雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「ファンタスティックカップル」第8話


「ファンタスティックカップル」第8話

 翌朝早く、アンナはトックとともに海岸に駆けつけた。チョルスの安否を訊ねて回った。
 仕事した灯台に走って行った彼女はそこで叫んだ。
「チャン・チョルス。いったい、どこへ行ったというのよ!」
 
(俺が死んだって、お前は泣かないだろ。そうだろ)
(死んでみたら。そうすればわかるわ)
 
 チョルスとのやりとりを思い出しながら彼女は泣き叫んだ。
「死なないで。死なないで・・・。死んだら、絶対に許さない」
 その時、声がした。
「サンシラッ!」
 振り返るとそこにチョルスが立っていた。
「こんなとこでどうした?」
「あなたが心配で・・・心配で死にそうな思いしたじゃないの」
(第7話より)

「サンシラー・・・」
 チョルスは意外そうにアンナを見つめた。
「お前・・・泣いてるのか?」
 アンナは頬の涙をぬぐった。
「そんなに心配だった? 大丈夫だ。大変な思いしたけど、ほら、もう何ともないさ」
 チョルスはしみじみ続けた。
「だけど、意外だ。お前も心配して泣いたりするんだな。血も涙もない人間だと思っていたのにな・・・涙を流すとは・・・」
 そう言ってアンナの顔を覗き込んだ。
「俺が死んだと思った・・・?」
「死ねばよかったよ! チャン・チョルス」
 アンナは怒ってチョルスに頭突きを食らわした。さっさと先に戻りだした。
 チョルスは口元を痛そうにして起き上がった。
「やっぱりお前ってやつは・・・! 待てよ」

 家に戻ったチョルスにトックの母は言った。
「サンシルさん、あんたのことを心配して、港を早朝から探し回っていたわよ」
「えっ! サンシルがですか」 
 灯台で途方にくれていたアンナを思い出しながら、彼女のところに行くと、急に疲れが出たようでアンナは自分の寝床で眠りだしている。声をかけても起きない。
 (港に出て朝から自分を探し回っていた・・・よほど、疲れたんだな・・・)
 狭い寝床で眠っている彼女を不憫と感じて、チョルスはアンナを抱きかかえて自分のベッドに運んだ。そこでゆっくり寝かせてやった。
 やがてアンナは眠りから覚めた。身体を起こした。
「なぜ、ここに・・・?」
 まだ不安な現実が続いている、と錯覚した彼女は、こうしてはいられない、とばかり、掛け布団を押しのけた。
「チャン・チョルス・・・!」
 居間に飛び出していくと、自分の寝床でチョルスは寝ている。寝姿を見て、チョルスに何の異変もないとわかったアンナは呟いた。
「心配して損した。涙まで流したっていうのに・・・」
 それから気付かされた。頬に手を当てながら自分の気持ちをいぶかしんだ。
「私・・・チョルスのために泣いたっていうの?」
 チョルスを見て呟いた。
「最低のこの人のために?」
 チョルスが目を開け目が合うと照れ臭さで叫んだ。
「起きてよ。そこ、私の寝床よ」
「少し放っておいてくれ」
「具合悪いの?」
「さあ・・・ずぶ濡れになったせいか身体がズキズキする。少し寝かせてくれ」

 チョルスが心配になったアンナはタオルをお湯であたためて持っていった。腕にあてがってやった。チョルスはびっくりして起きた。
「風邪引いてる時は温めてはいけないんだ。冷やさないと」
 今度は冷蔵庫から氷を取り出して持っていった。足を躓かせてボールに入れた氷片をチョルスの体にぶちまけてしまう。チョルスは飛び上がった。
「今度は何するんだ。いいから放っておいてくれ」

 アンナが出かけた後、叔父さんをゆっくり寝かせてやろうと弟たちを外に連れ出し、上の子が部屋に鍵をかけた。

 チョルスから邪魔者扱いされたアンナは気分を悪くしたが、腕に湿布を貼ってやり、食べ物(ジャージャ麺)を作ってやって家を出た。
 するとそこに花束を抱えてやってくるヘギョンと出会った。
「こんにちは。チョルスさん、身体が痛いと聞かされたのでお見舞いにきたんです。私が病気の時、ご迷惑をかけたから」
「知ってるよ。今度は救急車を呼んでくださいな。その方がチョルスより早いでしょう」
 ヘギョンは薄笑いを浮かべた。
「私が来るのが迷惑みたいね。じゃあ、これを渡してくださいな。あわびのおかゆよ」
 アンナはヘギョンの手にした物を眺め渡して言った。
「渡しておくわ。でも、迷惑だからあなたからとは言わない。じゃあ、いただきます。ご馳走さま」
 ヘギョンは渡しかけたものをあわてて引き戻した。
「やっぱり、けっこうです。せっかくお見舞いに来たんだから、顔を見て帰ります」
 アンナはふんと鼻を鳴らした。
「花束女、恩着せがましいわよ。迷惑だわ」 
「あなたが迷惑だろうと関係ないわ。私たちは昔からの付き合いなの。ああ、そうか・・・記憶がないから仕方ないわね」
 アンナはヘギョンをにらみつけた。へギョンは平然として言った。
「だから私を迷惑に感じるのね。大変ですわね」
「同情はけっこう。チョルスにだけいい子ぶってちょうだい」
「そうします」
 ヘギョンはチョルスの家に向かって歩いた。
 ヘギョンの背中を見てアンナは憎まれ口を叩いた。
「何よ、カッコつけちゃって」
 それから舌打ちした。
「記憶がないから、文句も言えない」

 ヘギョンはチョルスの家にやってきた。居間にチョルスはいなかった。しかし、部屋にはいるようだ。鍵がかかっている。へギョンは花瓶を見つけて花を飾った。
 


 ヘギョンが家に来ていると思うと不愉快でならないアンナは、やむなく友達でもないカンジャと時間をつぶした。
「何やってるの? ドックのための花束じゃないの?」
「雪も降らないし・・・」
「どうして雪が降るのを待ってるの?」
「雪の降る日にドックさんと会う約束なの」
「いつでも会えばいいでしょ」
「だめよ。ドックさんが嫌がるもの。雪の日だけ来いって・・・でも・・・ずっと雪が降らないの」
「それはドックに嫌われてるってことよ。そんな言葉は信じない方がいいわ」
「どうして?」
「片思いでしょう」
「片思いはいけないの」
「そうよ」
「どうして?」
「それは・・・格好悪いからよ」
(その言葉はアンナが自分自身を指しているようでもあり、へギョンのことを指しているようでもある)
 
 しかし、時間が経ってもチョルスは部屋から出てくる様子がない。ドアを叩いても反応しない。携帯をかけたらそばで鳴った。へギョンはため息をついた。

 ホテルが所有するゴルフ場にやってきたコン室長はそこでぐうぜん幼馴染に再会する。トックの母のケジュがコン室長の幼馴染なのだった。
 二人は再会を喜びあい、ラウンジでジュースを飲んだ。

 チョルスは目を覚まして部屋を出た。すると居間のテーブルに飾られた花とお粥とメモ書きが残されている。
「へギョンが来たのか・・・」
 つぶやいたチョルスだが、彼女に会えなかったからって残念そうな様子も見せない。
 そこへ甥っ子たちが帰ってきた。
 チョルスはアンナのことが気にかかり、探しに出かけた。

