雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載41)







 韓国ドラマ「病院船」から(連載41)






「病院船」第4話➡家族の思い⑧




★★★


 船は本校の港に到着した。引率の先生以下がはしゃぎながら学校にやって来ると、病院船の診療スタッフがすでにやって来ている。
「やあ、事務長」
「どうも」
 先生と事務長は握手を交わす。
「今日はみなさんお揃いですね」
「健康診断ですから」と事務長。
「だったら、昼食にはうどんをどうですか?」
 子供たちを指さし先生は話す。
「昨日、貝をたくさんとったんだ。新鮮で美味しいぞ」
「それはぜひとも」
 事務長は満足そうな笑みを返す。
 学校の先生は診療スタッフに目をやった。
「病院船に新しい先生たちが来たみたいだね」
 先生は児童たちに”挨拶をしなさい”と促した。
 児童たちは声をそろえて挨拶をする。ヒョンとジュニョンは軽く手を振って応える。
 事務長がスタッフを紹介する。
「こちらは外科のソン先生」
 一礼し合う先生とウンジェ。
「歯科のチャ先生」
「そしてこちらは…」
「内科のクァク先生」と島の先生。「冷たいヤツだ。にこりともしない」
 そう言われてヒョンは笑顔になった。
「お元気ですか?」
 島の先生は拳固で額を押した。
「どうして一度も顔を出さない」
 ヒョンは頭を下げた。
「ご無沙汰してます」
「2人は知り合いですか?」と事務長。
「親友の息子だよ」
 事務長はびっくりした顔になる。
「まさか、クァク・ソン先生の…?」
「そうだ。ここはあいつの故郷だ」
 これまで無表情だったウンジェも目が覚めた表情になる。
 事務長の話にちらとジュニョンを見た。
 目が合うと「クァク・ソン?」抑制しつつ疑問をぶつけた。
 ジュニョンは囁き声で答える。
「伝説の外科医です」
 ウンジェにしても確認の質問だった。クァク・ソンを知らない外科医はもぐりのようなものだ。
「彼はまだ帰国してないのか?」
 島の先生は訊ねている。
「はい…そうですね」
 ヒョンは返事に困りつつあいまいに答えた。帰国して惨めな入院生活を送る父の現状を説明するにはそぐわない場面でもあった。


★★★


 薬剤師の資格を持つ事務長はじめ医療スタッフによって、学童たちの健康診断が始まった。子供たちはみな、健康診断が楽しそうだった。


 ソル先生は温かな表情で廊下から健康診断の様子を見守っている。






 韓方医のキム・ジェゴルはひとり病院船に居残りになった。
 ゴウンがジェゴルのところへやってきた。
「ひとりで手持無沙汰そうだわね」
 マグカップにコーヒーを落としながらジェゴルは頷く。
「う~ん、いい香りだ」
「そう?」
「相変わらず無愛想だわ」とゴウン。
 船長は長いすに腰をおろし、静かに新聞を読んでいる。
「こういう時は”一緒に飲みませんか”とか、気を利かせないと雰囲気が暗いわ。クラブではモテて騒いでるんでしょうに…」
「ここは病院船です」とジェゴル。「クラブと同じ行動をしろと言うんですか?」
 ゴウンをにらみつけて行ってしまう。
 ゴウンは首をかしげる。
「そういう意味に聞こえたかしら? 船長もそう思いました?」
「いいや」
 船長は手を横に振った。
「ですよね」
「おばさんの小言にうんざりしてるんでしょうよ。ゴホゴホ」
「船長!」
 ゴウンはふくれっ面になった。




