韓国ドラマ「青い海の伝説」(最終話)完
韓国ドラマ「青い海の伝説」(最終話)⑨
★★★
セファはジュンジェを追って街に出た。通りを捜しまわった。
「いったいどこへ行ったのかしら…」
折しも雪が降り出した。通りのあちこちで傘が開きだす。セファは雪に濡れそぼりながらジュンジェの姿を追った。
いつしかジュンジェと待ち合わせをした場所に来ていた。セファはあの日のことを思い出した。この場所でジュンジェが戻ってくるのを待った日のことを…。
その時、傍らをバイクが走り過ぎた。溶けかかった雪を散らしてそれが足元にかかった。セファは思わず後ろにのけぞった。
ジュンジェはどこへ行ったかわからない。不安にさいなまれだしたセファはしゃがみ込んだ。
「幸せに暮らしてるのね。私のことは思い出せないみたいだった…結局、要らなくなったのね…」
セファは諦めて雪の降るままに身を預ける…。
そこへ一人の男がやってきて傘をさしかけた。
人の気配にセファは顔を上げる。
「どうした? また帰る気か?」
2人は目を合わせた。ジュンジェが左手を差し出す。セファはその手を握った。
「これが望みか?」
「…」
「自分が忘れ去られることを…俺にまで…どうして皆の記憶を消した? だから言っただろ」
「私を覚えてるの?」
「ああ…俺はお前を忘れなかった」
「どうやって?」
ジュンジェはセファを抱きしめた。
「バカだな」
「…」
「何度試しても二度と忘れない」
「そんなはずは…ないのに…」
ジュンジェはセファの身体を離した。
「お前の力の限界だ。…俺がお前とどこで何したか、お前が何を言ったか、どんな風に笑ったか…お前はすべて消そうとしたが、俺には効かなかった。俺の奥底に刻まれていた記憶だから、それはどうやっても消えなかったんだ」
「…」
「だけど、努力もした。時間が経つと記憶が混乱し始めたから。だから、毎日、必死に努力した…ノートに記録し続けたんだ。お前が去る前から、いつかお前に記憶を消されたら、記録の中ででも会いたいと思って…”俺は覚えてる””お前は俺の記憶を消すことを選んだようだが””俺の中には今もお前がいる””永遠に忘れない””必ずまた会おう”と書き連ねていった。そして折に触れ、それを読み返した。そしてお前が去ってからは、一年かけて、それらの記憶をつなぎ合わせた。次の一年はお前を捜した。水難にまつわる色んなニュースに触れたりしながらお前の姿を捜した。次の一年でお前と暮らす家を用意した」
―もっと海の近くの家はありませんか?
―ではこれは?
―大きすぎる。
―これは?
―狭すぎる。
―これはどうです?
―周りに人が多すぎる。
―これは逆に人けがなさすぎる。
そしてお前の帰りを待ってたんだ。
ナムドゥから電話もらった時、「やっとその日が来たか」と涙が出たよ。「ほんとに待たせやがって、お前ってやつは…」
★★★
「どうして?」セファは訊ねた。「本当に戻れないこともあり得たのに…」
「たとえ、そうなってもお前を忘れずに愛し続けた」
ジュンジェを抱きしめた。頬をすり寄せ目をつぶった。雪の降る中で時間は流れた。
セファはジュンジェと自分の過ごしていた部屋に立った。何もかもがそのまま残っていた。
「みんな昔のままね。2年契約だったんじゃ?」
「引っ越しを手伝うヤツが消えたから買った」
「…待っててくれてありがとう」
「お前も…諦めずに戻ってくれてありがとう」
セファはジュンジェにキスしようと近づく。受け入れようとしたジュンジェはとっさに後ずさりする。
「もう消すのは無しだぞ」
「…」
「ああは言ったけど覚えているのは…ほんとに大変だった」
セファは舌打ちした。横を向いた。
「消さないわよ」
ジュンジェは腕に手をやる。
「怒るなよ。ただ…お前を怒らせた記憶は消してくれ」
キスしようとするジュンジェにセファは顔を背ける。
「どうした? 嫌なのか?」
