コルドバという街の朝です。
突き抜けるような、ちょっと日本にはないパステルブルーの天空です。
中学生の女の子は尋ねます。
「先生?今日はどちらの方角へ?」
「えっと、ここから南東に、グラナダというわりと大きな街があるのだけれど、そっちの方角を目指してみるというのはどうだろう?」
「うん、いいよ。そうしよう」
あまりにもゆるい、行路設定です。
そこはそれ、そもそも、知らない世界を見てみようという旅です。
ゆるい先生の鷹揚な提案も、女の子がYESなら、それで決まりです。
今日は、いったいどんな町がふたりを待っているのでしょう。
スペインは、広い。
果てしなく、広い。
ゆっくりゆっくり、列車の旅です。
車窓からの風景は、ほどなくすると一面のぶどう畑やオリーブ畑の景色に変わります。
薄く開けた窓から流れ込む、遠く地中海から届いたサラサラの風が女の子の髪を揺らします。
コルドバで買い込んだサンドイッチとコーヒーで早めのランチです。
女の子は、まだスペインの苦味の強いコーヒーが飲めません。
お砂糖をたくさん入れたラテです。
「このラテ、とっても甘い」
「そう?では、わたしのコーヒーを少し分けてあげましょう。きっと、ちょうどよくなるよ」
漂うような時間のなかでのランチは、心もお腹も満たしてくれます。
今日三度目となる、少し長めの停車時間です。
ふたりは、固まってしまった体を開放しに列車の外へと向かいます。
乾いた光に包まれた一直線のホームです。
ひさしがないところまで歩いて行って、西へと傾きはじめる太陽の下で大きく伸びをします。
「今日はどこまで行けるかなあ?」
両手をいっぱいに挙げたまま女の子は聞きます。
「るみちゃんは、今夜どんなところに泊まってみたい?」
「そうだなあ・・・、ちょっと田舎みたいなところがいいかも」
「そうか。では、昔の映画にでも出てくるようなところがあるといいね」
そういいながら並んで列車に戻ります。
ふたり、ほとんど同時に腰をかけると、すぐに先生は大きな地図を開きます。
「どこか、ありそう?」
「う・・・ん、どうだろう。地図だと風景まではわからないから、勘で決めてしまおう。それでは、るみちゃん、目を閉じて右手を貸してみて?」
「こう?」
「そうそう。では、膝の上に地図を置くよ?そうしたら、好きなところに人差し指を下ろしてごらん」
「わかった。じゃあねえ・・・ここ」
女の子は、指を固定させたままで目を開けます。
先生は、人差し指のそっと置かれた場所を確認します。
「ボバディージャ、だね」
「ぼばでぃーじゃ?耳慣れない音の組み合わせだね」
女の子は、笑顔でそういいます。
そんな女の子を見て、先生にも笑顔が伝わります。
そうして、今夜のステイ先は決まります。
コルドバとマラガのちょうど真ん中くらいの小さな町。
ボバディージャ。
(つづく)
突き抜けるような、ちょっと日本にはないパステルブルーの天空です。
中学生の女の子は尋ねます。
「先生?今日はどちらの方角へ?」
「えっと、ここから南東に、グラナダというわりと大きな街があるのだけれど、そっちの方角を目指してみるというのはどうだろう?」
「うん、いいよ。そうしよう」
あまりにもゆるい、行路設定です。
そこはそれ、そもそも、知らない世界を見てみようという旅です。
ゆるい先生の鷹揚な提案も、女の子がYESなら、それで決まりです。
今日は、いったいどんな町がふたりを待っているのでしょう。
スペインは、広い。
果てしなく、広い。
ゆっくりゆっくり、列車の旅です。
車窓からの風景は、ほどなくすると一面のぶどう畑やオリーブ畑の景色に変わります。
薄く開けた窓から流れ込む、遠く地中海から届いたサラサラの風が女の子の髪を揺らします。
コルドバで買い込んだサンドイッチとコーヒーで早めのランチです。
女の子は、まだスペインの苦味の強いコーヒーが飲めません。
お砂糖をたくさん入れたラテです。
「このラテ、とっても甘い」
「そう?では、わたしのコーヒーを少し分けてあげましょう。きっと、ちょうどよくなるよ」
漂うような時間のなかでのランチは、心もお腹も満たしてくれます。
今日三度目となる、少し長めの停車時間です。
ふたりは、固まってしまった体を開放しに列車の外へと向かいます。
乾いた光に包まれた一直線のホームです。
ひさしがないところまで歩いて行って、西へと傾きはじめる太陽の下で大きく伸びをします。
「今日はどこまで行けるかなあ?」
両手をいっぱいに挙げたまま女の子は聞きます。
「るみちゃんは、今夜どんなところに泊まってみたい?」
「そうだなあ・・・、ちょっと田舎みたいなところがいいかも」
「そうか。では、昔の映画にでも出てくるようなところがあるといいね」
そういいながら並んで列車に戻ります。
ふたり、ほとんど同時に腰をかけると、すぐに先生は大きな地図を開きます。
「どこか、ありそう?」
「う・・・ん、どうだろう。地図だと風景まではわからないから、勘で決めてしまおう。それでは、るみちゃん、目を閉じて右手を貸してみて?」
「こう?」
「そうそう。では、膝の上に地図を置くよ?そうしたら、好きなところに人差し指を下ろしてごらん」
「わかった。じゃあねえ・・・ここ」
女の子は、指を固定させたままで目を開けます。
先生は、人差し指のそっと置かれた場所を確認します。
「ボバディージャ、だね」
「ぼばでぃーじゃ?耳慣れない音の組み合わせだね」
女の子は、笑顔でそういいます。
そんな女の子を見て、先生にも笑顔が伝わります。
そうして、今夜のステイ先は決まります。
コルドバとマラガのちょうど真ん中くらいの小さな町。
ボバディージャ。
(つづく)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます