平成時代の自慰用素材を振り返ると、高校生世代のグラビアアイドルの写真集とイメージビデオへの依存度が圧倒的に高いので、アダルトビデオ(AV)や成人向け漫画について詳しく綴ることができない。AVは学生時代によくお世話になったが、「お菓子系」との邂逅で徐々に性的興味を失い、二〇〇〇年以降に活躍した女優の名前は耳にすることはあるものの、それらの作品を一度も見たことがない。
成人向け漫画は、高校一年の時に同じクラスの男子学生から「ANGEL」の単行本を借りて、その露骨な性描写に激しく興奮したものだが、自分からそれを買おうとは思わなかった。その後も「漫画エロトピア」の掲載作品や「ヤングアニマル」に今でも掲載中の「ふたりエッチ」で性的想像力を働かせたこともあったが、どれも複数回用いるには違和感があり、写真集の箸休めにすぎなかった。
それでも、僕の人生で最初に買った成人コミックのタイトルと内容は、今でもはっきりと覚えている。八八年初版の「いけないエチュード」という作品で、僕はそれを中学二年か三年だった頃に近所の書店で買った。外見が老けていたからなのか、それとも売り上げが欲しいために書店員が売ってくれたのか、三十年以上経った今でもよくわからない。当時は成年コミックの表示がなかったが、大手出版社の単行本と隔てる形でレジ近くに置かれていた。
どの作品も立ち読み防止のポリエチレンで包装されているので、表紙と裏表紙だけで自慰用素材にかなうかどうか判断するしかない。「いけないエチュード」は主人公と思しき少女の水着姿が表紙に、セーラー服姿が裏表紙にそれぞれ描かれていた。性的嗜好は昔も今も変わりはない。同作品は短編六本と長編一本が収録されていて、表題作の長編「潮風のエチュード」の性描写に、中坊の僕は性興奮することしきりだった。
あらすじを簡単に綴ると、歌手デビューが決まった主人公の女子高校生が同じクラブの先輩と海辺の別荘で初体験を済ます。その後、レコード会社か芸能プロダクションに出向くのだが、そこで複数の男たちに輪姦され、ビデオまで撮らされる。万事休すかと思いきや、突然一人の男が現れて彼らの狼藉を収録したテープを渡され、最後は何事もなくデビューを果たすことになる。
まるでケータイ小説のような急展開の御都合主義だが、当時の僕は主人公が浴室で先輩と前戯から性交に至る十ページほどの描写に何とも言えぬ生々しさを感じ、受験勉強と部活動の合間を縫って自慰にいそしんだ。とにかく先輩の前戯がいやらしく、ペニスをしごかせたり、主人公の名を連呼しながら乳房に吸いついたりと、今でも強く印象に残っている。性交のシーンでは、性器のディテールが描けない代わりに陰茎が膣内に挿入される女性の下腹部の断面図が描かれ、読者に性的想像力を喚起させようとする作者の意図が感じ取れた。
版元の司書房は、成人雑誌では名の知れた存在だったようだが、出版不況のあおりを受けてなのか、〇七年に破産。作者のGEN小笠原も「いけないエチュード」以外の発表作が検索できず、同作品ももはや知る人ぞ知る作品としてここに書き留めておきたい。