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韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(43)
「院長の家を探していたんです」クムスンは声弾ませて答えた。「会えて嬉しいわ」
「俺の家? どうして俺の家に?」
「院長に会いに来ました。院長、お家におられますか?」
「いるよ。何のようだ?」
「院長に会ったらお話します。院長のお宅はどこですか?」
「冗談のつもりか?」
「はい。面白くないですか?」
「つまらない。ついて来い」
坂道を歩いて家に到着した。
大きな邸宅だ。その威容にクムスンは呆然とした。
「家が大きくてすごいですね・・・」
ジェヒがインターホンを押すと、「どなた?」という声が返ってきた。
「俺だよ」
「誰? 院長じゃないでしょ?」
「家政婦さん」
「ご家族は」
「何で?」
「ここに何人で住んでるのかと・・・こんな大きな家は初めて」
「まさか」
「ほんとよ。広すぎて掃除が大変そうね」
クムスンはリビングルームに通された。
窓からも大きな建屋の景観が広がっている。
「待ってて・・・母さん、どこにいる?」
ジェヒが大きな声で家族を呼ぶと大きな声が返ってくる。
「ここよ」
オ・ミジャは飲み物のカップを手に現れる。
「クムスン、なぜここに?」
「こんにちは。突然にもうしわけありません」
「そうね、本当よ。連絡もしないでどうしたの?」
「連絡するべきですが――来るなと言われるかと思ったので・・・そのまま来ました。お願いがあるんです」
「連絡もできないようなお願いなの? うちの場所はどうして知ったの?」
「ユン先生にお聞きしました」
「近くで迷ってたんだ」とジェヒ。
「そう? わかったわ。ともかくすわりなさい。話を聞くわ」
三人は席についた。
「院長、実は・・・給料の前借をお願いします」
「前借? まだ来て間もないのに?」
「今朝、副院長にお聞きしました――半年、過ぎないとダメだと・・・」
「聞いたのになぜここに? 私なら貸すとでも思ったの? 副院長がダメだと言ったのなら私もダメよ」
「何とかなりませんか? どうしても必要なんです。週末までに300万ウォンを用意しないと」
「困ってるからここに来たんでしょう。でも、職員1人1人の事情を聞いてたら、経営は成り立たないわ。残念だけどダメよ」
「どうしてもですか? 念書でも何でも書きます。毎日、残業もします。無理なのは分かってますが、どうしてもお金が必要なんです」
「・・・ダメよ」
院長のひと言にクムスンは落胆した。
この時、家政婦が顔を出した。
「奥様、お食事です」
「うん、分かった。夕飯を食べていって」
「絶対にダメですか?」
「ダメ・・・よ」
「すみません」
「さあ、食べるわよ。ジェヒ、食事にしましょう」
クムスンはうなだれて食堂に入ってきた。
オ・ミジャは一人でする毎日の食事に味気なさを覚えている。ジェヒと二人の夕食でも楽しそうなのに今日はクムスンが加わって3人。
夕食タイムがクムスンに最後の機会をくれたようだ。
席をとったクムスンは並べられたおかずにびっくりした。
「おかずが多いですね、院長」
「多くてもね・・・春だからか、食欲をそそるものがないの」
「おいしそうですけど・・・」
「だったら、いっぱい食べて。前借はダメだけど・・・昔、母が作ってくれた大根の葉素麺が食べたいものだわ」
クムスンはその言葉にすぐ反応した。
「私が作りましょうか? 材料さえあればできます」
ミジャはすぐに興味を示した。身をのりだすように訊ねた。
「作り方を知ってるの? 味付けも?」
「それは分かりませんが、作ってみます」
「そう? ならお願いするわ」
「はい。材料は冷蔵庫ですね?」
クムスンはさっそく準備にかかった。
ミジャはクムスンの準備や手際のよさに感心した。差し水にも興味を示した。
「水を? それは何?」
「沸騰するとき、水を差すとコシが出るんです」
「そうなの? 私は家事をしないから」
ジェヒもクムスンのテキパキした作業に感心している。
するうち葉素麺は出来上がった。
「ん? もうできたの? 味はどうかしら?」
「どうぞ、召し上がってください」
「おいしいわ」
麺をひとくちすすってミジャは満足そうにした。
「どうやったの?」
「特には・・・大根の葉キムチと素麺だけですよ。キムチの汁が少ないから水を少し入れ――氷を削って入れるのも省いて、砂糖は少しだけに・・・甘みが強いと料理の本来の味を損ないます。それで最後は味がぼやけるので――砂糖を少しにして、あとは・・・特に何もしてません」
どんぶりを抱えスープをすすってミジャは言った。
「でも、おいしいわ」
「よかったです。たくさんどうぞ」