 チョルスはカンジャを見かけ、カンジャがやってきた道をたどって水辺に向けて座っているアンナを見つけた。
「ここで何をしてる?」
 それから急に笑った。
「どうしたの?」
 チョルスはアンナの髪から花びらを抜き取った。
「お前はカンジャか」
 アンナは髪をクシャクシャかいた。
「これは何だ」
 チョルスは彼女の手から紙袋を奪い取った。
「薬か・・・ありがとうな」
 ポケットに押し込んだ。
「何でここにいるんだ?」
「家にいると居心地が悪いからよ。知らない人と一緒にいたくない」
「ユギョンなら知ってるだろうが」
「彼女の話は聞いたことがないわ」
「そうだったか?」
「・・・」
「昔から知ってる仲だ。遠慮なんかしなくていい」
「聞いた話と違うわ。あんた、昔、彼女に振られたそうね」
 それを聞いて、チョルスはおかしそうに笑った。
「そうだよ。悪いか?」
「そうよ、いい気味だわ」
「怖いものなんて何もないお前が・・・なぜ、ここにいるんだ?」
 アンナはそっぽを向いた。
「とにかく、いろいろ理由があって・・・もう、変な仲じゃないから気にかけるな。行こう」
 チョルスの後をついて行きながら、アンナは例によって憎まれ口を叩いた。
「もう、最低なやつ・・・バカみたい・・・」
 歩いてる途中、チョルスははたと立ち止まり、アンナを見た。
「サンシリっ、どうやってこの薬を買った?」
 アンナはとぼけたが、チョルスは気付いた。
「お前、食器棚の金を・・・」
 アンナはとぼけてチョルスから逃げ出した。 
「この野郎、金をかえせ!」

 家に戻るとテーブルにヘギョンのメモ書きが残っている。
「チャン・チョルス、ずっと寝てたの?」
「ああ」
 チョルスはそう答えて奥に入った。アンナは首をかしげた。
「花束女は、起こさずに帰ったというの?」

 ソファに腰をおろすとチョルスは気持ちよさそうに言った。
「ああ、寝たらすっきりした」
 甥っ子が横で話す。
「クンソクがずっと部屋に入ろうとしたから、僕が鍵をかけたんだ。偉いでしょう?」
「そうだ、ありがとうな」
 それを聞いて、アンナはけらけら笑った。
 みんなが笑うのでやめて彼女はつぶやいた。
「いい気味だわ」

 その頃、へギョンはチョルスの電話を待っていた。しかし、電話はかかってくる様子がない。

 その頃、ビリーはコン室長とアンナの件で罪をぜんぶチョルスに結びつける算段を打っていた。
 
 ドックの母がアンナを誘いにやってきた。ホテルのサウナ無料券を何枚かもらったらしい。それで一緒に行こうというわけだった。やってきたトラックの荷台にはカンジャも乗っている。
「どこに行こうというの?」
 アンナはトラックの荷台で怪訝そうにした。
 招待した人間の中にアンナが混じっているのを見てコン室長はあわてた。急いで社長に連絡を取り、ホテルの中に何とか入れまいとしたが、強引に入り込まれてしまった。
 しかし、ホテルの者は誰ひとりアンナには気付かなかった。
 ビリーはその姿に唖然となり、嘆いた。
「あまりに違い過ぎるからだ」

 サウナをすませて帰る途中、カンジャは海辺の立派な住まいを見かけ、そこへ向って駆け出して行く。ドックの母さんに頼まれ、アンナはカンジャを追いかけていく歯目になる。カンジャは立派な屋敷の中へ駆け込んでいった。そこはアンナとビリー夫妻の屋敷の中だった。
 カンジャはビリーとアンナが写っている写真を見かけ、それをバッグの中にしまう。カンジャは、お姉さんの友達だ、と言ってビリーに挨拶するが、アンナはビリーを思い出せない。ビリーに失礼をわび、連れて引き揚げて行った。

 アンナの変わり果てた姿は貧乏のチャン・チョルスのせいだとしたが、コン室長は彼の収入がいいのを説明した。
「そうは言っても、スズメの涙程度だろうが」
「とんでもありません。仕事をえらばないので、南海一帯の仕事を請け負ってこなしています。ビーチ付近の土地も買ったようです」

