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韓国ドラマ「病院船」から(連載199)

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  韓国ドラマ「病院船」から(連載199)




「病院船」第19話➡執刀医の不在⓵




★★★


 ウンジェは手術衣を着た。ウンジェの信念は揺らがなかった。術後に噴き出す諸問題を脳内から払拭し、目の前の患者を助けると決意していた。
 手術着の上に白衣をまとったウンジェは院長室のドアを叩いた。院長の前に立った。
 院長のキム・スグォンは驚いた。
「その恰好は何のマネだ」
「外科医が手術衣を着たらいけませんか?」
「君…!」
「執刀させてください。キム・ソンヒさんを―救いたいんです」
 キム・スグォンは困惑した。
 そこに後ろから声がかかった。
「そうはさせない」
 入って来たのはドゥソングループ会長のチャン・テジョンだった。
 キム・スグォンはすぐさま立ち上がる。
「君に貸す手術台は第一病院にはない」
 チャン会長はそう言ってキム・スグォンを見た。
「そうだろう? 院長」
 キム・スグォンは返事に詰まった。
 ウンジェもキム・スグォンを見た。
「このままでは患者が命を落とします」
 チャン会長は冷淡に言い放った。
「患者を転院させるんだ」
「患者を救いたいんです、キム院長」
「…」
「我々が約束した支援を打ち切ってもいいのか、キム院長?」
 決断を迫られ、キム・スグォンは苦渋の顔を浮かべた。


★★★


 ヒョンやジェゴル、看護師など、病院船スタッフは、島の患者を連れて巨済第一病院に到着した。
 先におりたヒョンはジェゴルを見た。
「救急室に行く」
「分かった。後で。行こう」
 ジェゴルはジュニョンらを促し病院に駆け込む。2台目の車から患者とアリムが降りてくる。
「アリムさんも先に行って」とヒョン。
「でも患者さんが」
「ここはいい。行って。ゴウンさんが心配だろ」
「ええ」アリムは頷く。「ではお願いします」
 病院内に駆け込んでいく。
 ヒョンは患者の身体を支えて言った。
「行きましょう。歩けますか? ゆっくり歩きましょう」
 患者をベッドに寝かしつけたところに巨済病院の医師がやってきた。島でネット回線を通じてやりとりした医師だった。
「どうも。内科長のキム・テホです」
 手を差し出してくる。
 ヒョンは握手を受けて言った。
「患者を頼みます」
 キム医師は患者を見た。
「この方ですね。気の毒に」
 看護師に指示を出す。
「この方に血液検査と胸部X線を頼む」




 患者の引継ぎを終えてヒョンは事務長を捜してやってきた。
 事務長は長いすの横で床に座り込んでいる。
 ヒョンは歩みより、うな垂れている事務長の手を握った。事務長は顔を上げる。ヒョンの手を黙って受け入れる。




 アリムは手術に臨むゴウンに寄り添った。
 ジェゴルや看護師らも沈んだ顔を並べている。
「事務長はどこにいるんですか?」
「…救急室よ」
「なぜ?」とジェゴル。
「なぜって…家族だから家族に付き添ってるのよ」
「そうじゃなくて―なぜ早く集中治療室に移さないんですか?」
 ゴウンは答えた。
「…転院させるかもしれないの」




 ヒョンは事務長に訊ねた。
「どうして転院を?」
「手術できる医者がいない」
「ソン先生がいるじゃないですか」
「知らないのか?」
 事務長はヒョンを見あげた。
「ソン先生は今日付けで病院を解雇された」
「…!」
 事務長はため息をついた。
「ソン先生は今どこに?」
「最後の訴えをすると院長室へ…」
「最後の訴えですか?」




 この病院で移植手術をさせるのか―それともよその病院に転院させるのか―。
 ソン・ウンジェの手術の決定要望とドゥソングループ・チャン会長による転院指示の狭間で、キム・スグォンの心は揺れ続けた。そして時間は流れた。
 チャン会長はソファに腰をおろした。
 ウンジェとキム・スグォンは立ったまま動かない。
「座ってください」
 チャン会長は言った。
「ソン先生を追い出して2人で話そう」 
 チャン会長に話しかけられる度、キム・スグォンの顔は歪みと苦悩を深めていく。彼にとってチャン会長の言葉は常に威圧的だった。
 彼はいきなりドア口に向かって歩き出す。ドアの取っ手を握ると勢いよく後ろ手で閉めて姿を消した。




 カン・ドンジュンとミョン・セジュンが事の成り行きを心配し、廊下で様子を窺っていた。
 キム院長が1人部屋を出て歩き去ったのを見て2人は顔を見合わせた。ありえない展開となったからだ。
「手術どうするつもりなんだ? やらないつもりなのか?」
 カン・ドンジュンは言った。
「手術を許して、病院を廃業しろとでも言いたいのか?」
「手術をしなければ患者は死ぬんですよ」
「本当に無理か?」
「何がです?」
「手術ですよ。ミョン先生が手術しては?」
「…すみません」
 ドンジュンはミョン・セジュンを見た。
「まったくもどかしいね。目の前に外科医がいるっていうのに…」
 呆れたようにして歩き出す。
「どこへ行くんです?」
「院長の所へ…」
「説得を?」
「わからないよ」
 ミョン・セジュンは頭を掻きむしった。
「何か手はないのか…!」

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