セファは階段を上がっていく。ジュンジェは追いかける。
「何だ、逃げるなよ」
セファは自分のベッドに腰をおろした。ジュンジェも腰をおろす。
互いに肩を預け合う。
廃品ボックスの中を漁ってるホームレスの女のそばからセファが中を覗く。ホームレスはびっくりする。
「お仲間なの? だったら」
すぐ説明を始める。
「服ならこっちで…」
「靴なら向こうよね」
「…詳しいわね」
女はセファの衣服を観察する。
「いい服を着てるのに何しに来たの?」
「あなたに会いに」
「私に」
頷く。
「会いたかったわ」
「どういう意味?」
女は怪訝そうにする。
「見知っている顔でも…会うのは初めてよね?」
「そうだわね。でも、出会いを大切にすれば、実りの多い豊かな人生になるの」
女はセファの言葉に感心した。自分がいろいろ教えた相手とは気づかずセファに好感を抱いた。
「私は人見知りだけど、あなたとは気が合いそうだわ」
「では仲良くしましょ」
「いいわよ。私は毎週…」
「そうそう、月水金に来るのよね」
女は引く。今度は疑念を持つ。
「もしかしてストーカー?」
「違うわ。恋人もいるんだから」
「そうなのね。どんな関係? 愛には段階があって…」
「ロマンス、パッション、ダーティー?」
女は仰天する。それは自分が金科玉条にしてる”愛の段階論”だったからだ。
「なぜ、それを…?」
「今はパッションの段階かしら…? 上級者向けのダーティーも目前よ」
女は呆然として言った。
「ひょっとしたら、前世の友達かしら…? 本当に気が合うわ」
にっこりするセファ。
「これから仲良くしましょ」
晴れてジュンジェと結ばれたセファは勉学に励んだ。セファのそばにジュンジェがやって来る。
「今日はこのくらいに」
参考書を閉じる。
「何するの。もうすぐ試験なのよ」
「だったらベッドでやればいい」
「…」
「勉強なら俺が教えてやるよ」
「人魚の能力を見くびらないで」
「なら安心じゃないか。どこに問題があるんだ」
と絡んだ後、いきなりセファを抱き上げる。抱き上げてベッドへ運ぶ。一緒に倒れこむ。そうしてジュンジェはキスをする。何度も何度もキスをする。…
ジュンジェは検事の最終面接を受けた。
「ホ・ジュンジェ君は非常に優秀な成績を収めています。どんな検事になりたいか教えてください」
「はい。私は地方検事になりたいです。どうせなら海の近くで働ければと願っています」
面接官は困惑し顔を見合わせた。
「私は束草に小さな家を買ったのですが、ぜひ、そちらに配属していただきたいです」
ジュンジェの話を聞いていくうち、面接官らは頷きあった。
ジュンジェとセファを乗せて海岸通りを車が走っていく。ジュンジェがひとりで幾度となく走った海岸通りだった。
海岸通りを走りながら2人は幸せいっぱいの笑顔を交わした。
俺たちは夢をかなえた。これといった出来事のない―とてものどかな村で、僕たちは今、平凡に暮らしている。
海岸を腕を組んで歩きながらジュンジェは言った。
「食べ過ぎじゃないのか?」
「私の食欲だと?」
「ああ」
セファはぽっこり膨らんだお腹を見せた。
「そうだったな。はっは、悪い悪い。ほかの部分が痩せててつい忘れちゃうよ。そういうことなら全部食べてくれ。これもな」
「いいわよ」
ジュンジェは前を向く。ため息をつく。
「俺の稼ぎで養うのは大変だな~」
「心配しないで」
腕に頬を押し付けるセファ。
「いくらでも涙製の真珠を作ってあげるから」
ジュンジェは笑った。
「そうか。頑張ってもらおうか」
「任せて!」
くだらないことで泣いて、笑う。喜び、悲しみながら、俺たちの時間は…穏やかに、今日も流れていく。
2人のくつろぐ部屋からは、広く、遠い海が広がっていた。
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