韓国ドラマ「青い海の伝説」第12話⑫
韓国ドラマ「青い海の伝説」第12話⑪
★★★
ジンジュは急いでカン・ソヒの許に駆け付ける。
悪態をついて昨日のことをお詫びするためだった。
美容クリニック中のカン・ソヒの前に跪く。
「何しに来たの?」
とカン・ソヒ。
「キム秘書がこちらにいらっしゃると…」
カン・ソヒは顔を背ける。
「私はとんでもない女です。大罪人です」
「大罪人ですって?」
「はい。酒癖は悪くないはずなのに、昨日はどうしたことかしら…」
「その噂とやらを詳しく聞かせてくださらない?」
「噂ですか? そんなものはぜんぜん知りません」
「…」
「昨日、私が言ったことは…決して本心じゃないんです。分かってください。自分の中の魔物が勝手に顔を出して」
「…!」
ジンジュは両手を胸で組み合わせる。
「そう思っていただけませんか? 奥様…」
セファがテオのところへやってきた。
近くで目を合わせるたび、テオはどきどきした気持ちに襲われる。
セファは訊ねる。
「もともと顔が赤いの?」
テオは首を横に振る。
「いつ見ても真っ赤だわ」
違う。テオは必死に否定する。
(セファさんと目が合った時だけだ…!)
「教えてくれない?」
「何を?」
「パソコン。テレビよりもいろんなことが分かるんでしょ?」
うんうん、とテオ。
「そしたら、あれも分かる?」
「何のこと?」
セファはテオの耳元に口を近づける。
その時、ジュンジェから声がかかる。
「おい、そこで何してる?」
★★★
リビングルームに出てきたジュンジェが2人を見ている。
セファは構わずテオの耳元で話しかける。
「キープされない方法とか…ヒソヒソヒソ…」
ジュンジェにはそれらがぜんぶ聞こえている。
「そこを離れろ」
セファたちは振り返る。
「コソコソ離さず自分で考えろ。…おい、テオ」
不快そうにジュンジェを見下ろすテオ。
「お前、耳が真っ赤だぞ」
テオは耳に手をやる。
「何をやってるんだ?」
「パソコンの使い方をいろいろと教わるの」とセファ。
「そんなの俺が教えてやる」
「嫌よ(あなたの本心を調べたいのだから)」
「何言ってる。見ればわかるだろ」
「えっ? 今、何て言ったの?」
ジュンジェは一瞬うろたえる。脳内が混乱し、リアクションが遅れる。
「それは…いや、今のは…パソコンの使い方の話だ」
「…」
「横で見ていれば自然と覚えるのさ」
セファはじっとジュンジェを見つめ下ろす。
「まあ、いい。テオに教わりたいなら好きにしろ」
ジュンジェはそそくさリビングから消えた。
テオは言った。
「まず、検索方法から教えるよ」
イルジュンはカン・ソヒを伴いかかりつけの医師のもとを訪れていた。
医師はモニタを見ながら首を傾げる。
「薬を飲んでるのに悪化してるなんて…どういうことだろ?」
カン・ソヒは視線を落とす。
イルジュンは言った。
「前より目がかすむんだ。今はもう君の顔もよく見えない」
カン・ソヒの顔を冷笑がかすめた。
医師の口調は深刻だった。
「放置できないぞ。このままでは失明だってありえる」
「そんな!」ソヒが口を出す。「お願いです。手遅れになる前にそれを何とかしてください」
「ええ…角膜の損傷部位を手術すれば治せます」
「…」
「ただ、損傷が網膜まで達していたら、場合によっては―打つ手はないかもしれません」
カン・ソヒはイルジュンを見た。
「そうですか…」
イルジュンは言った。
「手術の予約を入れてくれ」
「そうだな」医師は頷く。「手術の後も注意が必要だぞ」
「…」
「本当に目を傷つけた覚えはないのか?」
「ああ。覚えはない。ないんだよ」
医師はしきりに首を傾げた。
イルジュンらは診察を終えて廊下に出てくる。ソヒはイルジュンを待たせて診察料の精算に出向いた。
イルジュンはソファに腰をおろしてソヒが戻って来るのを待った。
すると廊下を向こうから一人の女性が歩いてくる。イルジュンはぼやけた目を前方にやっていた。
廊下を歩いてきたモ・ユランは足を止めた。ソファに腰をおろしているイルジュンに気づいたからだ。
ユランはこっちを見ているイルジュンにうろたえる。イルジュンのぼやけた目は家を出ていったユランを認識することはできない。
ユランの胸中でいろんな思いが錯綜する。イルジュンのもとに歩み寄る感情も働いたが、視野の隅にカン・ソヒが入りだし、とっさに後ろ向きになってしまう。
「あなた、チヒョンとお昼を一緒にしましょうか?」
会計を済ませて戻ってきたカン・ソヒはイルジュンを促した。2人はユランの背後を通り、仲良さそうにしながら病院を立ち去った。
ある日突然現れて自分たちの幸せを横取りしたカン・ソヒ。
―親しくもなかったのに急に訪ねてきてごめんなさい。
―いいのよ、ジヒョン。
―事情があって改名したの。
―…?
―今はカン・ソヒよ。
―そうだったの。よく来てくれたわ。夫の事業が好調でお金には余裕があるの。
―…夫が急に亡くなって、1人で子育てするのも大変で…
―ちょうど保険のことを考えていたところよ。
―…。
―ちょうどいい機会だから夫も加入させるわ。夫に話しておくから会社を訪ねたらいいわ。
―ありがとう。恩に着るわ。
あの頃の悔しさと悲しさが突然戻ってくる。ユランは涙をこらえてその場に立ち尽くした。