ヒョジョンとユギョンが校舎から出てくる。
「就職するの?」
「うん」
「チャン・チョルスさんのそばにいるって決めたのね?」
「リゾート施設の広報室で働くの。アルバイトなんだけど」
「リゾート施設? 遠いわね」
「…」
「産休に入る先生がいて、もうすぐ臨時教師を雇うから少し待ちなさいよ」
「ええ、ありがとう」
「あの女さえいなければいいのに。だけど、彼女を捜す人は誰もいないそうよ。捨てられたのね」
ユギョンはため息をついた。
「その方がかえって不安になるわ。そしたら、ずっと彼のところに居座り続けるかもしれない。早く誰か現れて連れて帰ってくれればいいのに」
ビリーはアンナに携帯を届けにやってきた。
「車の中に落ちてたことに気付くのが遅くて」
「いいんです」アンナは言った。「持ってきてくれてありがとう。それじゃ」
家に戻ろうとするアンナをビリーは呼び止めた。
アンナは立ち止まる。
ビリーはアンナの顔色を窺いながら切りだす。
「お礼にジャジャーメンをごちそうしていただけませんか?」
「悪いけど今はないのよ」
ビリーはうなだれ、シュンとなる。
「その代わり」アンナは言った。「安いけど、味は同じのジャージャーラーメンはどう?」
「えっ!」
ビリーの顔は明るんだ。
ビリーを部屋に招きいれ、アンナはジャージャーラーメンを作る支度にかかった。
お湯を鍋で沸かし、少しは慣れた手つきでジャージャーラーメンを作り始める。
アンナに何かを作ってもらうのはビリーにとって初めての経験だった。
ビリーは台所に立つアンナをうっとりと見つめる。
「アンナが…僕のために料理してる。僕のために」
アンナはチョルスに作ってもらったようにジャージャーラーメンを作ろうとしていた。
「同じように作るには玉ねぎを切らないといけないわ」
「僕が切りましょうか?」
ビリーがすぐ反応する。アンナはビリーを見る。
「じゃあ、お願い」
ビリーは喜んで立ち上がる。慣れた手つきで玉ねぎを切り始める。玉ねぎを切りながら時おりアンナの様子をうかがう。そして次第に至福感に包まれた。
「アンナと一緒に料理を作るなんて…これはまさに奇跡だ」
ビリーはアンナとの結婚生活を思い出す。
そういえばアンナにごちそうを作ってあげようとしていた日もあった。だが、それはちっともいい記憶ではない。
「これは何の匂い?」
「アンナ、君のために料理してるんだ。もう少し待って」
「どういうつもり? シェフはどこに行ったの?」
「僕は君のために特別な料理を作ろうと」
「特別な料理のためのシェフよ。あなたは出しゃばらないで」
アンナはピシャリと言った。
「シェフよりおいしい料理を作れるの?」
「それは無理だけど、誠意はこもってる」
「誠意ってどんな味? 甘い? それとも塩辛い? 誠意が入っても味はよくならないわ。いいから、余計なことなどしないで」
ビリーはグスンと目をぬぐった。玉ねぎのガスにやられ、後から後から涙が流れ出た。
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