「料理がうまいのね」
「よく作るから」
「自炊を?」
「はい」
「お母さんが忙しいのね」
「はい・・・」
「兄弟は?」
「一人っ子です」
「そうなの? 料理が上手だから、弟妹が多いのかと思ったわ」
クムスンの料理の腕に感心したミジャは、前借の理由を知りたくなった。
話によっては貸してもいいと思ったようだ。
黙って話を聞くだけのジェヒはクムスンの人間性は分かったつもりでいる。
「前借はなぜ? まさか、カード代金?」
「違いますけど、借金は借金です」
「返済を?」
「はい」
「正直ね。適当に言えばいいのに・・・自分の借金?」
「違います」
「わかったわ。本当はダメだけど――3か月分だけ貸してあげる」
「えっ?」
「それ以上はダメ。いい?」
「もちろんです、院長。3ヶ月だけでも十分です。ありがとうございます」
感激で涙を浮かべた。
「すみません。ずっと心配で不安だったから。院長、他にたべたいものはありませんか?」
「いいから、早く食べて」
クムスンがお暇する時、ジェヒも一緒に家を出てきた。
「お出かけですか?」
「ああ・・・DVDを借りに」
「こっちに下ればバス停が?」
「一緒に行こう。レンタル店もその近くだ」
二人は歩き出した。
歩く途中ジェヒが訊ねた。
「この間のあの男は誰?」
「誰?」
「美容室にいた人・・・」
「なぜ?」
「ただ、気になって・・・」
「なぜ気になるの?」
「話せよ。気になるんだ」
「話したくないんだけど」
「何を聞いてもはっきりしないな。家になぜ来たかを聞いても答えない」
「あなたこそ変よ。気になることが多すぎるわ」
「わかった、もういい」
話を切り上げ、早足になりかかった時、ジェヒは路面の段差に足を取られた。
転びそうになったジェヒを見てクムスンは笑った。
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
「ちゃんと前を見ないと。怪我した足でしょ。大丈夫?」
「大丈夫だってば」
「何で怒るのよ。私のせい?」
ジェヒは苛立った顔を振り向ける。
「罰金はいつ返す?」
「・・・どうしよう。給料も3か月分を全部使うから――しばらくは難しいです。1ヶ月の給料が50万ウォンで、3ヶ月でも150万ウォンだから、3ヶ月間は返せそうにないの」
「・・・」
「すみませんが――もう少し待てませんか?」
「分かった。3ヵ月後な」
クムスンはペコンと頭を下げる。
二人は一緒に歩き出す。
「そしたら、足りない金はどうする?」
「・・・」
「300万、必要なんだろ? 前借で150万なら、あと150万が不足だ」
「叔母もいるし、どうにかなるわ」
「俺が貸そうか?」
クムスンは足を止めた。
「150万なら貸せるけど」
「ほんとう? ほんとうに?」
「ああ、貸すよ」
「ほんとうに? でも、当分は返せませんよ」
「いいよ、返すのはいつでも。その代わり、話せよ。あの男は誰なんだ?」
「えっ?」
「美容室にいた男だよ。なぜ言わないんだ? 気になると気がすまないんだ。夜も眠れなくなる」
「なぜ、気にするの? それを聞くために貸すの?」
「ああ」
「150万が150に見えるのね。私が間違ってたわ。お言葉はありがたいけど、けっこうです。それじゃ失礼します」
そう言って先を歩き出す。
ジェヒはクムスンの後姿をにらみつけた。
「あいつ、死んでも言わないつもりか。自分にもプライドはあると?」
テワンに伴われシワンは退院してきた。
ジョンシムが待っていた。
「帰ってきたわね」
「家はやっぱりいいな。たった2日なのに1週間のようで」
「病院はそうなの。健康な人も病気になるのよ。身体はどう?」
「ほぼ、元通りさ」
シワンは自分の部屋に入った。すると携帯が鳴った。
ソンランからだった。
近くに来てるという。
シワンは出かけていった。
ソンランは高台のベンチに腰をおろしてシワンを待っていた。
「来たわね」
「意外だな、ここに来るなんて」
「そうね。私も来るとは思っていなかった」
「・・・」
「退院したの?」
「家に帰りついた時、電話を受けたんだ」
「そうなの。このまえ見たけどお父さんに似てるのね」
「そう?」
「あの短い時間にみんな見たのか?」
ソンランは笑顔になった。
「これでもデザイナーよ。細部までしっかり見れないと」
「どうしたんだ?」
「・・・会いたくなかった?」
「ああ。俺はお前を忘れるつもりだ」
「なぜ? どうしても忘れるの?」
「悪い冗談か?」
「いえ、違うわ。なぜ、結婚しなかったの?」
「見た目は正常なのに、何が足りずに結婚できなかった?」
「悪ふざけがすぎるよ」
「違うってば。悔しいからよ。あなたもバツイチならいいのに」
「・・・」
「そしたら、私もこんな惨めな気持ちにならなかった。結婚もせず何してたの?」
