雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載58)










 韓国ドラマ「病院船」から(連載58)





「病院船」第6話➡反発し合う二人②



★★★


 ヒョンとジェチャンはパーラーに落ち着いた。
「妻は手術を望まなかった」ジェチャンは言った。「だけど、私が無理に受けさせたんだ」
「…」
「医者の言う通りにした。抗がん剤治療も受けた。妻の話も聞かずに…」
「先生は悪くない。家族として当然のことをしたまでです」
「…」
「先生は奥さんのため…」
「そうじゃない」
 ジェチャンはヒョンを見た。
「妻のためじゃない。自分のためだった」
「…」
「妻に悪いことを…”お腹が痛い”と言うのに、検査を受けさせずに胃薬を飲ませてた。それが悔やまれて…申し訳なくて…自分が腹立たしくて」
 ジェチャンは声をつまらせた。眼鏡をはずし、流れ出るを手指でぬぐった。
 眼鏡をかけ直して言った。
「話すつもりじゃなかったんだが…妻の最後を知ってるか?」
「…」
「食事もできなかった」
「…」
「春よりも秋が好きなやつでね。最後にもう一度紅葉を見たがってたのに、私は願いを聞いてやれなかった」
「…」
「妻はベッドに寝たきりのまま、苦しんで死んだ」
 ジェチャンは顔を上げた。ヒョンを見た。
「私はそんな最期を迎えるのは嫌なんだ」
 
★★★


 ウンジェの気分は晴れなかった。憂鬱だった。ソル先生は治せる病をためらい、拒んでいる。それがもどかしかった。
 キム・ドフンがやってきて横に立った。
「手術の件、残念だな」
「…」
「患者に手術を拒否されたんだろ」
 ウンジェはキム・ドフンを見た。
「戸惑っているのだと思います。気持ちが落ち着いたら…」
「どうする? 説得するつもりか?」
「…」
「担当医も代わるのに無理だろう」
「…」
「例の内科医だとか…伝説の外科医、クァク・ソンの息子」
「知ってます…」
「名医の息子は顔が利く。海外の病院にも意見を聞いて―うちが推薦されたようだ」
「…!」
「肝肝膵外科なら韓国も優秀だしな」
「おっしゃりたいことの要点は何ですか?」
「ソルさんは私たちを選ぶだろう。患者は手術を諦めたんじゃない。
地方の医者を信用できないんだ」
 ウンジェは次の言葉を遮った。
「これで失礼します」
 背を向けたウンジェにキム・ドフンは言った。
「取り引きしよう」
 ウンジェは足を止める。
「ソルさんを手術しろ」
「…」
「うちのスタッフを使ってもいい。他科の精鋭も集めてやろう。ただし」
 ウンジェは怪訝そうにキム・ドフンを見る。
「私の名前で論文を出せ」
「…」
「断れないはずだ」
「なぜですか」
「私は誰に呼ばれて来たと思う?」




 ウンジェはキム・スグォンの許に出向いた。
「ああ」キム院長は頷いた。「私がキム・ドフン先生を呼んだ」
「理由は何ですか」
「検証のためだ」
「…」
「私の仕事は名医を抜擢することと無謀な医者から患者を守ることだ」
「…」
「君のことを検証するには君の師匠に聞くのが一番だ。間違ってるか?」
「結局…」 
「EXIT 肝切除術はやはり―相当な覚悟が要る」
「…」
 キム院長は身を乗り出す。
「患者だが…説得できるか?」
 失意しかかったウンジェは意外そうにする。
「難しい手術になる…だが、不可能ならキム・ドフンは来なかったはずだ」
 キム院長の真意を知ってウンジェの顔に血色が戻る。背筋を伸ばしてキム院長の部屋を出た。


 
「手術室をですか?」
 話を聞いてカン・ドンジュンはびっくりする。
「ああ。いけないか?」
「成功したらソン先生は他所から引き抜かれますよ」
「患者は救える。それでいい」
「失敗したら?」
「ソン・ウンジェはここに残る」
 カン・ドンジュンは首をかしげる。
「今回の呪術の成功率はどれほどだと思う?」
「さあ…どう考えても10%未満でしょう」
「ならば、ソン・ウンジェが残る確率は…90%以上になるな」
「…?」




 医務室に戻ったウンジェは手術の準備に拍車をかけた。




 ソル・ジェチャンは生徒たちの前に戻った。元気な声を広い校庭に響かせる。
「うん、上手だ」
「仮病だったの?」
 生徒が訊ねる。
「ん?」
 ソル先生はその生徒の前で答える。 
「仮病じゃなくて、心の風邪だ」
 校庭での授業の様子をヒョンは離れた場所から観察している。ソル・ジェチャンの身体は、いつ何が起きてもおかしくない状態なのだった。
「薬を塗れば治るよ」
 生徒が無邪気な声で言っている。生徒たちはどっと笑う。
「そうだ、そうだな…あっはははは」
 何も知らない人たちには生徒と先生の心の通った平和な授業風景だった。
 顔を上げたソル・ジェチャンは自分を心配して出かけて来ているヒョンに気づいた。
 ヒョンには頼んである。


―生徒たちには秘密にしておいてくれ…ここも、他の島の人たちにも…。


 授業は生徒とソル先生の笑い声が絶えない…。




 それを眺めるヒョンの口からはため息が漏れる。
 携帯が鳴った。
 ウンジェだった。
「今、どこ?」
「小学校だ」
「よかった」
「どういうこと?」
「転院させなかったのは賢明な選択だけど…」
「だけど、何?」
「手術の拒否は非合理的よ」
「合理で片付く話じゃない、これは」
「気持ちじゃなく理性で考えないと」
「ソン先生!」
「医者なら当然よ。患者側の立場でなく、内科医として合理的に考えて」
「一体、何が合理的なんだ!」
 ヒョンは声を荒げた。
 ウンジェはデーターを見続けながら言った。
「寮で話しましょう」
 ヒョンの握る携帯はそこで音信が絶えた。ヒョンはしばし携帯を睨んだ。




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