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雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「アイリス」第14話 感想

 この物語において、ヒーロー、キム・ヒョンジュンとサブヒーロー、チン・サウは、予期せぬ運命に翻弄され続ける者として、ヒロイン、チェ・スンヒをめぐりお互い一歩も引かず、最後まで争奪戦を繰り広げることになる。
 愛国の義に取りつかれたたくさんの登場人物を映し出しながら、国家の命運を分けるような騒乱の中でドラマは展開する。だが、それはあるいは主人公三人を多様に粉飾した図式と考えられなくもない。
 このドラマは見かたによっては、スンヒをはさんでヒョンジュンとサウによるたった三人だけのコップの中の紛争の趣きが感じられて来もする。
 このパートにおいて、チン・サウをNSSに引き入れた郷里の先輩パク・サンヒョンは、純粋で忠誠心の厚いはずの彼の国家への裏切りに対し、今のお前のやっていることは本来の姿ではない、と後悔の思いをこめつつ、批判する。
 だが、チン・サウは耳を貸さない。いや、その振りをする。自分も重々承知した上でのめりこんだ世界だからだ(彼がその先に理想の世界を思い描いているかどうかは不明である。いや、邪魔者を始末してペク・サンとあげる祝杯の場面などにその雰囲気はなかった。彼の表情は重く沈痛なだけだった)。
 上司ペク・サンによって、親友ヒョンジュンを「殺せ」と命じられた時、サウはそれを遂行する方を選んだ。もし、二人の間に、スンヒなる存在がなかったならどうだったであろう。サウは友情を取り、さっさとその仕事から身を引いたのでなかろうか。この物語の底に横たわるテーマに接近する入り口はそこらへんにありそうである。
 人間の身体を組織する細胞の数は60兆ほどあるのだそうである。現在の地球人口は70億人ほど・・・何ともすごい細胞の数だ。そうしてみると、人間一個の命もある意味国家に値するほどの存在でなかろうか。
 人口としては数千万人(韓国)の騒乱の話がこのドラマである。
 この国を一大騒乱に陥れている「IRISーアイリス」とはいったい何なのか。何のためにこの国の転覆を狙う。しかし、サウにとってそんなことはどうでもいいことであったろう。自分の走り続けていく先にスンヒが待っていてくれればそれだけでいいはずだった。
 不幸な境遇に置かれたゆえ幸運にも自由の道を得たヒョンジュンはもちろんだが、サウは優秀な戦士(コマンド)である。ペク・サンはサウをただのコマとして盲従させる手法で使いまわす。途中で死ねばそこで役割を終えていく。そして自らにもその運命を強いている。新しい世界はそのようにして実現するものだとの信念や信仰が60兆個の細胞から生まれ出ている。その決定は重厚なものだが、トータルな個体としての命はじつにもろい。
 実行部隊の指揮官、ヨン・ギウンの上層はかすみがかかっているが、ペク・サンとサウの関係を見ていれば、この「アイリス」の組織がいかなる実体を有しているかは漠然と見えてくる。
 彼らは多くの屍を積むことに何のちゅうちょもないからだ。
 コップの中の三人の物語として眺めてみれば・・・不幸な境遇から一転、自由の道を得て躍動するヒョンジュンの姿は今の韓国の姿を映し出しているように見える。
 窮屈な道を苦々しい顔をしてたどるサウは北朝鮮か。
 謎めいた存在のスンヒにはこの二人を懐に抱かねばならない女王(あるいは女神)の役割があてがわれているかに感じられる。
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