春のワルツ 第3話 「星のない街」
とりあえず、NHKの案内ガイドから。
島ではチョンテの悪い噂が広がっていた。そんなチョンテを懸命にかばうヘスン。しかしその直後、ヘスンが必死に貯めたウニョンの手術代が盗まれてしまう。チョンテの仕業と悟ったヘスンは、チョンテを追ってソウルへと飛んだ……。
その頃、事情を知った島の子供たちによって、スホはひどい嫌がらせを受けていた。身寄りのないスホに、施設に入るよう勧めるヘスンの友、ポンヒ。しかし盗まれたお金の大切さを誰よりも痛感していたスホは、チョンテを探し出す決意をする。小舟で沖へ漕ぎ出そうとするスホ。そんなスホを見つけたウニョンは危険も顧みず、後を追って海に入る。どうにかウニョンを引き上げたスホだったが、二人の乗った小舟はどんどん沖へと流されて……。
一方、ソウルでチョンテを捜し歩くヘスンの身にも、悲劇が訪れようとしていた。
●ニコニコスタンプは「大変よくできました」!
ドラマの中で、幼いウニョンが、スホの腕に書くマーク。第1話でも大人になったウニョンが電車の窓に書いていましたね。これは韓国の学校で、「大変よくできました」という意味で先生が宿題や読書感想文などに押してくれるハンコなんです。昔は★型スタンプがよく使われ、5段階評価で「★★★★★」が最高点。現在では、単純なニコニコ顔よりも、もっとリアルな女の子と男の子の顔のスタンプが主流になっているもようです。
日本だとサクラの形のスタンプに「大変よくできました」と押してもらった記憶がある方もいらっしゃるのでは…?
●桜吹雪はユン監督渾身の場面!
桜、といえば、オープニングで毎回登場する桜並木。桜が舞う中を、幼いスホと父チョンテが線路沿いに歩いています。実はこのシーンが一番最初に撮影されたカットだとか。もともと女子高校生が主人公の物語を想定していたユン監督は、桜の花が綺麗な学校を求めてロケハン(撮影場所を探すこと)をしていたそうです。そのとき見つけたのが韓国南部、プサン(釜山)の近くにあるチネ(鎮海)市にある、この線路沿いの桜。まだストーリーも決まっていない段階だったのですが、桜はすでに散り始めており、その美しさをカメラに収めないのはもったいない!ということで急きょ撮影したそうです。その後ストーリーが決まり、スホとチョンテがふるさとへ帰るシーンとして使われました。ちなみに余談ですが、日本では「春」といえば「桜」。「春のワルツ」だから桜にこだわったのかと思いきや、韓国では「春」のシンボルは黄色いレンギョウの花だそうです。
チョハがアンコールで弾いた曲「愛しのクレメンタイン」に乗って、2話3話は、スホ(チョハ)とウニュンの思い出の旅が描かれた。
目の前を流れる日々の出来事に埋没し、いつしか時の向こうへ追いやられていた懐かしい時間の発露が、列車でザルツブルグに向かう二人の偶然の再会(二人とも現実としてそうは思っていないが、潜在意識をくすぶる何かがそこでは生じていたようである)によってもたらされる。
巧みな演出だ。若手ピアニストとして注目を集め出していたチョハが、このコンサートで「愛しのクレメンタイン」を弾くまで、これまではほとんど心を凍りつかせたまま演奏活動を行ってきていたのを示すものだからだ。チョハに会いたい一心でソウルから取材にやってきたイナに対しても、そのことは言葉で語らせている。
その凍りついた心に火を押しこむ役割(コチュジャンも赤い)として登場したのが韓国の万能味噌コチュジャンであったとは恐れ入る。このコチュジャン騒動がなければ、二人とも心の底に眠る大切な記憶を揺さぶられることはなかったはずである。ウニョンは心の片隅にスホを探し出したい思いを絶えずしのばせているようだが、チョハはそれらをすべて失ったものと思っているようだから彼に流れる現実の時間は、懐かしくも悲しみに彩られた時間をひたすら過去に追いやる役割しか果たしていない。
そんな彼の心を少し活発で世話焼きに見えるウニョンのけっこう大きなミスが刺激しだす。顔や衣服にコチュジャンをかけられることなど、現実をホットに生きている人間なら激怒するところだが、他人とのよけいな折衝を嫌い、自分の時間だけを過ごしていこうとするものにとって、その不快は自分が我慢しさえすれば収まることである。彼はそれを実行しようとするが、この煩わしい出来事は、相手を細かく観察する事態も生じてしまう。汚れた衣服や顔を整えに出向いたチョハは相手に不快感を覚えたもののもとの座席に戻ってくる。この時、彼はウニョンに対する関心を働かせだしていたと思われる。不快感が継続していれば、特別大きな荷物もなかった上に空席もあったようだし、他の席に移ることもできたはずである。それをしなかった。すでに彼の心は彼女への興味として溶け出していたということだ。セーターの差し入れを受けた時、彼の心は少年時代の懐かしさを引っ張り出されていた。もちろん、彼が心をこめ貝殻をプレゼントした女の子の記憶だ。おそらくプレゼントの記憶がこれが唯一なのであろう。
一方ウニョンは、彼があのスホであるとまではむろんたどりつけないが、女の一人旅の心細さも手伝ってか自国の人間かもしれない男には親しみや興味を覚えるようだ。決してあのスホを心から忘れたことはないし、そのせいで恋には晩生かもしれないが、男に対する興味や関心は少しも失っていない。結婚に結びつくようなすてきな男には早く出会いたいとも思っている。そんな積極性を持った女のようだ。彼女は衣服を汚したおわびとしてコンサートのチケットを彼に与える。隣同士で見るカップルチケットだ。関心のない相手にこんなことはしない。彼女も彼にスホと共通する何かを感じ取っていたのかもしれない。
遠い記憶も潜在意識の中から立ち上がりだしたらどんどんスピードを上げてくるはずだが、さてどうなっていくことか・・・。