その表現が妥当だったのかはともかく「東洋のマイアミビーチ」と呼ばれ、毎年夏になると見渡す限りの砂浜に県内はもちろん首都圏各地から海水浴客がドッと繰り出して砂浜が全く見えなくなるほどの活況を呈した湘南海岸。
特に見出し写真に掲げた新江ノ島水族館前の片瀬西浜から画面が途切れる鵠沼海岸にかけては海の家が棟割長屋のように隙間もないほどにぎっしり建ち並んでもいた。
特にお盆界隈の日曜日などの人出はまた特別で、新聞各社はこぞってヘリを飛ばし、月曜日の朝刊1面に大きなスペースを使って写真を掲載したものだ。
ヘリから撮ったその写真には、砂浜を埋め尽くしてもなお行き場のない海水浴客たちが波打ち際を超えて海の中にこぼれ落ちているとしか思えないような光景が写っていたのである。
それも1990年代初頭くらいまでの話だから、今からざっと30年も前の話ではある。
それほどまでの人出はなくなったとはいっても、今でもこの湘南海岸片瀬西浜・東浜の人気は続いていて、日本の海水浴場の中では根強い人気を誇っているのは、その昔、両親や兄弟に連れてこられた幼かった子供たちが成長し、「そう言えば」と思い出して自分の子を連れてやって来ているからではないか。
この湘南海岸一帯の海開きは例年7月1日である。
梅雨入りする前に海の家建設を終わらせるのが例年のスケジュールらしいから、本来であれば6月に入ると建設ラッシュになるはずである。
しかし、今年は全くその動きがない。
遅れているわけでもなく、今年この界隈の海の家は開設を断念したところばかりで、結局1軒の海の家もない前代未聞の真夏の湘南海岸が出現しそうなのだ。
神奈川県が業者に示したコロナ感染予防の対策が厳しく、どこもそれをクリアするのは無理で、無理を承知で開設したところでとても採算が取れないと踏んだらしい。
お陰で、夏場に適用される各種条例や海水浴客の安全を守るための様々な施策も実施されないことになったから、水難救助のためのライフセーバーの監視もなく、例年はサーファーと海水浴客が混在しないようにゾーンで分けたり、ジェットスキーが海水浴客に近づけないような工夫をしていたがそれも行われないことになるから、今までとは違った形での事故やトラブルが懸念されている。
個人的な感想を言うと、海の家は嫌いではない。
真夏の太陽に焼かれながら水遊びをし、ほてった身体を安めに海の家の床に敷かれたゴザの上にゴロンと横たわって涼しい海風にふかれ、遊べば当然減るお腹に温かなラーメンとか焼きそばはことのほか美味しかった。
あの味は海の家だから出せるのであって、街中のどんな名店でも出せない味がそこにあった。
歴史的な夏になりそうなことし、千載一遇を逃す手はない。
ここはひとつ、好奇心丸出しにして珍しい夏を体験しに海水浴に行ってみようじゃないの ♪
去年6月の海の家建設風景=片瀬西浜の水族館前
浜辺に露出しているコンクリートの塊は海の家の土台
片瀬西浜から画面が途切れる鵠沼海岸まで最盛期にはびっしりと隙間がないほどに海の家が並んだ
日脚ぶりに湘南海岸自転車道を走るが、所々に堆砂の山があって自転車を押していかねばならない
かろうじて通行可能な場所でも堆砂で道幅はぐっと狭くなっている
江の島神社への参道に面した土産物店は営業を再開したが、平日と言うこともあって人影はまばら
江ノ島の突堤の一部は一昨年の台風被害があって立ち入り禁止になっていたが、一部で解除されていた
灯台は化粧直し中
突堤の反対側の岸壁も釣りが解禁されて大勢の釣り人が繰り出している
江ノ島の南側の岩場も立ち入り禁止が解除され、釣り人が出ていた
〝幻の東京五輪〟のためにヨットハーバーを明け渡したため、江ノ島を拠点にしていたヨットの姿が消えたてしまった=遠景は三浦半島葉山町あたり