雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載209)

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   韓国ドラマ「病院船」から(連載209)



「病院船」第19話➡執刀医の不在⑪
★★★


 課長は船長を呼び寄せて頼みこんだ。
「船長頼むよ。会ってやってくれ」
「会う必要はないと思います」
 船長は冷たい応接を見せる。
「でも、知事に会うため、夜通し待ってたでしょうが…はっははは…」
「知事はお忙しいようだ」
 船長は顎をしゃくる。課長の背後から段ボールをかかえた一団がやってくる。
 彼らが知事の部屋に消えた後、課長はドアに耳を押し当てた。
「収賄罪…? 私は公職に身をささげてきた高潔な人間だ」
 やってきた一団に対し、知事は大きな声でシラを切っているようだった。
 課長はへらへら笑いながら船長のもとにやってきた。船長の手を取った。
「離してください」
 船長は冷たく言い放った。
 外に出て来た船長は道庁を振り返った。ガッツポーズを取った。
「きっちり返してやったぜ。すっきりだ」






 病院船のパク・ソヌ船長は道庁の外に出てきた。
 両手拳でガッツポーズをとった。
 病院船は運航の再開が決まったらしい。


★★★


 ゴウンは麻酔から覚めた。
「気が付きましたか」
 ベッドのそばについていたのは事務長だった。
 ゴウンは事務長を見た。
「病院船は…どうなりました?」
「一緒に行きましょう」
「どこへ?」
「病院船を救いにです」
 ゴウンは力なく言った。
「行けませんよ。私は入院しないと」
「入院だなんて…肝が大きいんだから、すぐ起きられるでしょ」
「何ですっ―ああ~あっ!」
 ゴウンは顔を歪める。
「ああ、やっぱり、まだ~!」
 事務長はため息をつく。真顔になった。
「冗談です…解決しました。道庁から連絡があって、病院船を明日にも再開すると」
 ゴウンは事務長を見た。
「よかった。それで、事務長は何をやったんですか。病院船の再開に何か役立ちました?」
 事務長はゴウンから目をそらした。うな垂れた。
「何もしてないでしょ」
 ボソボソと弁解した。
「ソンヒの看病で忙しくて…」
「それでも病院船は再開できたのね」
「ええ。みんなのおかげです」
「これで事務長も…奥さんとやり直せますね」
 ゴウンの口調はどこか力がない。同志を1人失ったように寂しげだ。
 事務長は黙ってゴウンの言葉を胸に収めた。
「病院船のみんなは立派に役目を果たせるから、事務長がひとり頑張って病院船を守る必要はない。これからは家族を守ってください」
「ゴウンさん…」
 ゴウンを見つめる事務長の目は潤んだ。
 ゴウンは小さく頷いた。




 病院船が朝日を浴びて久しぶりに出航した。海鳥が鳴きながらその上を舞った。
「病院船がやってきた。何日ぶりだ」
 医師や看護師たちの姿を見て島の人たちは歓喜した。島の人から人にそれはたちまち知れ渡った。
「病院船が来たわ。ほら、あれよ」
「ようやくまた診てもらえるわね」
「何だ…? あの人たちを見てみろ」と船長。「大勢で押し寄せてくる」
 島の人たちは声をかけあって遠足でもするように連れだって病院船へやって来る。
 ふだん笑わない甲板長も白い歯を覗かせた。
「他の島からもやって来てるようです」
 そして船の待合室は馴染みの患者たちでいっぱいになった。




「病院船…病院船、応答願います」
 無線連絡が入った。 
「はい、私です」と船長。
「登山道で転落事故発生」
「えっ、何ですって!」
「出動してください」
「了解です」
 船長は急いで船内用のマイクを握る。
「緊急の患者が発生しました。急患発生です。出動の態勢を取ってください」
 
 
「ユンジョン、しっかりしろ。目を開けてくれ」
 若い男が連れの女に必死に声をかける。しかし、路面に倒れこんだ女は何の反応も見せない。



 そこにウンジェたちが車に乗って駆けつけてきた。
 車から飛び降りたウンジェは顔を顰めた。両手で脚の膝を押さえた。
「大丈夫ですか?」とアリム。
「大丈夫」
 ウンジェは顔をしかめたまま手をあげる。
「先生、あそこです」
 とアリム。
 ウンジェらは道路から斜面を下った。負傷者のもとにたどり着く。
「ユンジョン、しっかりしろ」
「診せてください」
 ウンジェは駆け寄って男に言った。男は横に退く。 
 ウンジェはペンライトで負傷者の瞳孔をチェックする。
「患者さん、聞こえますか?」とアリム。
 ウンジェは聴診器を取り出した。胸に当てていく。
「血圧は?」
「75の50」
「緊張性気胸よ。針を」
 アリムが医療具をセットする。ウンジェはすばやく針を握る。


 海上警察も高速艇を飛ばして現場に向かう。


 ウンジェは他にも何かあると見て、負傷者のズボンをハサミで切った。足元を見た。
 膨らんだ足元を見て連れの男は驚く。
「何だ! ひどく腫れてる。骨折では?」
「患者さん」
 ウンジェは声をかけた。
「患者さん!」
 ウンジェは足元を手で押さえて訊ねた。
「ここ、感覚ありますか?」
 患者はかすかに首を横に振る。
「いったい、何ですか? どうしたんです」
 連れの男は不安そうにした。
 ウンジェは答えた。
「麻痺してるんです」
「麻痺って…もう歩けないのですか?」
「一時的なものでしょう」
「何でそんなことに」
「急性コンパートメント症候群です。落下の衝撃で筋肉に血がたまったんです」
 連れの男は嘆息する。
 ウンジェは言った。
「病院船に搬送します」
 スタッフは負傷者を担架に乗せ、斜面を上った。
 

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