
観戦しているほうにとってはたまらない展開で、
今から、最終局が楽しみ。
それにしても、A級の10人は、名人も含めると、
日本で一番将棋が強い11人、ということになるわけだが、
そのメンバーの顔ぶれの多彩さはちょっと興味深い。
「将棋が強い人」と言うと、なんだか、一定のイメージがあって、
そういうタイプの人ばかりになってもよさそうな感じもするのだが、
10人それぞれタイプが違って、将棋が強い、ということ以外は、
共通点があまりなさそうに見えるのが、ちょっと不思議だ。
逆に言うと、「人間のタイプ」で先入観を持ってしまうのは
あまり良くない、ということを実証している、とも言えるし、
あることの第一人者のレベルに達するのに、
道は一通りではなく、かなりいろいろなアプローチがある、
ということだと思う。