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雨の記号(rain symbol)

「朱蒙」から 召西奴から読み解く女心

 このドラマは国の興亡をめぐって男たちの野望がぶつかりあう戦国歴史絵巻だが、歴史の推移に従属して扱われがちな女たちもストレートに歴史に関与していこうとの特徴を有している。登場する主だった女たちはすべてその姿勢を崩さない。代表格の召西奴は男顔負けの武術者であり、何事も自ら陣頭指揮にあたり、裏でこそこそ男を操ろうとするような陰湿性はあまり感じられない(王妃とソルランにその傾向はあるが、嫌われ役だから、ドラマを盛り上げる割り振りとしてやむを得ない)。
 二千年以上前の朱蒙と召西奴の恋愛に我々が違和感を覚えず入っていけるのも、召西奴のストレートで意志の強いキャラ設定に因っていると思われる。
 朱蒙と召西奴の恋は半ば悲劇、半ばハッピーエンドなのだが、一国の興亡をめぐって最後まで朱蒙と張り合う帯素は、恋でも朱蒙と召西奴のめぐって争うことになる。前半部最大の彩りといっていいだろう。
 朱蒙、帯素とも召西奴の美貌と女らしからぬ強さに一目ぼれという意味では似たような経緯を取る。だが、朱蒙が時間の経過とともに召西奴の置かれた立場や考えを尊重していくような男へと変貌していくのに対し、誇り(自負心)が人一倍強いらしい帯素は、男としての硬直した考えが抜けず、自分の母親(王妃)からも、どんな立場であれ、お前の妃となる女性は大事にしておやり、と諭されるほど自己本位、男本位な考えの持ち主である。
 頭がよく、女としての幸せがどんなものかもわかっている召西奴が朱蒙と帯素のそんな違いをわからぬはずもなかった。
「俺は夫余のワンジャ(王子)だ。お前が気に入った」
 と言われた時はその未熟さに呆れて相手にもしなかったが、召西奴は朱蒙と触れるにつれ、人間的成長や大望の大きさにどんどん傾斜していくようになる。
 そしていつしか、どんなつらい立場にあろうと、あの人を自分の手でもっと大きな舞台で活躍させてあげたい、との気持ちを抱かせるまでになる。
 クムワ王の護衛長官として、朱蒙が漢(ハンナラ)との戦争に入っていこうとしていた時、すでに二人の恋は成熟を見せ始めていたのである。
 この戦争で夫余を勝利に導くが、朱蒙は父ヘモスに従った者たちへの義で敵を深追いし、帯素の策謀もあって行方知れずの憂き目に遭う。これを知らされた召西奴は捜索に手をつくすが、朱蒙はとうとう見つからず、出てきた結論は、死んだであろう、ということだった。
 落胆した召西奴は朱蒙を失った悲しみで三日三晩泣き明かす。
 そんな召西奴の心中などまったく思いやらず、ここぞとばかり帯素は彼女を口説きにかかる。事情で敵方から正室を迎えることにはなったが、自分の気持ちはお前にある、とはまったく虫のいい発想である(王が女を側室に迎えようとして取った手法は、地盤強化をのぞけばほとんどそのやり方か、手篭め同様であったろうが、これをそのまま踏襲してはドラマにならない)。
 そんな言葉が召西奴に通じるはずもない。
 このままでは無理やり宮廷に引っ張っていかれると感じた召西奴はウテとの婚姻に踏み切る。自分の愛した者と沿い遂げられないなら、自分を思ってくれる者と一緒になろう。それが召西奴の決断だった。気付かない振りをしていても、召西奴はウテの気持ちには気付いていたということだ。気付いてはいたが、朱蒙を優先して愛したということなのである。
 召西奴の気持ちをひたすら思いやっていたウテに比べると、帯素の取った行為は彼女の心の傷口に塩を擦り付けるようなものだった。
 側室の話を召西奴に拒まれ、腹の虫のおさまらぬ帯素は、言いがかりをつけてヨンタバルを引っ立ててこさせ牢にぶち込む。父を助けるため、召西奴は出向いて帯素の前にひれ伏して自分のかわりに父を助けてくれるよう懇願する。自らを犠牲にする覚悟があったとはいえ、帯素の心を動かせると踏んでの召西奴の行動だった。
 ソルランはそんな召西奴を、噂で聞いたよりも愚かな女、と評したが、真意がどこにあっての発言かはわからない。あるいは、あなた、この女にそこまでバカにされていいのですか、と帯素に対して言いたかったようにも見えたが・・・。
 いずれにしろ、自分がダメだしをした相手にならどんな行動でも起こすことができる、のが女なのだと召西奴は証明したように思えてきたりする。
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