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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(109)
クムスンたちは料亭から出てきた。
「仕事の戻れ。身体をいたわりながらな」
「はい。教育を受けて少し練習したら帰ります。食事、おいしかったです」
手術の件で義父の了解を取りつけ、クムスンの気持ちは晴れ晴れしていた。
二人は料亭の前で別れた。
ジョンシムはシワンがした話を疑っていた。ソンランは結局帰って来ず、外泊したんじゃないかと疑っていた。
「このまま放ってはおけないんだけど・・・本当のところは分からない。シワンは何をしたんだろう・・・」
考えこんでいるところに電話が鳴った。
「俺だ。何してる?」
「掃除中よ。あなたは何を? 出て来いって? 暑いのにどうしてよ」
「涼しい映画館でデートでもしよう。嬉しいくせに何言ってる――券を買っとくからな」
「分かったわ――支度があるからそんなに早くは行けない。ええ、だったらいいわ」
シワンはソンランの会社にやってきた。電話が通じないから仕方なかった。
ソンランは仕事で忙しくしていた。部下がシワンに気付いた。ソンランは顔を上げた。
ソンランは部下に指示を出して席を外した。
二人は屋上に上がった。前を歩いていたシワンは振り返った。
「なぜ、外泊したんだ?」
ソンランはシワンを睨み返した。
シワンは返事を促す。
ソンランは黙っている。
「確かに俺が悪かった。大きな過ちだったと思う。だからって家族での生活だ。無断外泊はないだろ。電話だって通じない。どうしてだ?」
「・・・」
「何とか言え。義父母がいるんだぞ」
「怒る権利がある? あなたは親を思うあまり――私がバツイチ子持ちなのを隠したわけ? これじゃ私の結婚詐欺よ。分かってる?」
「・・・」
「あなたがこんなやり方取るとは想像もしなかったわ。善意の嘘じゃなく、ただの卑劣な方便よ」
「だから、どうしろと? 過ぎてしまったことだし、謝ってるだろ。悪かったよ。このとおりだ」
「・・・」
「こんなに謝ってるだろ。許してくれ」
「・・・」
「人間なら誰だって過ちを犯すじゃないか。許す素振りくらい見せてくれてもいいだろ」
今のソンランにはシワンの言葉がすべて空々しく感じられる。
「離婚しましょ」
「何?」
「離婚しましょう。こんな詐欺みたいな生活続けていけるはずないわ」
「本気で言ってるのか?」
ソンランは唇を噛む。
「離婚だなんて・・・そんな簡単に?」
「そう言うと思ったわ。離婚話が意外でしょ」
「・・・」
「1度も2度も同じだから私には簡単なことよ」
「いい加減にしろ」シワンは声を張り上げた。「ふざけるんじゃない。離婚歴がそんなに自慢なのか」
「何ですって?」
シワンは額に手をやった。言い過ぎたと感じた。
「なあ、教えてくれよ。どうすれば怒りが治まるんだ」
「・・・」
「土下座でもするか? それですむなら土下座だってする」
「何をしてもムダよ。問題の解決にはならない。もう取り返しがつかないし、私は受け入れられない。離婚できなかったら――これを認めざるをえないのが腹立つのよ」
「本当に俺が悪かったよ。ほんとに悪かった。許してくれ」
「もう聞きたくない。行って」
「ソンラン・・・!」
「顔も見たくないからもう帰って」
「・・・」
「私は――あなたは違うと思った。あなただけはね。再び愛や結婚に進ませてくれて――幸せや希望を与えてくれた人だから、ほんとに信じてた」
「お前を愛してたからだ」
「やめて。前の夫も私を束縛しながら――愛してると言ってた」
「ソンラン!」
「なぜ、腹を立てるの? どれだけ辛いか、私の気持ちが分かる?」
「帰って。会いたくないからここにも来ないで」
ソンランは事務所へ戻っていった。
