ビリーは続けた。
「そいつが外で僕のことを言いふらしてるようだ。”妻が死んで全財産を手に入れた”などと」
ヨングはうろたえた。知らない振りを通すしかない。
「パングか・・・名前ではないな」
ビリーは後ろからヨングを見た。
「あだ名かな?」
ヨングは首をブルブル振った。
「パングがどういう人間か調べてくれ。うっとうしいヤツだ」
ビリーはヨングに言いつけて行ってしまった。
その背に向かってヨングは小さな声でわびた。
「私がそのパングです。社長・・・すみません」
チョルスは心当たりの人物に会っていた。
「本当にあの船で仕事を?」
「ええ。船主は海外に住む韓国人で・・・ああ、まったく性格の悪い人でした。金持ちだからかな・・・?」
チョルスは封筒から写真を取り出した。
「それはこの人ですね?」
ジュンソク、ユンソク、クンソクの三人兄弟が学校から帰ってきた。
「ただいまー!」
一人はコンコン咳こんでいる。
テーブルを拭いていたアンナが三人に訊ねる。
「咳がひどいね。具合悪い?」
「風邪引いたみたい。病院に連れていって」
「わかった。行くわよ」
「では、この人には見覚えがないんですか?」
チョルスの質問に相手は写真をとりだした。
「私が働いていたのは・・・この船です」
チョルスは船の写真を手にした。
「この船は・・・似てるけど違いますね」
「大型クルーザーは珍しいですし・・・私が調べてみますよ」
「よろしくお願いします」
写真を返してチョルスは言った。
「兄貴、どうする?」
ドックが訊ねる。
「失踪者センターに行ってみよう」
二人は立ち上がった。ソウルの失踪者捜索センターの窓口に出向いた。
知る限りのデーターと写真を添えて担当者に会った。相手の話を聞いた。
「この方の関係者が・・・積極的に捜してくれないと難しいですね」
「・・・何かあったら、ここにご連絡をお願いします」
チョルスは名刺を渡して言った。
「身寄りのない人を保護してるんですか? でしたら、施設を紹介しましょうか?」
結婚式の記念写真をビリーは見つめた。
「チャン・チョルス・・・」
こいつのせいで思うようにならない。ビリーは苛立ちをぶつけた。
「アンナを捨ててくれ。そうすれば、僕が連れ戻すことが出来る。捨てろ。捨ててくれ」
アンナは風邪を引いた子供たちのことをチョルスに報告する。
「注射を受けて今は寝てるわ。今日は戻らないの?」
チョルスは失踪者捜索センターの玄関口に立っている。
「まだ用があるんだ。明日には戻るから、子供たちを頼んだぞ」
電話は切れた。
子供たちの咳は止まらない。
アンナは子供たちに布団をかけてあげる。額に手をおいて熱を測る。大丈夫だろう、と思って自分の寝床に戻った。
寝入りばなのところでジュンソクがアンナを起こしにきた。
「おばさん、起きて」
アンナは目を開ける。
「どうしたの?」
「グンソクがつらいみたいだ」
アンナは子供部屋に駆けつけた。
子供たちの咳き込みがひどくなっている。
アンナは焦った。
グンソクはうなされている。そばに寄り添った。
「注射を受けて、薬も飲んだのにどうして? 泣かないで。ほら、泣かないで」
アンナはチョルスに電話を入れた。
「熱は何度?」
「わからないよ。どうすればわかるの?」
「引き出しに体温計がある。探してみろ」
アンナはチョルスの部屋に走りこんだ。
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