はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 64

2012-07-01 01:44:09 | 【Gravity Blue】
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

髪に白いものが増えたことと、多少のしわが入った程度で、
以前に会った時の印象をほとんど残していた伯父と伯母は、
あの時と同じく穏やかな佇まいで牧師さんの家にいた。

「本当に、久しぶりだ。見上げるほどに、大きくなったんだね。」
そう言って、伯父は手を差し出し、僕はそれを握った。
「ええ。あの時は、まだ8歳でしたからね。」

時間とは本当に不思議なものだ。
気が遠くなるほどに長く感じることもあれば、離れていた時間など
まるでなかったかのように縮めることもできる。

「遠いところを、わざわざお越しいただき、本当にありがとうございます。」
「いいえ。空さんの方こそ、大変だったわね。」
「ありがとうございます。伯母さん。
今は、別のところで暮らしているので、実は、僕らも急いで帰ってきたところなんです。」
「どなたかと一緒なの?」
「ええ。ただ、さっきまでは教会にいたはずなのですが、荷物を置く前に寄ってみたら見当たらなくて。」
「そうなの。どこに行ってしまったのかしら。」
心配そうな瞳を、窓の外に移した。
「ここへ着いた時に、様子が変わったように感じたので少し気になっているんです。」
そう正直に告げて、
「もう少し、ここで待っていていただけますか?探しに行こうと思うので。」
とお願いをした。
「気にしないで行っておいで。
もしも帰ってきたら、ここで我々と一緒に待っていてもらうから。」
「すみません。じゃあ、お願いします。」
財布を取り出すと、
「念のため、写真をお渡しておきます。すぐにわかるように。」
そう言って、ポッサムと一緒に写った彼女の写真を出した。
そして、伯父に手渡すと同時に、扉を開けた。

「あっ。」
ふたつの声が重なる。
勢いよく飛び出そうとして、扉の外にいた影とぶつかりそうになった。
“戻ってきたんだ”と思い視線を移す。
「もう大丈夫なの?泉。」
そこには、海よりも少し小さな女の子が立っていた。
「いずみ、さん?」
伯母の方へ振り返り、ぎこちなく聞いた。
「はじめまして。海の妹の、青木泉です。」

凛としたその声にゆっくりと顔を向けた時、
4人の空間がとてつもない静寂に包まれた気がした。

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