雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「30だけど17です」(連載121)


韓国ドラマ「30だけど17です」(連載121)




「30だけど17です」第14話(2人きりの夜)⑥


☆主なキャスト&登場人物

○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○イ・ドヒョン➡(トン・ヘボム)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)
○チョ・ユジョン(イ・リアン)
○ワン・ジウォン(リン・キム)
○アン・スギョン(チン・ヒョン)


★★★

 チャンは大根をすりおろす音で目を覚ました。
 夜は明けていた。
「何の音だ?」
 ウジンを見て身体を起こした。
「どうしてそこにミスター・コン(おじさん)が?」
 ウジンは手を止めて振り返った。
「おお、目覚めたか。ちょっと待って」
「なぜ、大根なんかおろしてるの?」
 ウジンはおろした大根をコップに入れて持ってくる。
「昔もこれで治ったよな。飲んだらいい」
「これを?」
 昔、よく飲まされたのをチャンは思い出す。鼻をつままされて素直に飲んだものだった。実際、ゲップによく効いたものだった。
 コップを握らされてチャンは顔をしかめた。
「いったい、いつの話だよ」
 ウジンを見てチャンも看護してくれた叔父を気遣う。
「少しは寝た?」
「いい子だから早く飲んで。ほら」
 チャンは仕方なく大根おろしを飲んだ。
「それでいい。そうしたらそれが下におりて食欲も…」
 その時、ウジンのお腹が鳴った。
「何だよ、そっちが」
 チャンはウジンの手を握った。
「帰って、早くご飯を…待てよ〜」
 その時、チャンは思い出した。
「ジェニファーが休暇なら―」
 チャンはウジンを見た。
「おばさんを家に1人残してきたの?」
「調子が悪いならソウルへ…」
 チャンは首を横に振る。
「僕は超健康だよ。だから早く出よう」
 チャンはベッドを抜け出た。ウジンの背中を押した。
「分かった、分かった。明日も調子が悪いようなら…」
「絶好調だから大丈夫。早く行って」
「分かった。分かったから急かすなよ」

★★★


 ウジンの帰りを待ちくたびれて、ソリはリビングルームのソファで朝を迎えた。
 連絡を取る手段のないソリは起きて動き回る気力もなく、玄関に聞き耳をたてながらうつらうつらを繰り返した。
 玄関で物音がした時、ソリはトックのように反応した。ソファから跳ね起きて玄関に向かう。
「おじさん!」
 しかし、入って来たのはジェニファーだった。
「おじさんでなく、残念でした…」
「携帯を貸してください」
 ソリは悲痛な声で言った。
 
 表に出ても「早く帰れ」と急き立てるチャンをしきりにいぶかっていると携帯が鳴った。
 ソリからだった。
「分かった」
 ウジンはチャンに携帯を差し出す。
「僕に?」
 チャンは携帯を握る。
「おばさん〜!」
 チャンの声はゴムまりのように弾けた。
「1人で大丈夫でしたか? ― 驚いたでしょ…ごめん。大丈夫。電柱だってたべられそう。島から早く戻れてよかったね…ええ、また〜」
 チャンはウジンを見た。
「寝不足で運転できる?」
「大丈夫さ」
 ウジンはチャンの頭を撫でた。歩いて車に戻りかけてチャンを振り返る。
「無理するなよ」
 ウジンを見送りながらチャンはためいきをつく。
「自分は大丈夫だったのに…」 


 ソリはジェニファーの食事の支度を手伝った。
「チャン君もソリさんも難を乗り越えて幸いです」
 ソリは小麦粉をこねながら言った。
「倒れたと聞いた時は心臓が縮みました」
 ジェニファーは包丁を動かしながらソリの話を聞く。
「そうだ。さっきはバタバタして聞きそびれちゃった」
「…」
「どこへ行って来たんですか?」
 包丁の音が止んだ。
 少し間があった。
「人に会って来ました」
 ジェニファーは答えた。
「そう言えば〜、楽器店からバイオリンが直ったと連絡がありました」
「ほんとですか?」
 ソリの顏はぱっと明るむ。
 手を拭いて自分の部屋に駆け込んだ。
「行ってきま〜す」
 お金の入った小箱を握って家を飛び出していった。
 あの頃に比べ、ほんとに元気になった〜。
 微笑ましい顔でソリを見送りながら、この家でソリと会ったのを不思議な縁と感じていた。彼女が病院で眠った歳月と自分の引きずった苦痛の歳月の一致は決して偶然じゃないだろう、と


 ソリは走っていって楽器の修理店に駆け込んだ。修理職人の前に立った。
「お金です」
 顔を上げた職人に言った。
「今日は確認だけです。来月、お給料が出たら、残りのお金を持っていただきに来ます」
 職人は黙ってソリを見た。
「まだお金が足りなくて…」
「それで十分だよ」
 作業に戻りながら職人は答えた。
「えっ?」とソリ。「ここにあるお金を確認しないと」
 小箱から集めたお金を取り出した。
「ユーロはダメだ」と彼。
「ではこれは両替して」
「いいんだ。それも置いて帰りなさい」
「では、足りない分は今度…」
 職人は手で”行け”のしぐさを見せる。
 バイオリンが高価な物で修理代が破格なはずなのはソリも分かっている。
 もうしわけなさでためらっていると、携帯用のスコッチティッシュがポンと置かれた。
「その手で楽器に触るつもりか?」
 ソリははにかんだ。 
 小麦粉や野菜を混ぜくったそのままの手でここに駆け付けたのだ。
 ソリは店のおじさんの親切を受け取り、バイオリンの入ったケースを背負った。挨拶して行こうとすると職人の姿に戻って彼は言った。
「もう来るなよ」
「えっ?」
 振り返ったソリは仕事に戻った彼の言葉を理解した。
「はい。二度とバイオリンをダメにしません。このバイオリンのことでは二度と来ません」
 店を出ていくソリを見て店主は笑みを浮かべた。
「バイオリン好きとしてはあの娘の演奏姿も見てみたいものだが、その日は来るのかな…?」
 家に戻るソリの足取りは軽かった。



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