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平方録

(A+B)+(A+C)+(B+C)=ABC

AとBは古くからの同業ライバルにして仲の良い友人同士。
Cも同業者だが年が七つ下なので同じ土俵に上がったことはないが、Aとは去年亡くなった元知事を介して懇意となり20年近く交流を続けてきた。
BとCとの関係はBが元の勤務先を定年退職した後、縁あってCの会社に勤めるようになり、一時同じ釜のメシを食う中になった。

この三つ巴の関係はしばらく明らかになることはなく、AとB、AとC、BとCはそれぞれ無関係の存在でしかなかった。
それがひょんなことから「なぁ~んだ、彼と仲良しだったの! 」「えっ、仲の良いライバル? 」「そんなところに接点があったんだ! 」などと! 一つの輪になってつながったのはつい最近のことだ。

亡くなった元知事の追悼集をAが専務理事をしている環境財団が出版し、Aから届いた追悼集を読んだBがそこにCのボクが追悼文を寄せているのを見て、3人の関係に気付いてびっくりしたというのが発端である。
円覚寺での坐禅を終えて、隣の東慶寺境内でイワタバコの花芽の付き具合などを確かめているといきなり携帯電話が鳴り、覚えのない番号だなと思いながら出てみるとBがいささか興奮気味にABCに関する〝新発見〟を説明し始めたのだ。

その電話が発端となって3人でメシを食おうということになり、昨日横浜の中華街で落ち合い、たっぷり昼酒の紹興酒を楽しんできた。

縁は異なもの。
まさに思いもよらないつながり具合で、これも元知事の引き合わせ、計らいに違いない、あの人はそもそもこういう偶然やら関係をとても喜んだし、大事にもした人だったから、この場に加わって4人で飲んだらどんなに楽しかったろうと、しんみりもしたが、せっかく頂いた機会は十分楽しませてもらった。

AとBは東京の下町地区を活動拠点にしていた時代、人気の出始めていた寅さんを呼ぼうということになり料理屋で一席設けたら寅さんの渥美清はもちろん、妹のさくら役の倍賞千恵子とさらに山田洋次監督もやって来て大いに盛り上がった話。あるいは、手塚治虫や藤子不二雄、赤塚不二夫らの漫画家が暮らしたアパート・トキワ荘に乗り込んで仲良くなった話など、まだボクらの職業が世の中から一定の尊敬を集めていた〝良き時代〟の思い出話に花が咲いた。

後輩たちも頑張ってはいるのだが、近年どうも活字媒体の旗色は良くない。
自分に都合の悪いことはすべて「フェイクニュースだ。 嘘つき! 」と決めつけて平然としているような指導者がのさばる時代がやって来るとは思いもよらなかった。
肝心の民主主義というものも怪しくなりかけていて、民主主義に「言論の自由」は絶対欠かせないものなのにとほぞをかむ思いだ。

とは言え、老兵たちに出番はない。
ふとパソコンの脇に置いてある一昨日買ってきたばかりの琥珀色の液体の詰まった瓶に目が止まる。
気を落ち着かせるためだよ、ちょっとだけ。舐めるだけさ。
自分に言い聞かせながら小さなショットグラスに7分目くらいまで注ぐ。でも、もうあのトクトクトクの音は聞こえない。
それでも琥珀の液体が舌先にもたらす刺激は十分すぎるくらいだ。
もう夜はすっかり明けていて、「明けない夜なんてないサ」と言うセリフがなんとなく頭に思い浮かぶ。

馴染みの店で3時間

すぐ近くに関帝廟

本通りは休日になると身動きが取れないほどだが、平日はこの程度

意味のない写真だけど店の看板の裏にベンチがあって、主役は足!

こんな路地がたくさん

媽祖廟




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