事務所に戻ったソンランは、少しの妥協も出来ず、ムキになり過ぎてる自分にも苛立ちを覚えた。
外に出たシワンは上着を足元に投げつけた。ソンランと両親の価値観の板ばさみで、収拾の方法も妥協点も見いだせない自分に嫌悪さえ覚えていた。
「カットをする時は親指だけを動かすの」
クムスンは他のスタッフとともにユン室長からカットのやり方を学んでいる。
「じゃないと指を切っちゃうから。よく見て――こうして親指だけを。すぐには無理よ。しっかり努力を続けて。それと、ハサミを持つ腕はダイヤの形よ。肩の力を抜いて、ひじは適度に。じゃあ、やってみて」
ユン室長はクムスンの手を取った。
「角度はこうよ・・・肩の力を抜いてひじを上げすぎない」
前方からキジョンが歩いてくる。ジェヒは立ち止まる。
キジョンもジェヒに気付いて足を止める。
ジェヒはぎこちなく頭をさげる。キジョンは黙って傍らを通り過ぎた。
「聞きました?」
研修医が切り出した。
「チャン先生夫婦は問題があるのだとか・・・奥様が先生を病室に入れないんですって。奥様の手術は中止も同然ですしね」
ジェヒはクールに言い放つ。
「他人の噂話はやめろ」
「他人じゃなく先生の・・・」
ジェヒは足を止めた。
「俺は先生の息子かよ」
「すみません」
ジョムスンは赤いリュックを背負い、1人で出かけた。
向かったのはヨンオクの入院する病院である。
ヨンオクは窓の外をうかがうように座っていた。
ヨンオクはやってきたジョムスンを見て驚いた。
「お義母さん・・・」
座っていた丸椅子をベッドの前に転がした。
「かけて下さい」
「あなたも座って」
ヨンオクは黙ってベッドの縁に腰をおろす。
「クムスンがあなたに手術を受けろって? そうでしょ」
「・・・」
「嬉しかったかい? 命拾いしたわね」
「違います。なぜ、そんな言い方を」
「・・・」
「絶対に手術を受けません。それなら死にます。そんなことはしません。なるべく早く退院できるよう準備をしています。飛行機に乗る体力をつけてますし。ですからご心配なく。どんなにおそくなっても次の月曜日には発ちます」
「・・・あなたってひどい運命だけど――男運だけには恵まれてるね。今の旦那さんもだ。まったく・・・息子を殺しただけでなく――孫の腎臓まで奪うの?」
「お義母さん、やめて」
「黙りなさい。私は――”お義母さん”と聞くと怒りがこみ上げる。黙って話を聞きなさい。いいね。どんな気持ちで来たか、少しでも分かるなら――静かに聞きなさい」
「クムスンが・・・あなたが捨てた赤ん坊のクムスンが――あなたを救いたいって」
「・・・」
「一応、産みの母だから死なせたらつらいんだとさ。だから腎臓を取ってあげることになっても――あなたを助けるらしい」
「お義母さん・・・」
「黙ってなさい」
「・・・」
「だから・・・だから、黙って――手術に応じなさい。ゴチャゴチャ理屈を言ってクムスンを困らせず――応じるの。どうせ22年前――赤ん坊を見捨てた時に人間じゃないのよ。良心なんか気にせず、腎臓をもらえばいい。分かる?」
ヨンオクは悲痛な顔で首を横に振る。
「人でなしだから平気だろ」
今にも泣き出しそうなヨンオクを諭すように言う。
「いいね」
ヨンオクは顔を震わせる。
「人でなしだもの――我が子の腎臓を奪って生き延びなさい。生き延びて死ぬほど辛い人生を過ごしなさい。いいね。捨てた子の腎臓を奪った母親として――余生を満喫できるならしてみなさい」
「お義母さん・・・」
ヨンオクは泣き出す。
「何よ。なぜ泣くんだ。まだ涙が残ってたの? 芝居はやめなさい。子に先立たれた親の気持ちが分かる? その辛さから当り散らしただけで――赤ん坊を捨てて出てった嫁を待ってた。骨身に染みるほど苦しみながらね。私は100日間も門を開けてたわ。あなたが戻ってくるかと。クムスンを両親のいない子にしてはダメだから、あなたの実家の門をどれだけ叩いたか」
