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藤井二冠 里見女流四冠戦 王位戦記念対局 より
2021/1/9
ライブで観戦できなかった。棋譜で楽しんだ。
持ち時間は藤井王位が10分。里見香奈女流王位は1時間。
持ち時間の50分差は大きい。両者の推定棋力差から面白い勝負になるだろうと予想していた。
里見女流王位は得意の中飛車、藤井王位は居飛車の戦いになった。
里見女流王位が積極的に仕掛けて急戦になった。双方の持ち時間から考えれば、里見女流王位はじっくりした戦いをした方が有利と思った。
しかし先手番を持った里見女流王位は中飛車から果敢に攻めていった。急戦模様で先手がペースを握るかと見ていたら、藤井王位も中飛車で対抗、2枚銀を繰り出して接近戦の様相である。
その後、角を圧迫された先手は大駒を後手と整理しあって第一ラウンドを終了させる。
この地点で先手は後手に比し、玉のそばに守り駒は一枚足りず、ついでに手番まで握られている。いつの間にか非勢の局面となっている。
ここで先手は６九飛車と打つ。桂馬と銀の両取りが直接的な狙い。金駒を一枚使わせるだけでもいいとしている。先手は７九金と打って後手に暴れられるのを嫌った。
先手も7五角と打って攻防に利かす。飛車を握っているので将来的には４ニの金と刺し違える手も出て来るかと見られる。
この角をそのままにさせて横から飛車を打たれると守り駒を一枚加えなければいけなくなる。後手は6四角打ちで同角を誘い歩で角の直射を避ける形にする。
先手８二飛車と打つ。攻めの取っ掛かりを作っておかないと寄せ合い負けになる。しかし、ここで１五歩が急所を突いた手。挟撃を受けて先手の守りは急を告げてきた。先手は逃げ場を睨んでいる竜を弾く駒のないのが痛い。
後手は端歩を取りこんで1八歩を誘い、８八歩と桂取りに打つ。先手は攻め合いに出るしかない。９六角打ちは４一の金を剥がしていく狙い。３一金とかわされての５二角成は強引な攻め。同金に同竜、３二銀打ちと進む。先手は一転、５七金と竜取りに打つ。先手はこの竜を取って玉の退路を作りたい。
しかし、藤井将棋は飛車や竜が役割を終えた時は筋に入っている可能性が高い。4八竜と銀を取り、要の守り駒である金を引き離しておいて、悠然と８九歩成と桂馬を取る。
グズグズ出来ない先手は７一に飛車を打ちおろす。怖い2枚飛車である。後手はがっちり４一銀と竜取りに打って守備を固める。先手は５四竜と銀を補充して逃げるが、後手も７九と金を補充する。先手は５二歩と打って成りを見せるものの、後手はかまわず６九と金と６八の銀を取りに向かう。
先手５二歩成、６八と金、４一と金、同銀引く、と先手、後手とも我が道を行く展開だが、先手の８一飛車成に対し、後手の５九銀と打った手が先手の金を狙って強烈な一撃だった。この金をただで取らすわけにいかない。先手やむなく３九銀打ちだが、4八成り銀、同銀と進んで先手の守備陣は一気に弱体化してしまった。
４九角打ちと後手の攻めは続く。放置すると３八金打ちで詰んでしまう。３八銀打ちと粘るが、同角成で同玉を誘って２六桂打ち。同歩の一手に４九銀打ちが待ち構えている。
このへんは里見女流王位も承知している流れ。藤井王位の決め手の角打ちから竜をせしめたところまで応じて打ってくれた。
先手は８二竜と王手して、５二歩合いをされたところで投了を告げた。
里見女流王位の積極的な攻めに対し、守りと攻めにおいて藤井王位の柔軟な差し回しが光った一局だった。里見女流王位はC2クラスの男性棋士とほぼ互角の戦いを行っている。何年か前、公式戦で藤井四段と対戦した時、2人は互角の拮抗した将棋を指した。
今回は持ち時間も短く、将棋ファンのための娯楽用変則ルールだったものの、藤井王位と里見女流の間に歴然とした棋力差の感じられる一局だった。
順位戦並みの持ち時間なら角一枚くらいの差があるのでは…と思った。里見女流王位は将棋ファンのために見せ場のところまで指してくださった。
記念対局にふさわしい将棋のだいご味と奥行きを感じさせてくれた楽しい一局だった。
