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雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「アイリス」第13話 感想


「たとえ国家でも、博士のような個人でも、アイリスに逆らう勢力は生き残れません。もしか・・・ヒョンジュンをあてにしているのならば、失望することになるでしょう。今は生かしているが、その気になればいつでも殺せる相手です」
 額に枕をあてがって銃で殺害する前、ペク・サンがユ・ジョンフンに言った言葉である。
 無力でちっぽけな個人はともかく、たとえ、国家でも、というのが引っかかる。こういうことが出来るのは、クーデターや革命にまい進する巨大組織ということになるが、このドラマのように国家の中枢部にまで細胞やコマンドを送り込むことができるとなれば、理論上で合意を見ていくだけでこういう同志の結合を作り上げるのは不可能だとしか思えない。いみじくも、ヨン・ギウンがチョリョンを説得できなかったところにそれがよく示されている。理論的に相手を打ちのめして同志を得る手法はすでに壁にぶち当たっている。
 国家をも容易に転覆できるような組織を形成するには、もっと濃厚な神の力でも借りた血の結束のような求心力が働いていないと無理だという気がする。

 このドラマを見終えた時、ドラマを手がけながらスタッフたちが漠然と思い描いていたのは、チェ・スンヒの女王像のようなものではなかったろうか、という気がした。最初から意図していたのかどうかはわからぬが、後半に入ってくるとスンヒのキャラはそんな据えられ方になってきた印象があった。しかし、それが露骨にイメージされたのでは現代性をいちじるしく欠いて、アナクロニズムになってしまう。過去の歴史ドラマに限定してこのような話が作られていったなら、もっと踏み込んで描いていけた話かもしれない。
 いずれにしろ、「アイリス」という反乱組織には、人間の心の奥にひそむドロドロした渇望とか怨念とか呪縛とか、狂信的なものの集積や塊の表出を想起させる。
 こういうものが発火して連動を開始したら、もう誰にも止められなくなる。
 ここで扱われる核の問題は、人間の得体の知れないエネルギーと結びついているとも言えるだろう。こんな話はこの先、どういう世界を生み出していくことになるのだろう。
 このドラマ世界でうごめく人たちは、自分の信念やら行動やらの先に、ある程度の犠牲を伴うことを覚悟している。いや、自分の信念や行動を阻害する者は排除する思想に貫かれている。
 ヒョンジュンやスンヒとて例外ではない。
 
 天下国家を動かすエリートを扱ったドラマにおいての大衆は、どうにもならぬ運命に翻弄され続けている。彼らは巨大な地下室で地球の心臓を動かすオールを握らされ、テレビでも見ながら、ひたすらそれを漕いで地上の栄華に寄与している図などがふと思い浮かんだりした。
 
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