はな to つき

花鳥風月

世界旅行の世界(40)

2019-10-06 23:17:53 | 【世界旅行の世界】
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6月28日 晴れ

ターコイズ。
今日来た家庭教師の先生の印象。
海みたいな、空みたいな感じ。
広くて深くて透きとおるみたい。
お父さんとお母さんの誕生石のトルコ石は、ターコイズというらしい。
ターコイズって名前の方が、ずっとかっこいい。
それはともかく、今日は家庭教師の先生に初めて会った。
すごく背が高くて、すらっとしている。
最初はぶっきらぼうな感じで、ちょっと怖そうだったけれど、『よろしくお願いします』のあと、すごく優しい目で『よろしくね』と私を向いてくれた。
それが、透きとおるイメージ。

今日は初めてだから、ただお話をした。
部活のこと、好きな科目の話。
フルートのこと、数学や国語の話。
すごく楽しそうに聞いてくれた。
一つ話し終わると、先生は必ず『そうだね』と優しく言う。
『そうだね』って言ってから、先生の質問コーナーが始まる。
質問のときもあるし、感想のときもある。

先生のお話もたくさん聞いた。
先生はこれから、世界中を旅するんだって。
いろいろな所に行くから、お金を貯めてるんだって。
(家庭教師はもうかるのかな?)
これから行く世界中の国のお話を教えてくれた。
先生は、物知り。
本のお話とか、歴史のお話とか、まるで、先生はなんでも知ってるみたい。
すごく面白くて、もっともっととお願いをしたら、毎週少しずつお話してくれるって。
お勉強の合間にお話するから、頑張ってね、だって。

先生はちっとも怖くなんてなかった。
とっても仲良しになれる気がする。
苦手な社会も頑張れるかもしれない。

お話していたら、あっという間に、先生が帰る時間になった。
帰るとき、先生が不思議なことを言った。
ずっと考えていれば、いつか意味が分かると言っていた。
もう少し大人になったら分かるから、思い出すまでの宿題だって。
『今度は最後まで』
どういう意味かな?

−おわり−

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 一言一句、女の子は再現できます。
 先生と初めて会ったその日のことを、覚えています。
 ーーーファド?あ、ターンした
 物悲しいギターの音色が、一瞬、リスボンで聞いたファドと重なります。
 そのとき見えたように思えた、ターンをした女性。
 気づくと、ステージには、二人いたはずの踊り手が一人になっています。
 ーーーソレア・・・知っている、私、この曲を覚えている
 楽しい雰囲気のセビジャーナスから、いつしかソロに似合いの孤独の影を帯びた曲へと変わっています。
 ーーー私、前にフラメンコを踊っていたことを覚えている
 『ソレア』に導かれるように、女の子はあの世界へ引き込まれて行きます。
 ーーー私、ソファに座りながら、海を見下ろせる平屋建ての間取りを、先生の右側で話していたことを覚えている
 ーーー私、海のお家に越す前の先生の部屋で、初めて作ってくれた料理が、レタスとナスのパスタだったことを覚えている
 ーーー私、オレンジ色の暖かい灯りの下で、「あなたのメモの行間と同じことが伝えたかった。だいすきだよ」って、プロポーズされたことを覚えている
 ーーー私、先生のことをずっと前から知っている。ずっとずっと、覚えている
 ーーー最後の約束。先生との約束。私、全部覚えている
 『ソレア』に導かれた女の子は、二つの世界のつながりを理解して、左にいる先生に顔を向けます。
 女の子の振り向くタイミングを知っていたように、先生は初めて会った日の優しい瞳で見つめています。
 確かめるように、女の子は、口にします。
 待っていた先生は、その答えを、口にします。
 そして、あのときの約束が、未来で確信に変わります。
「せんせい?世界旅行へは、次の世界で出逢ったときに連れて行ってね?」
「ああ、次の世界で必ず連れて行く。そして、今度は最後まで一緒だよ」

 世界旅行。
 それは、わずかな時間しかともにいられなかった、前の世界からのふたりの約束。
 世界旅行の世界での再会の約束。

(つづく)

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