なんだか底知れない不快感というか、言いようのないおぞましさを感じて目が釘付けになった。
見ようと思っていて目に入って来たのならいざ知らず、不意を食らったように先方からこちらの目に飛び込んできたのだからひとしおである。
わが家のカツラの細い枝先にびっしりと「何か」がくっついている?!
野に出てもすでに若葉を吹き始めている植物は極めて少ない。
ボクの目の届く範囲で言えばニワトコやマユミは芽吹きが始まったし、木ではないがアジサイの枝先でも黄緑色の柔らかな葉が出始めている。
わが家も同様で、アジサイの芽が動き出していて、それ以外はと言えばつるバラの「サハラ98」の新しいシュートの先で赤紫色の新芽が躍り始めたほか、「伽羅奢」の若緑色の芽も動き出してきている。
そんな我が家の落葉樹の中で真っ先に葉を広げるのがカツラである。
9本の株立ちになったカツラはわが家のシンボルツリーとも言うべき存在に育っていて、梢のてっぺんは2階の屋根に届くくらい良く茂っている。
まだ葉のない梢のそのまた先の細い枝先が何百本にも分かれて天を突いている様子は精巧な工芸品のようでもあって、実に美しい。
パソコンから目を離せばガラス戸の外にその光景が見えるし、お気に入りの椅子に腰かけて新聞や本を読む直ぐ傍らにこれらの枝先が伸びてきているのだ。
昨日は南から強い風が吹いていて梢を揺らしていたが、体感で確かめようとベランダに出てたまたま枝先に近づいた時だった、「ん!?」と思ったのは…
細いはずの枝先にぼつぼつしたものがくっついていて、見た目に分かるほど腫れぼったく見える。
かさぶたに覆われているようでもある。
腕を伸ばして枝先を手元に引き寄せてよくよく見ると、赤黒い色のまあるい粒々のようなものが、それこそびっしりすき間のないくらいくっついている。
ナイフを持ち出してきて刃先で軽くこそいでみても、剥がれ落ちるわけでもなくしっかりとくっついている。
今度はしっかりと力を入れてこそいでみると幾つか剥がれ落ちたし、そのうちの一つに刃先を当てて強く押すと中からやや赤っぽい液体が出てきた!
生き物なのか…?
ネットで調べてみると「ルビーロウカイガラムシ」だという。
植物に取りついて樹液などを吸って枯死させてしまう害虫だそうで、身体は赤紫色のロウ物質で覆われていることなどから宝石のルビーになぞらえて命名されたらしいが、まったく似つかわしくない名前ではある。
去年敢えてカツラだけはせん定しなかったため、葉が茂り過ぎて風通しを悪くしてしまい、こうした害虫に付け入るスキを与えてしまったのかもしれない。
カイガラムシ類の駆除は厄介である。
我が家はバラに被害が出て悩まされている最中でもある。
これ以上戦線を広げるわけにはいかない。
幸いまだ冬眠中らしいからチャンスである。
たまたま今日、植木屋が入ることになっていて、庭木のせん定をお願いしてある。
工芸品のような繊細なカツラの枝先を見るにつけ、今年もせん定は止めてもらおうかと思っていたのだが、気が変わった。
この際、取り付かれている枝先はすべて取り除いてもらおう。
切り落としてしまえば後顧の憂いも断てる。
風通しの良い枝ぶりにしてもらおう…そう決めた。
(ルビーロウカイガラムシの写真はネットから拝借)