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長椅子の上に寝床をつくり、チョルスはジャンパーを着込んだまま横になった。腹に毛布をかけ天井をにらんで嘆息した。
「主が追い出された。まったく…どうしてこうなるんだ?」
チョルスは自分の額を小突いた。
「俺が悪いよな、やっぱり…やれやれだ」
頭から毛布をかぶる。
しかしすぐ毛布を押しのける。
「だけど、戻ってくれてよかった」
家を追い出されてもそんなに悪い気分でもなかった。チョルスは自分に言い聞かせた。
「チャン・チョルス、罪滅ぼしだと思え」
そうして眠ろうとするが寝心地の悪そうな寝床にグチも出た。
「まったく…」
チョルスを追い出した部屋で、アンナは感慨に耽っている。
「とにかく・・・ナ・サンシルでなくてよかったわ」
”ナ・サンシル”という名には最初から不快感を覚えていた。自分の名にふさわしくないと思っていたのだ。
「そうよ。私がこんな暮らしをしてたはずはない」
アンナはチョルスの部屋を見回した。
「そして…チャン・チョルスを好きだったはずもない…」
チャン・チョルスは”手がかりは自分しかない”と言っていた。
アンナは戸惑った。チョルスを頭から消してしまうとアンナの頭の中は真っ白になってしまったからだ。
「じゃあ、私は・・・? 私は誰なの・・・?」
「”自分を見捨てた”とアンナは怒るだろうな」
大きな鏡を相手にビリーはまたくよくよと反省を始めている。
「何から何まで、全部、チャンのせいにしてしまうんです」
コン室長が言った。
「ヤツを悪者にしさえすれば生き残る道も開けます」
「そうだな」
ビリーは元気付いた。
「ヤツを憎めば憎むほど僕を許す気持ちも強くなるはずだ」
コン室長は頷く。
その顔を見てビリーは首を振った。
「いや、そう簡単に許してくれるはずがない。それがアンナという女だ…小さなミスにも――どれだけ怒ってきたことか」
ビリーは思い出す。
大画面テレビでのんびり音楽を楽しんでいた時のことだった。
ビリーの名を呼び続けながらアンナは二階からおりてきて叫んだ。
「聞こえないの、ビリーッ!」
ビリーはアンナを振り返った。
「アンナ、どうした?」
「このワイングラス、あなたが置いたの?」
ビリーにつき返してアンナは怒鳴った。
「大事な机が汚れたじゃないの」
「すまない。もう置かないから」
申し訳なさそうにしてるビリーを見て行こうとした時、ソファーを見てまた指摘した。
「シミがついてるじゃない。ソファーも汚れてるじゃない! ここで何食べたの?」
「すまない。もう食べないから」
行きかけてアンナはまた振り返った。
「音量を下げて。プリンセスが嫌がるわ」
「ごめん。わかった。これから気をつけるよ」
アンナは大画面に目をやった。すぐさまリモコンを手にし、テレビを消してしまった。
「気に入らないわ」
そう言ってリモコンを投げた。それが頭に当たってビリーは悲鳴をあげた。
アンナは振り返る。
「痛い?」
ビリーは平気そうな顔になった。
「よけないからよ。のろいったらありゃしない…!」
アンナはつんとして二階へ戻っていった。
「あいつは万事この調子だったのだ。やりたい放題だったくせに一度も謝ったことがない・・・いや、あったな」
ビリーは先日のことを思い出して言った。
「ごめんなさい」
「ありがとう」
「奥様が?」
「ああ、僕に謝ったんだ。アンナは本当に変わった・・・信じられないくらいに変わった・・・」
ビリーから話を聞いてコン室長は感心した表情になった。
「”苦労してこそ成長する”とは的を射た言葉ですね。そんな風に変わったならきっと許してくれますよ」
「そうかな?」
コン室長は太鼓判の顔になった。
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