雨の記号(rain symbol)

 韓国映画「ビューティ-・インサイド」から⑬







 韓国映画「ビューティ-・インサイド」から⑬


 新しいウジンと会った日、横断歩道の信号が青になったのにイスは歩き出そうとしない。
 一緒に合わせて歩こうとしたウジンはイスを見た。しばらくそうしてて訊ねる。
「どうした?」
「何となく…」
 目をつぶったままイスは答える。
「毎日、変わるから———見えなくてもあなたを感じたくて」
「…」
「匂いとか感触とか…」
 目をつぶった顔をウジンに向ける。
 イスの言葉に最初は戸惑ったウジンも笑顔になり、イスの手を取った。
「僕がこんな風に手を取るから…どんな時だって何時だって先に君を見つけるから」
 満ち足りた笑顔を返すイス。




 夜、イスは陣中見舞いでウジンの仕事場を訪れた。
「今日も食事抜きでしょ」
 差し入れを取り出してテーブルに並べる。 
「食べた?」
「飲んだよ」
「…?」
「コーヒーを」
 そう言ってウジンは笑う。冴えない冗談だけどイスは笑って合わせる。
 ずらっと並んだ食べ物にウジンは感心する。
「ちゃんと食べて」
 イスは両手で頬杖をつき、ウジンが食事するのを眺める。
「ほんとに美味い。お袋の味みたいだ」
「でしょ? 料理上手の父が作ったからよ」
「えっ? これは君が」
「詰めたのよ。愛と真心をこめて…です」
「詰めただけ?」
 ウジンは吹き出しそうな顔をする。
「はい、詰めました。思う存分、食べてください」
「でも…なぜ敬語を?」
「…」
「分かったぞ」とウジン。「今日の自分、気を遣わせる顔だろ?」
 イスはセーターで口元を覆って笑う。
「そうでもないけど…少しだけ」

 サンベクからメッセージが入った。それをイスから離れた場所で聞く。

― 最近のお前、仕事が中途半端だぞ。テーブルを作った後、音沙汰なしだ。サンプルも一か月以上遅れてる。デートはほどほどにして性根を据えろ!

 ひとりで考え込んでいるとイスが階段を駆け下りてくる。
「遊び過ぎたかな…」
 毛布を首に巻いたり、コートを着込んだりしながらイスは応じる。
「今日は仕事して。私もたまった洗濯をしたり、掃除をしたり、映画を見たり」
 沈み込んでいたウジンは突然顔を上げる。
「一緒に行く?」
 つまんなさそうだったイスの顔はぱっと華やぐ。
「ほんと?」
「映画しゃなくサンベクの所だけどさ」 

「俺を見たって…中学以来、クラブには行ってないんだ。たぶん、人違いだよ」
 サンベクは知り合いと電話中だった。
 ウジンはドアを開ける。イスを連れて工場の作業場へ入っていく。突然の訪問にサンベクは驚く。
 持参したデザイン画をサンベクに見せる。
「こういう斬新なのを待ってたよ」
 ウジンはイスを気遣ってサンベクに言う。
「コーヒーある?」
「コーヒー?」
「いらないわ」とイス。
「お話は聞いてます」
 サンベクはイスに話しかける。
「本当に髪が長くて色白ですね」
 サンベクの社交辞令にイスは照れ臭そうにする。
「(お調子っぽいけど、楽しそうな人だわ。ウジンさんとはいいコンビかも…)」
 サンベクはウジンに言う。
「今度は床暖房にしたいんだ。年のせいか冷えるんだ。それから」
 サンベクは腕を組む。
「きれいな音のスピーカー第二弾」
 イスは二人に目を向ける。
「いいだろ、ん?」
 ウジンはイスを見た。
「どうだ?(思うことあったら彼に)」
 アイコンタクトに添えて顎を動かす。
 イスは応じる。
「今のブランドは残して━標準仕様のセカンドラインは? そうしたら、アレックスに親しみを感じてもらえる、かと…。ウジンさんにもいいチャンスよね」
「標準仕様のセカンドラインか…」ウジンはサンベクを見る。「いい考えだ」
「そう?」
「クックック」と腹で笑うサンベク。「どちら様? イスさんの意見ならOKなの? まいったね。俺がセカンドラインをいくら提案しても、全然聞く耳持たなかったろ? 何てやつだ、こいつは!」
 サンベクの話にイスは目をパチクリさせた。



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