 ジェゴルはコーヒーを飲みながら診療室に戻ってくる。すると机上の携帯が鳴った。
「はい、もしもし…えっ? どなたです?」
 ジェゴルはパク・オウォルの家に出向いた。オウォルの話を聞いた。
「治療しないの?」
「そうじゃなくて、病院船では肝硬変を治せないんです」
「治す必要はないわ。長生きしなくてもいいの。1か月だけ生きられればいいの」
「それなら、神様にお願いしてください」
 ジェゴルは腰をあげた。そそくさと帰り始める。
「ちょっと…一緒にいる男は誰? あんたによく似てる」
 ジェゴルはちらとオウォルを見て通りを曲がった。オウォルは大きな声で続けた。
「青い服を着ておでこに傷がある人よ」
 するとジェゴルは急いで戻って来る。
「兄さんを知ってるんですか?」
 戻ってきたジェゴルにオウォルは答えた。
「あんたの隣にいるよ」
 驚いて振り返る、誰もいない。
「何か言いたがっている」
「…」
「少しは私を治療する気になったかい?」
 ジェゴルは返す言葉を見つけられなかった。




 健康診断で島の学校へ出向いたウンジェたちは病院船に戻ってきた。
「ああ、腹が減った」とジュニョン。
「お疲れさん。食事の準備はできてるよ」
 事務長の満足そうな声が響く。
「遅いお昼になったわね」とゴウン。「思う存分、召し上がって」
 事務長がゴウンに訊ねた。
「パクさんから何かここへ連絡ありました?」
「ええ、ありましたよ」
「あった?」
「キム・先生に呼び出しが」
 ウンジェたちは振り返る。
「ジェゴルにですか? 無愛想なのに」
「往診です。治療しに出向きましたよ」
「…」
「鍼と薬も持っていったようです」
 ウンジェはヒョンと目を合わせた。お盆をおいて病院船を飛び出していった。
「食事をしてからにすればいいのに」
「せっかく準備したのに」
 ゴウンや事務長の声が2人の後を追いかけた。




 その頃、ジェゴルはオウォルに対し、鍼治療を試みていた。そこにウンジェたちも駆けつけた。
「何してるんです?」
 駆けつけるなりウンジェが言った。
「私の患者から離れて」
 オウォルが身体を起こす。
「誰があなたの患者ですって?」
「聞いたでしょ。俺がいいみたいだ」
「だからって鍼を? 肝硬変の患者に生薬は危険よ」
「有効だとも言われてる」
「キム先生」
「もちろん、すぐに生薬は投与せず、鍼で吐き気を抑えようとしています」
「こんなやり方とって、炎症でも起こしたらどうするのよ」
 ジェゴルは立ち上がった。
「俺に衛生管理が出来ていないとでもいうのか?」
「出血の危険性もある」
「何をそう焦ってるんだ。0.2mmの鍼を打っても0.01mmの毛細血管から大量出血はしない」
「問題は血管の太さではなく、凝固反応があるかどうかよ」
 そこにオウォルが口を挟んだ。
「頭に響くからそのへんでやめてちょうだい」
 2人はオウォルを見た。ジェゴルは言った。
「患者の希望どおり、症状を和らげる対症療法で吐き気を抑えるべきだ」
「それで非科学的な治療を?」
「非科学的? 専門以外は非科学扱いか」
「治療を中断して。今すぐに」
「それは無理だ」
 ウンジェはヒョンを見た。
「どう思う?」
「ああ、どう思う」とジェゴル。
 ためらった後、ヒョンは答える。
「早く病気を治したい」
「…」
「それに患者さんの前で言い争うのはよくないよ。治療の邪魔になるだけだ」
「そうね。私も同じかんがえよ」とオウォル。「みんな帰りなさい」
 ヒョンが言った。
「僕が残るのはいけませんか?」
 ヒョンは薬を取り出した。
「いや、俺が残ります」とジェゴル。「治療の途中だし、いろいろ聞きたいことも…」
 オウォルは声を荒げた。
「1人でいたいのよ」
「…」
「誰かといるともっと悪くなりそうだ。だから帰って。3人とも早く帰りなさい」


 3人はそろってオウォルの家から続く階段の道を下りて来た。
「何て頑固な人なんだ。こんなことさせないで、手術をすればいいのに」とヒョン。
「簡単にいうな」
「どういうこと?」
「娘が結婚するんだって。少しでも結婚費用にあてたいらしい」
「そんなの無茶だよ」
「異常な母性愛だよな」
 ウンジェは2人のやりとりを黙って聞き続けた。
 そして突然足を止めた。振り返るなり、オウォルの家に向かって駆けだした。








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