ファンタスティック・カップル 第9話(5)
チョルスファミリーが食事を続ける中、ビリーはかたつむりのように少しずつターゲットににじり寄っている。
「ナさんは英語が話せるんでしょう?」
ケジュが話している。
「すごいじゃない」
「・・・」
「そうだ。あのホテルに知り合いがいるの。働き口がないか聞いてあげようか?」
「この性格じゃ無理ですよ。どこに雇う人がいるっていうんです」
チョルスが口をはさむ。
「そうよ」アンナが同調する。「私は性格が悪くて無理よ。性格のいいあんたが稼いで」
「お金を稼ぐのは大変よ」とケジュ。「奥さんが死んで・・・億万長者になった人もいるのにさ」
「誰が?」とドック。
「あのホテルの社長よ」
とケジュ。アンナを見て続ける。
「金持ちの妻が死んで、全財産は社長のものになった。ついてるじゃないの」
言ってしまってからケジュは反省する。
「あら、パングに口止めされてたのについしゃべっちゃった。別に知り合いがいるわけじゃなし、構わないか」
と笑う。
「そんな言い方はひど過ぎるよ」とドック。
「分からないわよ」とアンナ。「その男が女を殺したかもしれない。どんなやつか気になるわ」
そのすぐそばでビリーのかたつむり活動はたゆまず続く。
コン室長はビリーがいないのを気にかけ、捜し回っていた。
「ここにもいない。どこへ行ったんだろう?」
携帯を取り出す。つながるかどうか心配だが、これしか連絡の取りようはない。
盥にかくれているビリーの携帯が鳴る。
カンジャだけが鳴った携帯に反応を見せて振り返る。しかし人の姿はない。
盥の中に身を潜めているビリーはつぶやく。
「写真だけは取り戻し、何とかここを脱出しよう。そうでないといつかバレてしまう」
バッグはもうすぐそばにある。
ビリーは盥を押し上げる。バッグにそっと手を伸ばした。手指に引っ掛け中に引き込んだ――のも束の間、次の瞬間、それを強引に引き戻した者がいる。
カンジャだった。引き戻したバッグを握り、盥の中のビリーに話しかける。
「かくれんぼしてるの?」
「・・・」
「一緒にやろう」
カンジャは立ち上がって逃げていった。
ビリーはため息をつく。バッグは取り返されたが、写真は抜き取るのに成功した。
ビリーのそばから逃げたカンジャは犬小屋の陰に身をかくそうとする。喜んではしゃぐ犬をカンジャは必死になだめる。
「お願い、静かにして。静かに」
ファミリーの食事はすみ、後片付けが始まる。アンナは子供らを上手に手伝わせる。
「二人はこれを持って。いくわよみんな、気をつけて」
ドックがチョルスに言う。
「子供たちと仲いいんだな。彼女が帰ったら、寂しがるんじゃないか」
「すぐ忘れるだろう。大丈夫さ」
「兄貴は?」
「俺? 俺は大丈夫さ。早く見つけて帰ってほしいくらいだ」
「じゃあ、それを全部話せば?」
「帰るところがないだろうが」
「・・・」
「記憶が戻るまで・・・行くあてが見つかるまでは優しいままでいてと言われては、追い出せないよ」
ビリーは二人の話に耳をすませていた。
「アンナが・・・? 追い出せない、だと・・・!」
計算の狂いで、ビリーの顔は歪んだ。
「帰ろう」ケジュの声。「寒いから送らなくていいよ」
ケジュたちは帰っていくようだ。
チョルスたちは彼女らを表まで送って出る。
「また一緒に食事しよう」
「ああ、じゃあな」
「気をつけて」
「お休みなさい」
「また明日」
「ドック、明日早く来いよ」
「さあ、中に入ろう」
チョルスたちも家に引っ込み。表の明かりが消える。
ビリーは盥ごと立ち上がり、亀のようにひっくり返って外に出た。
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