「お義母さん――そのとき私は病院にいました」
「聞きたくない。どこで何をしてても関係ないし――どうでもいい。私が知ってるのはすぐ米国に行って――数年後に再婚したという事実だけなんだよ」
ヨンオクは泣き続ける。
「自分の口が汚れるからこんな話はしないわ。もう、たくさん――もう、たくさんだから応じなさい。良心などうんぬんせず――クムスンのために手術を受けて、生きるの。生きて――死人同然の人生をあなたも味わいなさい」
席を立ち、行こうとするジョムスンの腕をヨンオクはつかむ。悲痛な声で訴えた。
「お義母さん、無理です。死ぬことは出来ますが、それは出来ません」
「そうかい。だったら死になさい。ここで舌を噛んで死になさい。それはクムスンに消えない傷を残すのよ。そうしたら、一生クムスンを苦しませることになるわね。死んだはずの母親が現れ、腎臓を要求した末にね――自殺してみなさい。か弱い心のクムスンは――苦しみに耐えて生きられるわけない」
「・・・」
「まったく、うんざりさせる人だ、この人は・・・!」
ジョムスンは背を返した。精根尽き果てた足取りで病室を出ていった。
床に伏してヨンオクは泣き続けた。
病室を出たジョムスンは廊下の取っ手につかまりながらゆるゆると歩いた。
ジェヒが彼女を見かけて駆け寄った。
「おばあちゃん、大丈夫ですか?」
「あらっ」
ジョムスンの顔に生気が戻った。
「覚えてますか? この前、ロビーで」
「ええ、覚えてるわ。ハンサムな先生ね」
「どこか具合でも?」
「いいえ。身体は大丈夫だけど、力がなくてね」
「では、つかまって」
「申し訳ないわね。腕も借りて何てありがたいことか。せっかくだから、1階まで連れてって。エレベーターで上がってきたんだけど、どこがどこだかわからなくて」
「はい。私が案内します。歩けます」
「歩くのは大丈夫よ。じゃあ、頼むわね」
ジェヒはジョムスンを1階まで連れていった。
「出口まで案内しますよ」
「いいえ。大丈夫だから戻って。どうもありがとうね」
ジョムスンはホクホクした顔でジェヒに手を振った。
ひとしきり泣きじゃくった後、ヨンオクはやっとのことで身体を起こした。
「しっかりしないとダメだわ」
胸を押さえた。
「落ち着いて・・・」
携帯を手にした。
ドアが鳴った。入ってきたのは若い医師だった。
「透析の時間です」
「分かってる。電話してから行くわ。終わったら行くから先に行ってて」
連絡にきた医師は引き下がった。
ヨンオクは電話をかけた。
「航空会社で? 明日の東京行きで――最も早いのは何時の飛行機ですか?」
ジョムスンは帰りに買い物で店に寄った。
「牛のすねとももの骨を上質のもので1つずつ」
「はい、分かりました」
「栄養のつまったいいものにしてよ。手術を受ける患者にスープを作るの」
クマはテワンと待ち合わせした。クマの方が遅れた。
「怒った? ごめんなさい。急に呼び出しがあって」
「眠かっただけだ。行こう」
「連絡できなくてごめんなさい。入社早々忙しくて」
「金をもらうんだ。忙しくて当然だろ」
クマは先に歩き出そうとするテワンの手を取った。
ピルトとジョンシムはカフェラウンジでくつろいだ。
周囲は若い者たちばかりだ。ジョンシムが言った。
「映画館の近くだから若者ばかりで恥ずかしいわ。1時間もあるから夕食をすませればよかった」
「映画を見た後、食べよう」
「そうね」ジョンシムはピルトを見た。「何か話があるんでしょ」
「何?」
「さっきから私の顔色をうかがってるし――映画を一緒に見ようなんて珍しいもの。また頼みごと?」
「さすがに鋭いヤツだな」
「今頃分かった? 話してみて」
「映画を見てからだ」
「話が出たついでよ。何なの? 時間もあるでしょ。気になるわ」
「・・・」
「映画見るのに支障でも?」