 アンナは記憶の一部がほぐれかかろうとしていた。
 また洗濯機が止まった、調子悪いので取り替えてよ、とチョルスに交渉したが、食費の金もないので後で直す、と言われて腐った。洗濯物を持って子供らの部屋に行くと子供らはコミックや辞書のたぐいをたくさん与えられている。
「それは・・・?」
「叔父さんに買ってもらったんだ」
「まったく・・・子供の物は買うのに、洗濯機はだめだというの!」
 アンナはそれらを手に愚痴ろうとするが、ふと、手にした本から何もわからない記憶の底を揺さぶられた。
 それは外国のガイド本によってだった。
「覚えがあるって本当か」
 家族はアンナのまわりに集結した。
 アンナはフランス、スイス、とたどり、ようやくアメリカに行き着いた。彼女はいきなりぺらぺらと英語を喋りだした。
「映画を見ればわかるわ」
「映画? そうか、映画か。よし、映画を見よう」
 全員で「タイタニック」を見た。
「この人、見覚えがある」
「何?」
「この人に連絡つけて」
 アンナは叫んだ。 
「俺も知ってるぞ」
 アンナは言った。
「確かに覚えがあるわ・・・」
 チョルスはアンナを連れて映画館に行った。
 新しい映画を見れば何か情報が得られるかもしれないというわけだった。
 しかし、田舎の映画館はアンナの我慢できるマナーの場所ではなかった。袋や口を鳴らして菓子をほおばる人間はいる。前が邪魔で画面は見えなくなる。子供は泣き出す。カップルはイチャイチャする。自分の椅子の背中に足を乗っけてくる人間はいる。
 アンナの心臓は怒りで今にも破裂しそうになった。
 チョルスはアンナを連れて中途で映画館を出た。
「よく、我慢したな・・・」
 チョルスはアンナをビデオルームに連れて行った。
「ゆっくり見てろ。俺は時間つぶしして戻ってくる」
 いや、あんたはここにいて、とアンナがいう。チョルスは寝そべってアンナがビデオを見終わるのを待つことにした。
「ディカプリオはみんな借りた。思い出すまで、好きなだけ見ろ」
 そう言ってベッド式ソファの上に座った。
 ビデオを見ながら、
「確かに覚えがある。どこで会ったのかしら・・・」 
 つぶやくアンナに笑みを向けながら、チョルスは少しずつ眠りに沈んでいった。
 するうち、アンナは横で寝ているチョルスが気になり、次第にビデオ鑑賞どころではなくなっていく。
「そうよ。これはさっきの怒りを我慢しすぎたせいよ」
 まるで18世紀の恋愛小説みたいに自分の昂ぶる感情の正体に気付かず、ビデオルームを飛び出していく。
 外に出た彼女は通りの人たちに片っ端から言いがかりをつけながらさ迷い歩く。
 チョルスが目を覚ました時、アンナはいなくなっていた。
「どこに行ったんだ・・・」
 チョルスはビデオルームを出た。
「ディカプリオか誰か知らないが、ぜんぜん思い出せないから逃げ出したんじゃないか・・・!」
 さてどこへ行ったか、と探すのに迷ったチョルスだったが、道案内は向こうから次々と歩いてきた。
「他人の格好に文句つけるなんて何様なのよ」
「ははあ・・・」
 とチョルスは頷いた。
「看板を替えろだなんて、妙な女だ」
「何なのよ、あれは」
「関係ないっていうの」
「気に入らないって何言ってるんだ」
 チョルスはそれらをたどっていきながら呆れた。
「サンシル・・・街の人みんなに文句つけて回ってるよ」
 アンナは歩道の上に止まってい白い車を蹴りつけた。
「色も最悪ね。気に入らないわ」
 横断歩道を渡りきってほっとしている時、チョルスから声がかかった。
チョルスは走って近づいてきた。
「何してるんだ」
 アンナの前に立った。
「サンシリっ、どうして他人に文句なんかつけて歩いてるんだ」
「全部、あなたのせいよ」
 アンナは答えた。 
「どう考えてもあなたのせいよ」
「何で俺が? 記憶を取り戻すのを手伝ってるのに、どうして?」
「チャン・チョルス」アンナは胸を押さえた。「どうやら、記憶が戻ったみたい・・・」



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