はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 45

2012-06-12 06:36:20 | 【Gravity Blue】
“Hello.”
息を飲むほどに、平坦に言った。

懐かしい人からの電話であることは、すぐに理解できた。
しかし、懐かしさに浸りつつも、彼のトーンは一向に変わることはない。
それどころか、見慣れた後姿が、まるで全神経が遮断されたように、みるみる小さく萎んだ。
そして、終始、たまの返事をするだけで、ほとんど黙って聞いているだけだった。
きっと、予感は的中してしまった。
そう肌で感じた。

“・・・yes , later . Bye.”
そう無機質に言って電話を切った彼の背中は、凍てついているように見えた。
次の瞬間、わたしは、萎えてしまった彼を後ろから抱きしめていた。
そうするよりほか、何も思いつかなかった。

胸の前で交差したわたしの腕を優しく掴み、彼は呟くように言った。
「大切な人を、失ってしまった。」
わたしは、彼の少しパサついた髪を頬に押し当てた。
「とても大切な人を・・・。」

大切な人との死別ということを経験したことのないわたしには、
彼の本当の辛さを分かち合うことができない。
それだけではない。
そんな彼を慰める技量も、持ち合わせていない。
これほどに愛しいのに、まるで無力なわたしは、
ただひたすらに強く抱きしめることしかできなかった。

「帰らないと。」
そう言って、彼は後ろ手に、無力だったわたしの髪を撫でた。
それから、そっと体を入れ替えて、わたしを抱き寄せた。
「わたしも連れて行ってほしい。」
まるで、少女のように唇は開いた。
「朝になったら、一緒に行こう。」
「うん。」
わたしは、彼の胸の中で頷いた。

哀しさと優しさが混在した波が心を満たして、とても静かで温かい涙がこぼれた。

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