「ソンラン」
「ばかね。私もあなたが好きなのよ」
「・・・」
「そんなに偉いの。だから独りよがりして、私を追い詰め、あらん限りでいじめ、人間性を疑い、結局、1人で終わらせるの? 自分だけカッコつけて始めて終わらせれば――それでいいの?」
「じゃあ、俺に――他に何ができる? 気楽に会ったというのに――俺に何ができる? 離婚の事実も話さないのに――俺に何を望むんだ? 交際だけじゃダメなの? 結婚とか将来を考えず、恋愛だけじゃダメ?」
「・・・」
「お互い好きなのに・・・それじゃ、ダメ?」
「・・・」
「あなたが好きなの。逃がしたくないの」
「・・・」
「でも、方法がわからない。わからないの。私は現在のあなたで――あなたは未来の私を望んでる」
「・・・」
「でしょ? どうなの?」
「・・・」
「現在の私だけを好きになれない?」
ソンランの正直な気持ちに触れ、シワンは動揺を覚えていた。断ち切ったはずの恋情が再び戻ってきそうな予感に戸惑うだけだった。
「3ヶ月分だといくら?」
「150万ウォンです。給与が1ヶ月50万ウォン」
クムスンが300万ウォンの半分を工面してきたことで、スンジャの家では安堵の空気が流れている。
「ありがとう、クムスン」とスンジャ。
クマもお礼をいう。
「いいのよ、気にしないで。叔母さんも聞いてみました?」
「聞いてみたけど、やっぱりダメだった」
スンジャの言葉にちょっと暗い雰囲気が戻る。
スンジャは、銀行勤めの義兄に融資を頼むのはどうか、と提案する。
他にはないか、とジョムスンは訊くが、金を借りてない知り合いはいない、実家さえ私のかけた電話には出ない、とスンジャは答える。
私が義兄にお願いしてみます、とみんなを安心させ、クムスンは帰路につく。
家に帰りついた時、シワンはまだ帰宅していなかった。ジョンシムに訊ねると、テワンはお使い、シワンも出かけたという。
クムスンは部屋でシワンの帰りを待った。いつの間にかウトウトして夜中になってしまった。
みんな寝床だろうと思ってリビングに出ると、シワンがスモール灯の中で考え込んでいる。クムスンは声をかけた。
「お義兄さん。起きてました?」
「ああ。クムスンさんもまだ?」
「いつお戻りに? 退院したばかりなのに」
「ええ、まあ・・・」
シワンはくたびれた表情だ。
「何か食べるものでも?」
「いいえ。もう寝ますよ。先に寝ます。おやすみ」
「あ、あの、お義兄さま」
シワンは振り返る。
クムスンはシワンの元気のない表情が気にかかった。喉まででかかった言葉を呑み込んだ。
首を振って、おやすみ、の挨拶だけ返した。
キジョンの叱責がウンジュに飛んだ。
チャン家は相変わらずギクシャクした空気に包まれている。
クムスンがフィソンを連れてやってくると、スンジャの興奮した声が部屋中に響き返っている。
朝っぱらから電話で借金の取立てに遭っているのだ。
「必ず返すと言ってるでしょ。期限の1週間まで4日も残ってるわ」
「それならいいさ。人の娘を売り飛ばしたくないしな」
「返すから心配しないで待ってろ」
スンジャは電話を切った。
「あのクズどもめ」
クムスンが部屋に上がってくる。
「叔母さん、何だって?」
「日曜までに返せるか確認だって。クムスン、義兄に頼んでみた?」
「いえ、まだです。帰りが遅かったので」
「それでも待ってて聞かなきゃ。帰ってはきたんでしょう?」
クムスンに詰め寄るスンジャにクマが口をはさんだ。
「ママ、クムスンに当たってどうするの?」
「歯がゆいのよ。おかしくなりそう。あなたのパパはどうしてこうなの」
息子の不始末をなじられ、ジョムスンも目を落とした。
「今日、絶対に話すのよ。分かるわね」
「はい、もちろんです」
「絶対に150万、作らないといけないの」
「分かってます。心配しないでください。クマも心配しないで」
「どうやって心配しないの? もういやよ。夜まで待てないわ。どうしたらいいのか。義兄がダメといったらどうしたらいいのか・・・」
スンジャの心配はクムスンにも伝染した。
スンジャはジェヒのもとを訪ねた。
部屋のドアを叩こうとしたら、背後から声がかかった。
「白菜!」
ジェヒはクムスンの前に立った。
「俺に会いに来たの?」
「はい。お金を貸してください」
「いくら?」
「昨日の150万ウォンです」
「よし、わかった。じゃあ教えろ。あの男は誰?」
「兄です」
「お兄さん? 一人っ子なんだろ?」
「従兄弟のです」
「彼じゃなくて?」
「はい」
「分かった。ついてこい。すぐにおろすよ」
ジェヒにウソをついてまで金を借りるクムスンの決断は辛いものだった。
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