すべて打ち明けようとしたビリーの顔は一瞬にして凍りついた。言葉は引っ込み、口もとは冷たい氷にひっぱがされて骸骨が突き出そうになった。
アンナは平然として続けた。
「余計な話をしたわね。食べましょう。おいしいわ」
フォークとナイフで荒々しく肉を切り刻むアンナにビリーの額からは汗が浮いた。
先に外に出てアンナはビリーが出てくるのを待った。
ビリーは支払いをすませてレストランの階段をおりてきた。
遠くを見やりながら何もないただ真っ白な記憶の世界にアンナは入ってでも行こうとしている。
その様子をビリーはそっと背後から観察した。
「アンナ・・・ほんとにすまない。何も言えない僕を許してくれ。だけど・・・僕はまだ君が怖いんだ…」
アンナは出てきたビリーに気付いた。明るい声でビリーに呼びかけた。
「ごちそうさま」
アンナは歩いて立ち去ろうとする。
ビリーはアンナを呼び止めた。歩み寄った。
「また時間があれば、こんな風に食事など…」
「いいわ。次は私がジャージャー麺をごちそうするわ」
気安く応じてくれるアンナにビリーの萎縮した気分はほぐれた。アンナのご機嫌をうかがう・・・今までに何回も何十回もあったことだ。
ビリーは顔をほころばせて切り出そうとする。
「これからお茶でも」
と。
その時、アンナの携帯が鳴った。
「チャン・チョルス、どうしたの? ”車が届いた”? 事故があったのよ」
アンナは歩き出しながら続けた。
「心配するフリはやめて」
チョルスとの電話に夢中になり、ひとことの挨拶もせずアンナは離れていく。
捨て置かれてビリーは惨めな思いに沈んだ。
「チャン・チョルスなんか大嫌いだ!」
ドック母子たちが姿を見せ、チョルス家の夕餉は賑やかだった。粗末なメニューだがみんなガツガツとおいしそうに食べている。
しかし、美味しい肉をたらふく食べて帰ってきたアンナは食欲がなかった。チョルスたちの貧乏くさい食事を他人事のように眺めている。
「おいしいな」
「うん、おいしい」
アンナは黙ってお茶を飲んだ。
そんなアンナを見てチョルスが訊ねた。
「サンシル、何食べてきたんだ」
「何を食べてこようが、あんたと関係ないでしょ」
「・・・」
ケジュが言った。
「チャン・チョルス。今月の掛け金はいつくれるの?」
「ああ、そうだった。サンシラーッ、早く返せ。あれは掛け金なんだ」
「ツケておいて。あとで倍にして返すわ」
「そう言うが、使うあてなんてないだろが」
「あるわ」
アンナは反発する。
「時々必要なの。ジャージャー麺も出前するし…」
「ジャージャー麺はやめるんだろ?」
アンナはチョルスを見た。
「急にやめるのは無理よ。少しずつ減らしていくわ」
チョルスはアンナの屁理屈に返す言葉を失った。
「ごちそうさま」ケジュは言った。「満腹だし、退屈だから花札でもしない?」
「何、それ?」
ケジュが説明した。
「暇つぶしにやる最高の遊びよ」
「私は結構よ。時間を無駄にしたくないわ」
しかし、花札に一番夢中になったのはアンナだった。
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