ピルトはアイスコーヒーをストローでかきまわし続けている。
「シワンの話? まさか、本当に浮気を?」
「そんな話じゃないよ」
「なら、何よ。早く話して」
ピルトは一瞬難しい顔になる。
「あのな・・・クムスンが――移植に応じたいそうだ」
「それで?」
「実はな――昼間、一緒に病院に行って――医者に会った。腎臓は1つでも平気だそうだ。だから、移植について俺は許可を出した」
「何ですって?」
「お前も許してやってくれ」
「あなた、どうかしちゃった? 尋常じゃないわ」
ジョンシムの大きな声に周囲の視線が二人に注いだ。
ピルトはあたりに目をやった。ジョンシムをなだめようとする。ジョンシムの大きな声は続く。
「どう考えても変よ」
「落ち着いてくれ」
「フィソンのことを少しは考えた? 私に何の相談もなく、よくもそんな決断を」
「・・・」
「実の娘だとしても許したと思う?」
「・・・」
「とても理解できない」
ジョンシムはカバンを握った。席を立った。
ピルトはあわててジョンシムを追いかけた。
「ちょっと待て」
仕事を終え、車のところに向かいながらジェヒは携帯を取り出した。車に乗り込んで電話をかけた。
「もしもし俺だ。どこ?」
「美容院です」
クムスンは店に残ってカットの練習を続けていた。
「いいえ。1人ですけど」
「分かった。今から行く」
「先生、今日は・・・」
「切るからな」
携帯を切ってジェヒは美容院に向かった。
ウンジュはミジャの家に駆けつけていた。
「休みの日まで呼びつけて悪いわね。明朝の会議には出られなさそうだから、これが資料よ」
ウンジュは資料を受け取った。
「ご心配なく。体調が?」
「風邪で体中が痛いし、熱があるみたいなの」
「なら、横になってみて」
ウンジュは立ち上がり、ミジャの腕を取った。
「まあ。熱いですよ。熱が高いのでは?」
「そうかも・・・全身をなぐられてるかのよう」
ウンジュはミジャを助け起こした。
「早く部屋で休んでください」
他のスタッフより遅れている。クムスンは夢中でカットの練習を続けた。
そこにジェヒがやってきた。クムスンはそれに気付かない。
ジェヒは彼女に温かな眼差しを注いだ。
この時、クムスンはハサミで手を切ってしまった。ユン室長が注意を促していた怪我だった。
クムスンは顔をしかめ、怪我して指に口を当てた。
ジェヒはクムスンのもとに駆け寄った。クムスンの手を取った。ポケットからハンカチを出して血を拭おうとする。
「大丈夫です」
引っ込めようとするクムスンの手をジェヒはしっかり握った。ハンカチで血を拭った。
「汚いから吸うな」
「・・・貧血気味だから惜しくて」
「・・・」
「少し切っただけですよ」
「じっとしてろ。止血しなきゃダメだ」
「・・・」
二人は見つめあった。
「離してくださいって。大丈夫ですから」
ジェヒは手を離さない。
「ダメだ。止血はちゃんとしなきゃ」
「・・・」
「顔が赤いぞ」
クムスンは強引に自分の手を引っこ抜こうとする。
「もう大丈夫ですから」
しかし、ジェヒは手を離さない。
「話がある」
クムスンはジェヒをマジマジと見た。
「おっ! 本当に顔が真っ赤だ」
「・・・」
「おばあさんが病院に来てたぞ」
「本当に?」
「おお」
「なぜかしら・・・理由を知りません?」
「知らないけど・・・」
クムスンの携帯が鳴った。
「電話です・・・」
「薬を探すから電話に出ろ」
ジェヒはクムスンの手を離した。
「もしもしお兄さん・・・美容院です。ええ、教育でした。いいえ、終わりました」
「近くだから行くよ」
「いいえ、来ないで。大丈夫ですよ。人と一緒ですから。――言っても分かりません。美容院の人です」
クムスンの言葉にジェヒは我が耳を疑った。
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