はな to つき

花鳥風月

世界旅行の世界(1)

2019-06-05 21:27:15 | 【世界旅行の世界】
 コルドバという街の朝です。

 突き抜けるような、ちょっと日本にはないパステルブルーの天空です。

 中学生の女の子は尋ねます。


「先生?今日はどちらの方角へ?」

「えっと、ここから南東に、グラナダというわりと大きな街があるのだけれど、そっちの方角を目指してみるというのはどうだろう?」

「うん、いいよ。そうしよう」


 あまりにもゆるい、行路設定です。
 そこはそれ、そもそも、知らない世界を見てみようという旅です。
 ゆるい先生の鷹揚な提案も、女の子がYESなら、それで決まりです。


 今日は、いったいどんな町がふたりを待っているのでしょう。

 スペインは、広い。

 果てしなく、広い。
 ゆっくりゆっくり、列車の旅です。


 車窓からの風景は、ほどなくすると一面のぶどう畑やオリーブ畑の景色に変わります。

 薄く開けた窓から流れ込む、遠く地中海から届いたサラサラの風が女の子の髪を揺らします。

 コルドバで買い込んだサンドイッチとコーヒーで早めのランチです。

 女の子は、まだスペインの苦味の強いコーヒーが飲めません。

 お砂糖をたくさん入れたラテです。


「このラテ、とっても甘い」

「そう?では、わたしのコーヒーを少し分けてあげましょう。きっと、ちょうどよくなるよ」

 漂うような時間のなかでのランチは、心もお腹も満たしてくれます。


 今日三度目となる、少し長めの停車時間です。
 ふたりは、固まってしまった体を開放しに列車の外へと向かいます。
 乾いた光に包まれた一直線のホームです。
 ひさしがないところまで歩いて行って、西へと傾きはじめる太陽の下で大きく伸びをします。


「今日はどこまで行けるかなあ?」

 両手をいっぱいに挙げたまま女の子は聞きます。


「るみちゃんは、今夜どんなところに泊まってみたい?」

「そうだなあ・・・、ちょっと田舎みたいなところがいいかも」
「そうか。では、昔の映画にでも出てくるようなところがあるといいね」

 そういいながら並んで列車に戻ります。
 ふたり、ほとんど同時に腰をかけると、すぐに先生は大きな地図を開きます。


「どこか、ありそう?」
「う・・・ん、どうだろう。地図だと風景まではわからないから、勘で決めてしまおう。それでは、るみちゃん、目を閉じて右手を貸してみて?」

「こう?」
「そうそう。では、膝の上に地図を置くよ?そうしたら、好きなところに人差し指を下ろしてごらん」

「わかった。じゃあねえ・・・ここ」


 女の子は、指を固定させたままで目を開けます。
 先生は、人差し指のそっと置かれた場所を確認します。


「ボバディージャ、だね」
「ぼばでぃーじゃ?耳慣れない音の組み合わせだね」

 女の子は、笑顔でそういいます。

 そんな女の子を見て、先生にも笑顔が伝わります。

 そうして、今夜のステイ先は決まります。

 コルドバとマラガのちょうど真ん中くらいの小さな町。


 ボバディージャ。

(つづく)


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